[58号] 尹錫悦『光復節』演説と「統一ドクトリン」を韓国社会はどう受け止めたか
サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
台風や大雨の被害などはありませんでしょうか。韓国の首都圏も今日(21日)、台風が変化した熱帯低気圧に覆われ激しい雨となっています。
最近あるラジオ番組で韓国の元国立気象科学院長が述べていた内容によると、韓国は緯度の関係で他の地域(文脈から世界平均のことと思われます)温暖化の速度が3倍速いそうです。また、100年前と比べて夏が一か月長くなり、冬は一か月短くなったとのこと。
「私たちがこれから過ごす夏の中で、今年の夏が最も涼しい夏になるかもしれない」という言葉もありました。子ども世代、そして気候変動の影響を受けやすい地域の人を考える場合、気候問題は喫緊の課題であると改めて思いました。
先の4月の韓国総選挙を通じ、韓国の歴史上はじめて「気候変動」に有権者の関心が集まったと言われていますが、尹錫悦政権は「原発ルネサンス」を掲げ原発輸出に熱を上げています。
さて、韓国の内外で書くべきことはたくさんあります。ここ最近は大きなニュースが続いていることもあり、腰を据えて社会を見ることが難しくなっています。こんな時、人には「見たいものだけを見る」傾向が出てくるのではないでしょうか。
特に韓国のように進歩・保守という政治的傾向によって時事問題の見方がはっきりしている社会では、SNSの持つ「エコーチェンバー(自身と似たような意見や情報が繰り返し表示される閉鎖的な環境)現象」とも相まって、次第に陣営間の交流が少なくなっていくように思えます。
なぜこんな奥歯に物が挟まったような言い方をしているかというと、8月15日の光復節に起きた韓国の陣営観の激しい争い、そして尹大統領の演説から浮かび上がる南北全面対決の未来と、保守進歩・南北という二つの軸がクロスする中で、どこに軸足を置くべきかを考えているからです。
これは簡単に結論が出る問題ではないので、焦る必要はありません。韓国社会が模索すべき問題でもあります。
さて、今号は二つのテーマを見ていきます。
一つ目は、前回のニュースレターでお伝えした尹大統領の『光復節』の演説、つまり北朝鮮への吸収統一宣言を韓国社会がどう受け止めたのかについてです。
二つ目は、韓国社会の進歩・保守両派の間で起きている分断の現住所についてです。特に、光復節の慶祝式が別途行われた点、そして尹大統領の演説にあった「危険な点」についてお伝えします。
三つ目は、批判が集まる尹政権の対日姿勢についてです。
韓国では19日から米韓連合訓練が始まるなどニュースが目白押しですが、本ニュースレターではもう少し15日の『光復節』演説について考えていきます。演説の内容は、様々な意味でとても重要なものです。
※こちらは前号です。
(1)韓国社会は尹大統領の「統一ドクトリン」をどう受け止めたか
尹大統領が今後、南北関係を今後どうしたいのかについて『光復節』の演説でどう述べたのか。前回の記事で詳しく解説しましたが、その骨子は以下の図にまとめられます。
「統一大韓民国」という名前が示すように、韓国は今後、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)を吸収統一すると公言したものです。
そのための戦略とアクションプランも提示しましたが、特に注目されるのは北朝鮮内部へと外部世界の情報を流入させ、自由統一(韓国への吸収)に対する熱望を育てるという部分です。
「対話の扉は開いている」とし、南北当局間の対話協議体を設置することを提案しましたが、全体の内容を見る場合にこれを受ける可能性は極めて低いでしょう。尹大統領の「統一ドクトリン」は金正恩政権との全面対決、そして南北対立における「最終決戦」を行うという内容に読み取れます。
・各紙社説を読む
各紙社説はどう反応したのでしょうか。
主要紙の16日付け社説を見ましょう。まずは保守紙から。
『朝鮮日報』は「対話のドアを開けておいて北の変化を導くべき」というタイトルでした。
内容は演説をなぞりつつ「統一はいかなる場合でも避けてはならないわが民族の歴史的課題である」とし、「北側が一時的に反発する可能性もあるが、北の内部変化を導かずして統一には一歩も近づけない」と政府を支持しながら「下からの変化」を模索するよう注文しました。
『東亜日報』は「尹『統一ドクトリン』…実効性が見えない‘自由の拡張’宣言」というタイトルでした。
内容は「推進方案を見ると、国内の思想戦、北韓に対する心理戦、国際的な世論戦」であり「北韓政権の崩壊論に基づく吸収統一政策と変わらない評価がある」と、厳しい見方を隠しませんでした。さらに実効性のある戦略がない上に、北側への対話の提案「一回限りのイベント用以上の意味を持たない」と切って捨てました。
15日に行われた『光復節』慶祝式で国歌を歌う尹大統領夫妻。国営放送KTVをキャプチャ。
『中央日報』は「慶祝式の失敗に悔いが残った統一ドクトリン…苦い光復節」というタイトルでした。
内容はまず、「政権発足から3年目に差し掛かる尹大統領が統一に対する詳細なビジョンと政策構想を出したこと」を肯定的に評価しました。
そして「南北が自由民主主義体制として統一国家になってこそ、完全な光復が実現する点、世界最悪の水準である北韓の人権が早くに改善される必要があるという点には異見はない」としました。
一方で「共存や平和に対する具体的な構想が見えない点」を指摘しました。また「北に対する強い表現や情報アクセス権の拡大などという発言は、北朝鮮を刺激し、ドクトリンの実現可能性を減らす効果もある」と批判しました。
以上保守3紙を見ましたが、ご覧のように保守紙だからと手放しで尹大統領の演説を称賛する形ではありませんでした。
次は進歩紙を見ていきます。