【デイリー・コリア・フォーカス】26年3月10日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
今日も韓国から徐台教が、「デイリー・コリア・フォーカス」3月10日号をお送りいたします。
まず一つ、お詫びがあります。
昨日配信したニュースレターの中に『京郷新聞』が作成したグラフがありましたが、「あれをそのまま送るのは著作権的に問題がある」という指摘を、幾人かの同業者からいただきました。
これはその通りで、記事からは削除しました。ですが、配信された分はそのままとなっています。権利関係は気をつけていたつもりですが、私の欲から来た失敗でした。今後はこのようなことがないようにします。
さて、毎日、新聞各紙の他に、韓国地上波3社のメインニュースを欠かさずチェックしていますが(依然としてテレビニュースのクオリティはあなどれません)、ここ2~3日、「中東戦争」に関する報道から受ける危機感がグッと上がりました。
昨日(9日)は特にそう感じました。韓国経済への悪影響が徐々に可視化しているからでしょう。
各地上波ともに、約60分のメインニュースの中で、約半分をイランでの戦況と韓国への影響の解説に充てています。なお、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の話は全く出てきません。この点については後述してみようと思います。
という訳で、今日の目次です。
1. 「三重苦」の韓国…イラン攻撃による経済への影響は不可避
2. 「尹錫悦復帰の主張に反対」最大野党・国民の力の全議員が決議文
3. 今日の時事韓国語「유조선」
1. 「三重苦」の韓国…イラン攻撃による経済への影響は不可避
韓国メディアには「三重苦」、「四重苦」という単語が踊っています。イスラエルと米国によるイラン攻撃に端を発した戦争の影響を示すものです。
具体的には、「ウォン安」、「原油価格上昇」、「物価上昇」、「株価安」といったものです。互いに影響を及ぼしながら、右を見ても左を見ても悪い状況を作り出しています。
戦争については日本でも報じられている通りです。書く必要があるか分かりませんが、一応言及します。
8日(現地時間)、イスラエルがイラン・テヘラン市内の石油貯蔵施設を爆撃し、一帯に「黒い雨」が降りました。さらに米国はイランの淡水プラントを爆撃し、30の村で飲用水供給が中断されました。イランは報復を宣言し、実際に、バーレーンの淡水施設を攻撃しました。
地上波「MBC」はエジプト発で、これらの状況を「民間インフラ攻撃へと戦争が拡大している」と報じています。
さらに、トランプ大統領がイランへの地上部隊派遣を検討しているという話もありました。イランが持つ10発分の核弾頭に相当する高濃縮ウラン450キロを、特殊部隊を通じ入手するというもので、これが実現するためには「イランの破壊」が前提になると伝えています。

夜9時のKBSニュースでは、15のテーマを取り上げ、約30分にわたりイラン攻撃と韓国への影響について扱いました。日本のNHKにあたる局です。同サイトをキャプチャ。
韓国の状況はどうでしょうか。昨日のニュースレターの末尾で触れたように、9日にはKOSPI(韓国総合株価指数)が5.97%下落しました。日本や台湾と同じように大きく下落した形です。
地上波「KBS」で韓国の専門家は「原油の供給網に影響を最も受ける地域はアジア市場」と指摘していますが、輸入が止まり、原油価格が上昇する点を指すものでしょう。
国際原油価格が1バレルあたり110ドルを超える中、ガソリン・軽油価格のニュースも続いています。
「KBS」によると、9日時点におけるソウルのガソリン平均価格は1950ウォン(約208円、1リットルあたり)、軽油1972ウォン(約210円、同)とのこと。
ガソリンスタンドによっては、軽油1リットルが2000ウォン(213円)を超える場所もあり、これが貨物輸送を行う運転手にとって大きな負担となっているそうです。
運送料が据え置きであることが理由ですが、同様の事情は観光バスにあります。利用料を値上げできない中、利益が減っていく状況が訪れているようです。軽油は一週間で約15%値上がりしたと「MBC」は伝えています。
これを受け、韓国政府は李在明大統領が主宰した9日の非常経済対策会議を通じ、今週中に「石油最高価格制」を導入することを決めました。
これは「石油産業法」で規定された制度で、政府が石油取引の上限額を定めるものです。超過分は政府が補償することになります。「KBS」によると、1997年に燃料価格が自由化されて以降、一度も施行されたことがないそうです。
実際に説明を聞くとややこしそうです。
精油会社が原油を輸入する際の価格(供給価格)に上限を設けるのか、それともガソリンスタンドが顧客に売る際の価格(販売価格)に上限を設けるのか、政府は議論を進めるそうです。
価格は二週間ごとに更新されるそうですが、9日、大統領府の金容範(キム・ヨンボム)政策室長は、「今の値段よりはまず下がる」と明かしています。
しかし、例えば上限を2000ウォンと定めるも、供給価格が2000ウォンを超える場合、供給価格・販売価格ともに補償することとなり、莫大な財政支出が予想されます。
「聯合ニュース」は供給価格に焦点を合わせ介入する見通しとしていますが、政府では補正予算も検討するとの見方があるようです。

10日の国務会議(閣議)で燃料価格の高騰について言及する李在明大統領。政府広報KTVをキャプチャ。
影響は石油化学や航空業界にも及んでいます。
9日、韓国最大のエチレン生産社である石油化学会社『麗川(ヨチョン)NCC』がはじめて供給者に「供給不可抗力」を宣言しました。
「MBC」によると、不可抗力条項というのは「戦争、天災事変など外部の要因により契約履行が困難な時に、責任を免除される条項」とのことです。どの契約書にも基本的に書いてあるものです。
韓国南西部の麗水市で大型施設を稼働させている同社(本社はソウル)では、原油を精製したときにできる「ナフサ」を輸入し、プラスチック、ビニールなどの原料になる「エチレン」を生産しています。
同社は「ホルムズ海峡の封鎖によりナフサの供給が遅れている」ことを理由に、「供給不可抗力」を宣言しました。こうした現象は今後、他の業種にも広がるのではないかとされ、さらに「エチレン」の値上がりも不可避と見られています。
「KBS」によると2025年基準、韓国が輸入するナフサの58%を中東が占めているためです。UAE24%、カタール13%、クウェート5%といった形です。
ナフサの価格は戦争勃発後、20%以上値上がりしていて、原料価格の上昇と運送価格の上昇というダブルパンチの状況です。「MBC」によるとイラン攻撃後、中東からの運送価格は72%上昇したそうです。

『麗川(ヨチョン)NCC』のホームページ。余談ですが、麗水(ヨス)はとてもよい所です。拙著『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』に取り上げたような、悲しい歴史もありますが...。
航空機の燃料の値段も値上がりしています。2月27日の93ドル(1バレルあたり)から、230ドルあたりまで上昇しているとのこと。
大韓航空の場合、年間3050万バレルを給油するため、現状が続く場合、年間数兆ウォン(数千億円)の追加費用が発生し、4月以降は航空機利用者の負担も増えると「MBC」は伝えています。
また、韓国の主力産業である半導体製造に使う原料をバーレーンやイスラエルから輸入しており、今後の動きによっては韓国経済の全般に影響が出るとしています。
そしてこんなコスト増は最終的に、消費者の物価にのし掛かってきます。
「KBS」はIMF(国際通貨基金)総裁の「国際エネルギー価格が10%上昇する場合、インフレ率が0.4%上がる」というコメントを紹介しています。
韓国での物価は、直近6か月の間、前年比2%台の上昇と比較的抑制されてきましたが、国際原油価格が10%上昇する場合、消費者物価は0.2%上昇するとのことです。なお、戦争勃発後、原油価格はすでに50%上昇しています。
これにウォン安が輪をかけます。
9日時点で1ウォン=1495.50ウォンですが、同社によると、これはリーマン・ショック以来、17年ぶりの安値とのことです。戦争の不安で基軸通貨の価値が上がる点が影響しています。
このように、ウォン安・原油価格上昇(輸送費上昇)・原材料費の上昇などが、物価高となって最終的に押し寄せてくるでしょう。

青瓦台(大統領府)の金容範(キム・ヨンボム)政策室長。切れ者として知られます。政府系KTVよりキャプチャ。
厳しい現状を前に、李在明大統領は前出の非常経済対策会議で「今後の展開様相は予断を許さないため、政府は最悪の状況まで念頭において、非常な覚悟で先制的な対応策を作らなければならない」と発言しました。
また、「エネルギー価格の上昇による物価の負担は、庶民たちに最も早く、最も大きく影響を及ぼす」と対策を強調しました。
韓国各紙は韓国の油類の備蓄分を208日分としていますが、実際には4か月程度(2か月とも)とのことです。戦争が長引く場合には、エネルギーの節約といった、また別の影響が出るかもしれません。
なお現在、ホルムズ海峡内に韓国籍の船26隻と船員183人が停泊しているそうです。うち7隻はタンカーとのことです。
2. 「尹錫悦復帰の主張に反対」最大野党・国民の力の全議員が決議文
何度もお伝えしてきた、最大野党・国民の力のニュースです。
「尹錫悦絶ち」ができないまま迷走を続け、このままでは6月3日の統一地方選では‘必敗’とされてきましたが、ついに一歩前に踏み出しました。
9日、同党は国会で、所属議員107人全員が参加した緊急議員総会を開き、決議文を発表しました。内容は以下のものです。短いので記録を兼ね全文を掲載します。
●国民の力議員決議文
尊敬する国民の皆さん、私たち国民の力の国会議員全員は、以下のように決議します。
第一に、誤った12·3非常戒厳の宣布により、大きな混乱と失望を与えたことについて、改めて国民の皆さんに申し訳ない気持ちでお詫びいたします。
第二に、尹錫悦前大統領の政治的な復帰を求める一切の主張に、明確に反対します。大韓民国も、国民の力も決して、過去に戻ることはできません。私たち国民の力は、生まれ変わるという姿勢をもって、国民と共に、未来へ決然と前進します。
第三に、党内構成員間の対立を増幅させる、すべての行動と発言を中止し、大統合に取り組みます。党の戦列を乱し、党を過去の枠組みに縛り付ける一切の言動を断ち切ります。国民だけを見据え、すべての力を一つに結集します。
国政の正常化は、ただひたすら、与野党間の政治的バランスに基づく憲法的な抑制の原理から(のみ)出発することができます。
国民の力は、李在明政権の反憲法的な暴走に対抗するため、自由民主主義の守護、司法破壊の阻止、憲法価値の尊重に同意するすべての国民と連帯します。
国を心配し、愛するすべての国民を一つに結集し、大韓民国の憲法の価値と国民の自由を守るために、決然と戦っていきます。そして、来たる6·3地方選挙(統一地方選)で必ず勝利します。
2026年 3月9日 国民の力 国会議員一同
いかがでしょうか。
政治的な立ち位置によって、「何をいまさら」と取るか、「ようやく」と取るかが分かれるでしょう。
与党・共に民主党の韓秉道(ハン・ビョンド)院内代表(国対委員長に相当)は10日、「当たり前の事実を前に、決議文まで出す国民の力が公党なのかすら疑問」と厳しく批判しています。
同氏は「尹錫悦と絶縁するというのか、尹アゲイン(尹錫悦の復権を求めるスローガン)に反対するのか」と、決議文の曖昧なメッセージも指摘しています。これは私も思いました。
確かに、上記のメッセージには「決然と」いう言葉が二度出てきますが、「決然と尹錫悦と決別する」とは言っていないため、曖昧だという批判も成立します。
この辺は、張東赫(チャン・ドンヒョク)代表はじめ、党内の強硬派がぎりぎりで譲歩したものでしょう。
なお、『朝鮮日報』などによると、張代表は議員総会でひと言も話さず、決議文の作成にも加わらなかったとのことです。

呉世勲市長。同氏のFacebookより。
また、同党で最も知名度のある政治家で、現役のソウル市長でもある呉世勲(オ・セフン)氏が8日、党の路線変更を求め、党内の予備選に候補登録をしない「荒療治」を行った影響があると見ることもできます。
各紙社説もこの一件を取り上げています。国民の力に厳しい指摘を続けてきた保守紙『朝鮮日報』は「正常化への始まり」といったん評価しています。
他方、やはり保守紙の『東亜日報』は「張東赫代表の今後の行状を見るべき」と、その間ずっと「尹錫悦絶ち」を拒否してきた張代表への疑いの目を隠しません。
6月3日の統一地方選挙において与党に勝つためには、国民の力は少なくとも二段階の「進化」を経る必要があります。
まずは支持層の結集です。先の呉世勲ソウル市長、そして党を追われた韓東勲(ハン・ドンフン)元代表などを押し出し、尹錫悦氏や張東赫氏に辟易としていた元支持層を集める必要があります。
さらに、中道層の支持を得る必要があります。韓国の有権者層の分布は、今なお進歩3:保守3:中道3の構図が続いています。これは中道層を取る陣営が勝利することを意味します。政策をもって、与党に勝負を挑む必要があるでしょう。
いずれにせよ、国民の力は今回の選挙で苦戦を免れません。しかし、2028年の総選挙、2030年の大統領選を見越し、党を再建しなければなりません。果たしてそれは可能でしょうか。
3. 今日の時事韓国語「유조선」
「ユジョソン」と読みます。漢字では「油槽船」です。タンカーのことです。最近のニュースでは聞かない日はありません。
漢字を見れば一目瞭然ですが、音だけ聞くと、なんだか分からない単語です。韓国における漢字教育というのは、永遠の(?)議論のテーマですが、大事なのは間違いないですよね。
今日はここまでです。
本来、3番の記事として、とある北朝鮮関連の記事を紹介する予定でしたが、1番の記事に力を入れ過ぎて文字数オーバーです。
私自身、イラン攻撃が韓国経済にもたらす影響について、きちんと事実関係を押さえておきたかったこともあり、字数を割きました。北朝鮮の話は明日、改めて行います。
なお、地上波「SBS」が9日に報じたところによると、駐韓米軍のパトリオットの砲台は先週末、韓国の烏山(オサン)空軍基地からサウジアラビアとUAEに向けて移送されたそうです。
また、韓国では韓米合同訓練が9日から始まっており、10日には金正恩氏の妹・金与正朝鮮労働党部長が談話を通じ、これを強く非難しています。
このようにニュースは尽きません。
それではまた明日。明日は少し短くします。
アンニョンヒケセヨ。ありがとうございます。(徐台教)
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