【デイリー・コリア・フォーカス】26年2月12日号
皆さま、アンニョンハセヨ。
今日も韓国から徐台教が、2月12日の「デイリー・コリア・フォーカス」をお送りいたします。
政治の話題をどう扱うのか少し悩んでいます。
韓国の報道番組は政局の話が大好きなので、扱う内容には事欠かないのですが、このニュースレターであまり詳しく扱うのもちょっと違うかな、といったところです。
それよりも、韓国の民主主義にかかわる方面の話をお伝えした方がよいかなと、考えております。
いま進んでいる司法改革もそこに入りますが、これは随分とややこしいので、ゆっくりと整理していきます。
そんな訳で、今日の目次は以下の通りです。
1. 「地図は渡さない」…米国の要求に粘る韓国政府
2. 開城工業団地の閉鎖から10年、遠い再開
3. 「差別禁止法をぜひ」、文在寅元大統領に集まる非難
4. 今日の時事韓国語「페이스북」
1. 「地図は渡さない」…米国の要求に粘る韓国政府
一度は決着した関税交渉を、韓国側の「遅れ」を理由に蒸し返している米国。苦しい再交渉は今も続いています。
11日には、米国の貿易代表部副代表が韓国を訪れ、韓国産業通商部の通商交渉本部長と議論を深めました。
米韓の間ではデジタル分野が、悩みの種となっています。
特に「デジタル障壁」と呼ばれる分野での衝突が目立っています。
具体的には、ネットワーク使用料やオンラインプラットフォームへの規制といった、韓国政府による米国企業への締めつけ緩和を求めるものです。
ネットワーク使用料というのは、NetflixやGoogle、AmazonやMicrosoftといった巨大企業に対し、韓国のネットワーク網を利用する費用を徴収するものです。
つまり、通信社にお金を払うようにするもので、他の韓国企業と同じように適用されます。しかし上記の企業は、「利用者は既に通信社にネットワーク使用料を払っている」ことを根拠に、「二重の徴収である」と反発しています。
他方、オンラインプラットフォームへの規制というのは、上記のような巨大テック企業の市場の独占を防ぎ、取引業者を守るための公正化法がこれに当たります。
あくまで「国内企業と同じ基準」と言い張る韓国政府に対し、米側は「米国企業への差別」という姿勢を崩していません。
背景には米企業によるロビー活動が存在するのは言うまでもありません。韓国政府にも当然、「国内企業の利益を守る」という目的があります。
米国が指摘するこんな「デジタル障壁」の中で、最も分かりやすいのが「精密地図の搬出」を禁止することです。
皆さんもスマホの「Googleマップ」はずいぶん重宝していると思います。道案内には欠かせません。私も日本出張の際、ずいぶんお世話になりました。
しかしこれ、韓国ではあまり役に立ちません。
なぜなら高精密地図、つまり「5000分の1」の縮尺の地図を、韓国政府がGoogleに渡していないからです。
理由は安全保障上の理由のためです。未だ朝鮮戦争の停戦状態の中にある韓国は、各地に存在する軍事施設の位置が露呈しないようにと、地図の提供を拒んでいるのです。
地図搬出のニュースを伝えるSBS。
なお、地上波『SBS』によると、中国やロシア、台湾やイスラエルなども安保上の理由で、高精密地図の搬出を禁止しているそうです。
約20年にわたる度重なる米側からの要求もあり、韓国政府は昨年、▲安全保障施設をブラインド処理し、▲同施設の座標の露出を禁止し、▲データサーバーを韓国内で運用するという、三つの条件を付けたそう。
しかし今なお、データサーバーを国内に置く点で決着を見ていないようです。
韓国政府の本音はもう一つあります。
それは自律走行(自動運転)など、地図データを基盤とする産業の発展に備え、Googleへの監督を強めたいという点です。自国産業保護、ということです。
また、市民団体も「データ主権」を盾に、高精密地図の搬出に強く反対しています。地図は「戦略資産」であるということです。
『SBS』では地図を搬出する場合、国内の産業界に今後10年間で最大197兆ウォン(約20兆8000億円)の損失が出るという専門家の研究を紹介しています。
この地図の話は、米韓の間でずっと問題になっており、忘れた頃に浮上します。しかし、一種の死活問題であるのは確かであるため、韓国政府にも譲れない部分があります。
厳しい交渉が続きます。
韓国社会の一部には「日韓が協力して米国に対抗できれば」という期待がありますが、現実にはなかなか難しいようです。
逆に日韓が米国への忠誠の深さを争うような構図になる場合、韓国はより厳しくなるというコラムもありました。
2. 開城工業地区の閉鎖から10年、遠い再開
2月10日は、開城(ケソン)工業地区の閉鎖から10年になる日でした。
韓国では「開城工団(ケソンコンダン、開城工業団地の略語)」で知られる同地は、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)内に韓国が造成した工業団地です。
板門店からわずか数キロしか離れていない最前線に位置する、軍事的要衝だった地でしたが、2000年に韓国の民間企業・現代蛾山(ヒョンデアサン)と北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会、民族経済協力連合会が合意し、その歴史は始まりました。
北朝鮮側は軍を後退させ、2000万坪を提供、2003年に着工し、2005年から正式に稼働を始めました。電力提供やインフラ建設は韓国側が担当しました。
開城工団の特徴は何より、進出した韓国の企業で北朝鮮住民が働くことにありました。
韓国企業にとっては、安い賃金(企業は一人当たり最大で150ドル前後を北朝鮮に支払っていた)で人を雇えるメリットがありました。
北朝鮮にとっても安定した外貨収入が生まれました。現地労働者にとっては、整った職場環境や、しっかりした食事が提供されることから人気の職場でした。
その後、南北情勢に翻弄されることもありましたが、こんな南北のウィンウィンの構図はある程度機能し、規模を広げていきます。
稼働当時の開城工団内部の様子。北朝鮮労働者の技術は高く品質は写真は開城工業団地支援財団提供。
しかし16年2月10日、当時の朴槿惠(パク・クネ)大統領は、開城工団の閉鎖を決めます。理由は、同年1月の北朝鮮による4度目の核実験でした。
朴大統領は、開城工団に韓国から合計で6160万ドルの現金が流入し、さらに政府と民間の投資額が約1兆ウォンに及んだと指摘、この資金が核弾頭と長距離ミサイルの高度化に使われたと主張したのでした。
後に全く根拠のない話であることが分かったものですが、この「鶴の一声」で124の韓国企業に約5万5000人が働くところまで成長した開城工団は閉鎖となったのです。
それから10年。
2月10日、開城工団に入居していた韓国企業の役員80人は、北朝鮮への「税関」の役割を果たす南北出入事務所前で会見を開き、「開城工団に行きたい」と声を上げました。
この動きを伝えた『聯合ニュース』などによると、閉鎖から10年が経つ中、過去に開城工団に進出していた企業のうち、30%以上が休業または廃業を選んだそうです。
会見ではまた、韓国政府に対し、南北経済協力の再開を訴えると共に、残る支援金830億ウォン(約90億円)の支給を求めました。
2016年に政府が一方的に閉鎖を決めたことで、経済的な損失を被ったということです。政府の支援はあったものの、はるかに不足していると主張しました。
さらに最近、米国政府が人道支援に関する分野において、北朝鮮への制裁免除を決めたことを例に挙げ、開城工団に参加していた企業の訪朝に向け努力してほしいと、政府に要請しました。
開城工団閉鎖から10年をめぐっては、鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一部長官が、こう述べています。
「開城工団の一方的な中断と閉鎖は、南北間の信頼を崩壊させ、国民の心に深い傷を残した愚かな決定だった。深い遺憾を表さずにはいられない」
昨日のニュースレターで取り上げた、10日にソウルの明洞聖堂で行われた「民族の和解と一致を求めるミサ」での一コマです。
それでは李在明政権下で、開城工団の再開はあるのでしょうか。
一部の施設を北朝鮮が稼働させているというニュースもありましたが、施設は全般的に老朽化しています。何よりも、南北関係が最悪の断絶状態に陥っていることから、再開は不可能と見られています。
再開の機会は既に、文在寅政権時代(17年5月~22年5月)に失われてしまったのです。
拙著『分断八〇年』にも「いつ開城工団を再開すべきだったのか」という問いを立て、専門家のコメントからその答えを求める部分があります。
返す返す、再開に踏み切れなかった文政権当時の対応が悔やまれるところです。
3. 「差別禁止法をぜひ」文在寅元大統領に集まる非難
今日は最後に、その文在寅さんの話で終わります。
文在寅さんといえば、読書家として知られ、在任中にも読んだ本が話題になるほどでした。
退任後は故郷・釜山から約1時間ほど離れた梁山(ヤンサン)市で『平山書房(ピョンサンチェッパン)』という書店を営んでいます。
小さな本屋ですが、23年4月の開店以降、毎日、文在寅さんが店頭に立つという話題性もあり、半年で8万冊の本を売り上げたそうです。
今も基本的に毎日午後4時から文在寅さんが店頭に立ち、サインや写真撮影に応じています。私も昨年5月の韓国大統領選を控えた時期に訪問してきました。よい所でした。
当時、『平山書房』で撮影した写真。
その文在寅さんが11日午後4時頃、Facebookと書店のHPを通じ、ある本を紹介しました。定期的に公開される文在寅さんセレクトの本はベストセラーになることも多く、同氏は書評家の役割(?)も果たしています。
この日の本は『差別していないという錯覚』。25年10月に出版された本で、著者はホン・ソンス淑明女子大学教授です。
気鋭の法学者として、韓国におけるヘイトや差別の問題に切り込み、その改善に向けた活動も積極的に行っています。メディアへの露出も多く、著名な人物です。
文さんは本をこう紹介しています。
差別とは何で、なぜ悪いのか。差別がどう構造化され隠ぺいされるのか、差別の禁止が逆差別で、表現の自由を侵害するという主張は正しいのか。
そして差別禁止法がなぜ必要なのかまで、広く扱う教科書のような本です。
いま韓国社会の嫌悪(ヘイト)と差別は深刻です。民主主義が発展し、市民意識が成熟すれば、嫌悪と差別が少なくなると思われていましたが、そうではありませんでした。
逆説的にも、民主主義が輩出した極右。極端な勢力が力を得て嫌悪と差別を煽る出来事が、世界各地で起きています。
韓国社会の移住民(移民)に対する嫌悪と差別も、とても恥ずかしい水準です。
韓国は移住民の比率が5%を超える多文化国家です。農業と漁業はもちろん、建設業、造船業、中小製造業まで、移住労働者なくしては支えていくことが不可能なのが実情です。低出生率により移住労働者に対する依存はこれからも大きくなっていく外にありません。
それならば、私たちは今、いったい彼らと共存する準備ができているでしょうか。多元化された世の中で、嫌悪と差別を放置し続けるのならば、韓国社会は必然的に深刻な葛藤と分裂に陥る外にありません。
包括的差別禁止法が必要な理由です。
世界の多くの国に存在する差別禁止法を、私たちが今に至まで立法することができなかったのは政治の失敗であり、私もまた、その責任から自由でいられません。
同性婚を合法化するという、一部の宗教界などの根深い不信と反対を説得できなかったためです。
しかし今やこれ以上、先延ばしにしてよいものではありません。韓国社会が立法の決断を下すべきです。平等に共存する世の中を望むのならば、読むべき一冊です。※太字は徐台教
同書の書影。写真がホン・ソンス教授。
ここまで読むと、単純な良い話のように思えますが、今回はそうではありませんでした。
著者のホン・ソンス教授が自身のFacebookで文在寅さんの紹介を取り上げながら、文氏に対しこう述べたからです。
今まで(差別禁止法の)立法が遅れていることに対し、最も大きな責任がある方なのに、反省とまではいかずとも、在任時に推進できなかったことに対する後悔があるとか、少なくとも残念だというくらいの言葉があってもよかったのではないか。
その上で、最近、発議された差別禁止法について、文在寅さんが籍を置く与党・共に民主党の中で「動力が全く形成されていない」と言及しました。何を人事のように、といった反応です。
この出来事はリベラル紙『京郷新聞』で記事として取り上げられました。
ホン教授は今日12日にもFacebookに、この件について書き込みました。それでも文在寅さんの前述の紹介文に「本人も責任から自由ではない」という部分があったと再評価しました。
なお、今国会で発議されている「差別禁止法」については、1月13日の「デイリー・コリア・フォーカス」でお伝えしています。
そうでなくとも最近、文在寅元大統領に対する、進歩派市民からの風当たりは強まる一方です。
尹錫悦を統制できず、政権を明け渡したことに対する怒りや、先の開城工団の例のように「突き破るパワー」が足りない姿への失望です。
こんな「弱さ」が「強い」李在明を求める原動力にもなっています。上記の文在寅さんのFacebookの投稿にも、厳しいコメントが並んでいます。
4. 今日の時事韓国語「페이스북」
「ペイスブッ」と読みます。「Facebook」の韓国読みです。
韓国ではXが主流の日本とは異なり、知識人や論客間の重要な議論は今もFacebookで行われています。長い文章も多く、なかなか読みごたえがあります。
その代わり、若者の姿はどこにもありません。
今日はここまでです。
書いている内に長くなってしまいました。
毎日の「デイリー・コリア・フォーカス」を15分ほどの動画にまとめ、YouTubeやポッドキャストで配信したいのですが、今はマンパワーが足りず、できません。遠からずやってみますね。
14時からは、重要な裁判の一審判決が中継されています。
24年12月3日の非常戒厳の際、行政案全部長官だった李祥敏(イ・サンミン)氏が被告です。
当時、尹錫悦氏に対し批判的な一部メディアに対し「断水・断電」措置を指示するといった「内乱重要任務従事」の疑いです。
ここでも先の韓悳洙(ハン・ドクス)国務総理の一審判決時と同様に、尹錫悦の非常戒厳が内乱だったのかどうかに対する判断がある予定です。検察は15年を求刑しています。
明日また説明します。
それではアンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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