[67号] 年末のご挨拶といくつかのニュース整理、そして25年の見通し
サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。
この「アンニョンハセヨ」というのは挨拶であると同時に「安寧ですか」と意味を持たすこともできる言葉です。実際にそういう使い方をすることはありませんが、おそらく今の韓国では「アンニョンハセヨ」と言う時に「そんなはずはないよな」と感じる方が多いのではないでしょうか。
それほどに厳しい12月となりました。3日深夜の非常戒厳から続く政治的な混乱に加え、昨日29日の飛行機事故。
SNSでは識者と呼ばれる人々の「国運が尽きたのではないか」という書き込みがやたらと目に付きます。これは歪んだナルシシズムの表れに過ぎませんが、ずっしりと重い時が流れているのは確かです。
実はその間、3本を記事とニュースレターを配信しようと思いましたが、途中で止めてしまいました。うまく文章がまとまらなかったためですが、そのせいで前回のニュースレターからずいぶんと間が空いてしまいました。お待たせしてしまい申し訳ありません。
今日はもう12月31日ですよね。韓国は陰暦の正月を祝うので(今年は1月29日が正月です)、日本のような年末年始の雰囲気はありません。日本で年末年始を最後に過ごしたのはもう15年前になり、なんだかあのコタツとみかんが懐かしくもあります。
今号ではいくつかのニュースや展望の整理だけしておこうと思います。内容は以下のようになります。
(1)尹錫悦の『12・3非常戒厳(12・3内乱)』その後
(2)済州航空惨事について
(3)北朝鮮の朝鮮労働党中央委拡大総会
(4)2025年の見通し
(1)尹錫悦の『12・3非常戒厳(12・3内乱)』その後
●尹氏は内乱罪に相当
尹錫悦大統領による12月3日の非常戒厳に関する捜査は着実に進んでいます。ちなみに、尹氏は14日に国会で弾劾訴追案が可決されたことで職務停止となりましたが、大統領のままです。
非常戒厳の全貌に関しては未だ捜査中です。しかし重要な進展がありました。
検察が27日に金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防部長官(戒厳当時の国防部長官)を「内乱重要任務従事および職権濫用権利行使妨害」の嫌疑で起訴した際に、尹氏を「主要な共犯」と明確にしました。
そればかりか検察は金前長官をはじめ尹氏を含む人物11人の行為が「国憲の紊乱にあたる」と明示しました。
具体的には「大統領が違憲・違法な非常戒厳を宣布、違憲・違法な布告令を発令し、武装した軍と警察を動員し国会を封鎖」、「国会、中央選挙監理委員会などを掌握した後、違憲・違法な布告令に基づき、国会議員など主要人士と選管委の職員を令状なく逮捕・拘禁しようとし、選管委の電算資料を令状なく強制捜査しようとした」といった行動を根拠に挙げています。
これを「議会制度を否定し、令状主義に違反するものであり、憲法機関である国会と選管委の権能の行使を不可能にする結果を招く」原因であると十分に見なせるというものでした。
「国憲の紊乱」というのは憲法機関の権能行使でできなくすることと刑法91条で定められており、これは同87条に規定される内乱罪の構成要件を満たすものです。
つまり検察は尹氏が「内乱の首魁」であると主張することになります。
また「多数の武装戒厳軍と警察を動員したこと」などを根拠にこれが「暴動を起こしたもの」という判断も付け加えました。尹氏側の「内乱ではない」という主張に正面から反駁するものです。
非常戒厳を宣布した当時の尹大統領。今改めて見ると、顔つきが虚ろです。3日、YTNをキャプチャ。
●「戒厳は警告用」という尹氏のウソ
検察が公開した10ページの書類には、非常戒厳当時の尹大統領の生々しい発言が引用されています。いくつか並べてみます。
「まだ入れないのか、何をしているんだ。門を壊して入って(国会議員を)引きずり出せ(注:非常戒厳解除決議案の採決を妨害しようとした)。銃を撃ってでも門を壊して入って引きずりだせ」(ヨ・イニョン国軍防諜司令官に対し)
「国会に入ろうとする国会議員をすべて逮捕しろ、捕まえろ。違法なんだ。国会議員はみな、布告令違反だ、逮捕しろ」(チョ・ジホ警察庁長官に対し)
「国会議員が150人を超えてはならない。本会議場の門を壊してでも中に入り、国会議員たちを引きずり出せ」(クァク・ジョングン陸軍特殊戦司令官に対し)
こうした証言からは非常戒厳の当日、紛れもなく尹氏が最高司令官であったことが分かります。
それと同時に、尹氏や尹氏の弁護団側が強弁している「国民たちに巨大野党の反国家的な悪事を知らせ、これを止めるよう警告するもの」という戒厳の目的が完全にウソであることが浮かび上がってきます。
●捜査はどうなっているか
今日30日午前0時、高位公職者犯罪捜査処(公捜処コンスチョ)を中心とする共助捜査本部(日本メディアでは合同捜査本部と称しています)は尹氏の逮捕令状を請求しました。
このニュースレターを書いている31日午前4時現在、裁判所がどう判断するのか結果はまだ出ていません。日をまたがずに決まるとされていましたが、判断に時間がかかっているようです。いずれにせよ、逮捕令状の請求自体が韓国の76年間の憲政史上初めての出来事です。
背景には、尹氏が公捜処からの出頭要請に3度応じなかったことがあります。3度応じないと逮捕されるというのは慣例のようで、それに則った形です。
しかし韓国メディアでは令状が発付される場合にも、公捜処がすぐに執行に乗り出すのかは分からないとする見方が大勢を占めています。大統領警護処との衝突が予想されることもあり、令状を一つの根拠とし、尹氏に4度目の出頭要請を行うと見ているようです。
一方の尹氏側は、この逮捕令状に問題があるとしています。根拠は「公捜処は内乱罪を捜査する資格がない」というものです。
この指摘の半分は当たっています。公捜処法には捜査できる違反行為が具体的に示されていますが、内乱罪は含まれていません。一方で「職権濫用」は含まれています。
先に見た金龍顕前国防長官の起訴内容にも「職権濫用」が入っていることからも分かるように、ここから迂回して内乱嫌疑にたどり着くという構えのようです。
公捜処にはさらに大統領に対する「公訴権」を持たない(検事・判事・警察高官については持つ)という問題があります。つまり捜査はなんとか行っても、これを起訴することはできません。起訴は検察だけができます。
ここまで読まれても何の事かよく分からないと思います。一旦、下記の表をご覧下さい。
朝鮮日報が作成した表を私が日本語に翻訳したものです。
つまり、内乱罪の捜査ができるのは「警察」だけ、そして捜査結果を元に起訴できるのは「検察」だけです。しかし現在は捜査は「公捜処」が行っています。なぜでしょうか。
すべて説明すると長くなってしまうので、結論だけ述べますと、警察は今回の『12.3非常戒厳』に関与してしまったためです。既に多くの映像でご覧になられたと思いますが、国会議員の国会出入りを警察は妨害しました。
これを指揮した内乱の容疑で今月11日明け方、警察庁長官とソウル警察庁長が逮捕されています。このように警察は捜査の第一線に立てない状況が少なからず存在する上に、大統領という高位公職者の犯罪であるため公捜処に一本化しています。
国会を封鎖する警察。3日晩、徐台教撮影。
次に検察です。