【デイリー・コリア・フォーカス】26年4月6日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
4月6日、月曜日です。すっかり遅くなってしまいましたが、今日も韓国から「デイリー・コリア・フォーカス」をお送りいたします。
新しい一週間の始まりですね。
今朝は少し離れた地域で朝から取材があり、その後も仕事が重なったため、夜になってからようやくニュースレターに取り掛かっています。
それにしても何度も見ても、地下鉄で大勢の人がスマホに目を落としている姿には慣れませんね。ネットに物を書いている私が言うことではないかもしれませんが…^^。
今日の目次は以下の通りです。本来は4つの内容を準備していたのですが、2つは明日以降に回します。
1. ‘過去事清算’を牽引する「済州4·3事件」、その現代的な意味
2. 今日の時事韓国語「과거사」
1. 「済州4·3事件」が持つ現代的な意味
4月3日のニュースレターで少しだけ触れた「済州4·3事件」。改めて今、韓国でどのように位置づけられているのでしょうか。周辺事情を見ていきます。
・「不法な戒厳」
3日の追念式では、外交日程のためソウルを離れられない李在明大統領に代わり、金民錫 (キム・ミンソク)国務総理が追念辞を読み上げました。
追念辞はこう始まります。
春を歓迎する花が、済州のあちこちで豊かに咲いています。
しかし済州島民の心の春はまだ、遠いようです。
私の家族であり隣人であった3万余人の済州島民が犠牲となった7年7か月の悲劇の中でも、長い間沈黙するしかなかった済州島民の胸の中ふかく、椿のような赤い血のあざが残っているからです。
罪なくして犠牲となった英霊たちの魂を称え、頭をたれて冥福をお祈りします。
痛恨の歳月に耐えてきた遺家族の方たちにも、深い労りの言葉をおかけいたします。
この日の対念式では「78年前の残酷な悲劇の中心には、不法な戒厳がありました」(同)というように、戒厳令が改めてフォーカスされました。
実際に「済州4·3」のさなかの1948年11月、当時の李承晩大統領を済州島を対象とする戒厳を宣布しました。
なお当時、韓国に戒厳法は存在していませんでした。
政府樹立時の1948年7月に定められたいわゆる制憲憲法には、「大統領は法律の定めるところにより戒厳を宣布する」とありましたが、その法律がなかったのです。「不法な戒厳」とされる理由です。

4月3日の追念式で黙とうする金民錫総理(左から二人目)。右隣は禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長。国務総理室提供。
・尹錫悦弾劾罷免から一年
追念辞ではこの「不法」という脈絡で、2024年12月3日の尹錫悦大統領(当時)による非常戒厳が召喚されます。
これが不法であった理由について、韓国の憲法裁判所は今からちょうど一年前の2025年4月4日、罷免宣告を下す際に、五つの理由を挙げています。
それは国会の弾劾訴追案に沿ったものでしたが、(1)非常戒厳は状況と手続きの上で要件を満たしていない、(2)国会に軍警を投入したことで政党活動の自由を侵害した、(3)布告令にて国会や政党の活動を禁止したことで代議民主主義を違反した、(4)中央選管を強制捜査したことで選管委の独立性を侵害した、(5)大法院長や大法官(最高裁長官や最高裁判官)を拘束対象とすることで司法権の独立を侵害した、というひどいものでした。
こうした五つの理由に8人の憲法裁判官は満場一致で罷免を決めました。(詳細は当時の記事にあります)
・李在明の約束
追念辞に話を戻します。
24年12月3日の非常戒厳の後、済州特別自治道議会は全国に先駆け、尹氏の弾劾を求める決議案を採択したとのことでした。
これを金総理は「4·3の歴史を忘れない済州島民が、わが国民が、大韓民国の民主主義を守ってくれました」と称えました。
金総理は続いて、李在明大統領が3月末に済州島を訪れた際におこなった発言を取り上げました。
それは「国家暴力犯罪の再発を防ぐために、4·3事件の鎮圧を功労と見なされ受けた叙勲を取り消す根拠を作る」ことと、「刑事・民事双方の時効を排除する立法を推進する」ことですが、これを進める意欲を明かしたのです。
・叙勲の剥奪と拷問技術者
実際に、これに類する動きは始まっています。
韓国政府は3月はじめから、1945年に米軍政の下で警務局として発足して以降、現在に至るまで警察官に授与されたすべての叙勲の全数調査に乗り出しているのです。
文字通り政府が与えた報奨や表彰のすべてを調査するもので、独裁政権の下で拷問や間諜(スパイ)のでっち上げなどに得たものであることが判明する場合には、取り消しとなります。調査の対象は7万件以上にのぼるとのことです。
こうした政府の取り組みは、3月25日に元警察官の李根安(イ・グナン)が88歳で死んだことにより、にわかに脚光を浴びました。
私が「死去した」ではなく、「死んだ」と書いた理由は、李が韓国で広く知られた最悪の「拷問技術者」だからです。
1970年代から80年代にかけて李によって拷問され、罪をでっち上げられた人物は一人や二人ではありません。民主化運動家・金槿泰(キム・グンテ)をはじめ多くの人物が、ひどい拷問により生涯にわたって深い傷を負いました。民主化運動家や北朝鮮に関するスパイ容疑者などがその対象でした。
1987年の民主化以降は逃亡しますが、その後、逮捕され服役。なんと、牧師へと転身します。88歳で死ぬまで反省の意を何度か示しましたが、それを額面通りに受け取った人物はそう多くないでしょう。
この李はその間の「功労」により16回もの叙勲を受けていますが、李在明政府はこれらの剥奪を検討していると明かしています。
・気鋭の弁護士の主張
時効の排除という部分ではどうでしょうか。
これは既に時効を迎えた事件については覆すことは難しいものの、まだ時効を迎えていない国家暴力事件については、時効を定めないというものです。後者については、ナチスの犯罪者を最後まで追い続けるドイツ政府をイメージすると分かりやすいと思います。
しかし前者、つまり、既に時効を迎えた国家暴力事件についても処罰を行えるようにしようと主張する弁護士もいます。
日本企業を訴えた元「徴用工」裁判の原告代理人や、ベトナム戦争時の韓国軍による虐殺事件で被害者側代理人を務め日本でも知られる林宰成(イム・ジェソン、45)弁護士です。
林氏は3日「ハンギョレ」に寄稿したコラム『最後まで負わせる4·3の責任…‘正義の原則’へと向かおう』で、真正遡及効禁止の原則、つまり過去すでに完了した法的地位(この場合は時効)や事実に対し、新たな法律を遡及して起用することができない原則があると指摘します。
その上で、「憲法の基本理念と市民の基本権が国家権力により侵害され、組織的に操作・隠ぺいされる特段の事情がある場合には、例外を認める他にない」という国策研究機関のレポートを引用し、時効を乗り越えられる点を主張しています。法的な根拠がじゅうぶんに存在するということです。
・済州4·3事件が牽引する過去事の清算
日本の読者の皆さんは、「韓国はいったいいつまで過去のことをほじくり返すのか」と思うかもしれません。
しかし韓国では過去、独裁政権と南北対立が合わさる中で国家暴力が吹き荒れ、それを追及できるようになってまだ30年ほどしか経っていない点に注目すべきです。被害者はしっかり国家暴力を記憶しているのです。
これを放置することがむしろ、新たな国家暴力になりかねません。私が著書『分断八〇年』で書いたように、今なお各地でこのような過去の清算に向けた動きが続いています。
前出の林弁護士は、「済州4·3事件」当時、即決の軍法会議で有罪とされた被害者が再審請求を行う際の支援活動にも関わっています。
林氏はコラムの末尾で「4·3は常に、より前に進むために努力してきた」としますが、これはいみじくも金民錫総理が追念辞の中で述べた以下の部分とマッチします。
国民主権政府(訳注:李在明政府)は4·3の真実をつまびらかに糾明し、4·3犠牲者と遺族のみなさんの名誉回復に最前の努力を果たします。
4·3事件特別法(同:2000年)を作った金大中政府、政府の次元ではじめての公式謝罪を行った(同:2003年)盧武鉉政府、4·3犠牲者への補償の根拠を法制化した(同:2021年)文在寅政府の努力をつないでいきます。
済州4·3事件の真相究明への動きは、韓国現代史の中の他の国家暴力の真相究明を常にリードしてきたということです。その4·3に関する時効がなくなる場合、他の事件にも影響を及ぼすことになるでしょう。
そしてこの動きが、韓国政府が過去の過ちを直視するもう一つの理由を補完することは間違いありません。二度と同じことを繰り返さないという「教訓」を国家の歴史に刻むこむ作業は、より強まります。
このように「済州4·3事件」は、出来事そのものに加え、その向き合い方においても大きな現代的意味をも持っています。同じような存在としては、1980年5月に光州で起きた「5·18民主化運動」があります。
私もここ数年、済州島取材に行けていませんが、今年は一度かならず取材に赴くつもりです。
2. 今日の時事韓国語「과거사」
「クァゴサ」と読みます。漢字では「過去事」です。よく同じ発音の「過去史」と間違えられますが、‘過去の出来事’と覚えるとよいでしょう。
「事」と「史」の間にあるものこそが、韓国歴代政府の取り組みのエッセンスとなります。
つまり、過去の出来事の真相を究明し、被害者の名誉回復と補償を行い、加害者を処罰して、ようやく「歴史の一ページ」となり得るということです。
この一連の流れがいかに大切なのかを、これまでたくさんの取材現場で耳にしました。
なお、韓国には上記のようなプロセスを実現するための「真実・和解のための過去事整理委員会(通称:真実和解委員会)」があります。
第一期は2005年12月から2010年12月まで、第二期は2020年12月から2025年12月まで設置され、第三期は2026年2月から始まっています。
同委員会の基となる『真実・和解のための過去事整理基本法」において、真相究明を行う「過去事」の対象は「日帝強占期またはその直前に行われた抗日独立運動」から、「1945年以降に地方自治体や民間機関が直接運用した社会福祉機関(施設)、養子斡旋機関および集団収容施設で起きた人権侵害事件」まで広範囲に及びます。
今日はここまでです。
南北関係絡みでも大きな動きがありましたね。中東情勢への対応なども含め、大きなニュースが目白押しです。
それを追いながらリニューアルの準備も進めているので大変ですが、なんとか続けていきます。
それではまた明日!
アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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