【デイリー・コリア・フォーカス】26年3月31日号

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徐台教 2026.03.31
誰でも

皆さま、アンニョンハセヨ。

3月31日、火曜日です。日本は明日から新年度ですね。

韓国の年度は1~12月という区切りで、なおかつ学校は3月スタートとあって、特別な雰囲気はありません。それでも、道を歩くとあちこちで咲き誇るケナリ(レンギョウ)と桜が目に入り、春が来たと実感します。今年の桜の開花は、例年よりも一週間早いとのことです。

桜とレンギョウです。

桜とレンギョウです。

それにしても、トランプ氏とネタニヤフ氏が引き起こした戦争によって、朝鮮半島の危機感も上がったと考えざるを得ません。

在韓米軍の兵器が中東に移ったからという短期的な理由よりも、戦争または武力使用に対するハードルが低くなった、いや、失われた点が大きいでしょう。

目次は以下の通りです。

1.  人権・安保と平和共存の葛藤…変わらぬ南北関係
2. 今日の時事韓国語「종량제 봉투」

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1.  人権・安保と平和共存の葛藤…変わらぬ南北関係

ここ一週間ほど、韓国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)との関係において、象徴的な動きが相次ぎました。

・西海守護の日

まず、3月26日には11回目となる「西海守護の日」を迎えました。

これは西海、つまり黄海上で起きた北朝鮮との「交戦」を思い起こし、亡くなった将兵を悼むと共に、韓国民の安全保障意識を高める目的で2016年に設置された国家記念日です。

交戦の中身は具体的に、日韓W杯中の2002年6月29日に起きた「第二延坪(ヨンピョン)海鮮」、2010年3月26日、北朝鮮の魚雷攻撃による韓国軍哨戒艦「天安」の撃沈、さらに同年11月23日に起きた北朝鮮による延坪島砲撃事件となります。

それぞれ、6人、46人(失踪者を探す過程で海軍1人が亡くなり47人)、2人と、合わせて55人を追悼します。毎年、3月の第四金曜日に大田(テジョン)市にある国立大田顕忠院で記念式が行われます。

27日「西海守護の日」記念式に参加した李在明大統領。青瓦台提供。

27日「西海守護の日」記念式に参加した李在明大統領。青瓦台提供。

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27日の同記念式には、李在明大統領が参席しました。李大統領は記念辞の中で、「海を守った英雄たち」を称えると共に、遺族に慰労の言葉を送りました。

また「戦争の廃虚の中から立ち上がったわが大韓民国の歴史において、‘タダで享受した春’は一日たりとも存在せず、‘自然と与えられた平和’はただの一時もなかった」と述べ、西海は「祖国の最前線」であり、「共同体が共に守った国民の海」であったとしました。

一連の表現を前に、「あれ?李在明氏は進歩派の大統領なのに、いやに軍国主義的ではないか」と疑問を覚える方がいるかもしれません。

しかしこうした発言は、保守派の大統領はもちろん、金大中大統領をはじめ歴代の進歩派大統領も一様に行ってきたものです。

このように、韓国の国家主義的な感覚というのは、日本と明確に異なります。ニュースレターでもたびたび言及してきたように、その背景には北朝鮮という脅威、さらに過去、国を奪われた経験が存在します。

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記念辞に戻りましょう。李大統領は「崇高な献身」を引き続き称えながら、この5月から、参戦有功者の配偶者への生活支援金を新たに支給することを明かしました。

韓国には「国家有功者」という制度があり、国のために犠牲となった人物の家族に対し、公共料金の減免や大学入試の際の加算点など、政府からの各種支援を行っていますが、これをさらに拡大するものです。

記念辞の末尾で李大統領は「彼らが命かけて守った海を、これ以上、‘紛争と葛藤の境界’ではなく、‘平和と繁栄の拠り所’へと転換すること」こそが、「私たちの責任」であると強調しました。

そして「平和がご飯であり、平和がすなわち民生であり、平和が最高の安全保障だ。闘って勝つことも重要だ。闘わずに勝つことは、より重要だ。しかしこれよりもさらに重要なのは、闘う必要のない平和だ」というお決まりのフレーズを続けました。

李在明政府の対北朝鮮政策の基調「平和共存」を想起させる内容でした。

国立大田顕忠院を歩く大統領夫妻。いかにもという写真ですが、雰囲気を知ってもらうと掲載します。ソウルと大田市に顕忠院は、観光で行くことかはないかと思いますが、実際に訪れるとその規模に圧倒されます。青瓦台提供。

国立大田顕忠院を歩く大統領夫妻。いかにもという写真ですが、雰囲気を知ってもらうと掲載します。ソウルと大田市に顕忠院は、観光で行くことかはないかと思いますが、実際に訪れるとその規模に圧倒されます。青瓦台提供。

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・初の「朝鮮民主主義人民共和国」

舞台は変わります。

統一部の鄭東泳(チョン・ドンヨン、72)長官は、李在明政府の発足以降、一貫してこんな北朝鮮との平和共存を提唱してきました。李在明氏の政治的後見人の一人でもあります。

その鄭長官が25日、統一部と国策シンクタンク「統一研究院」が共同主催した学術討論会に出席し、開会の言葉を述べました。その中の以下の部分が韓国メディアで大きく報じられたのです。

「今は究極的な目標として、統一よりも平和共存そのものを政策の中心とし、韓半島政策のパラダイムを再設計すべき時点だ。南側にも北側にも、大韓民国にも朝鮮民主主義人民共和国にも、過去ではない未来に向けた責任ある決断が必要だ

『京郷新聞』によると、韓国政府の高官が公の席で北朝鮮を「朝鮮民主主義人民共和国」と呼んだのは史上初めてのことだそうです。

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この発言の背景には、23年12月以降、韓国に対し「敵対的二国家関係」を宣言し、今年2月の朝鮮労働党大会、さらに3月の最高人民会議(国会)でこれを補完・強調し続けている北朝鮮に呼応するものです。

北朝鮮は敵対的二国家ならば、韓国は平和的な二国家共存という代案を提示するものです。しかし、「平和共存」と「平和的二国家共存」の間には、北朝鮮を主権国家として認めるか否かというハードルが存在します。

そして鄭東泳長官はこの日、このハードルを越えてみせたことになります。

同長官は、「ヘタクソな欺瞞劇」と李在明政府の北朝鮮政策を評価する北朝鮮に対し、「(平和共存)政策を一貫して見せていく」と決意を述べました。

南北関係を北朝鮮に呼応するように「韓朝関係」と表現するといった一連の立場は、かなりラディカルな姿勢と判断できます。

保守メディアや保守政党・国民の力の政治家、さらに北朝鮮人権問題を扱う活動家などは一斉に鄭東泳長官を批判し、中には辞任を求める声も上がっています。

なぜでしょうか。それは、北朝鮮が今なお、住民の人権を規制する全体主義国家であるからです。

シンポジウムの様子。前列左から4番目が鄭東泳長官です。統一部提供。

シンポジウムの様子。前列左から4番目が鄭東泳長官です。統一部提供。

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・北朝鮮人権決議案

30日(現地時間)、スイス・ジュネーブで北朝鮮人権決議案が採択されました。国連人権理事会によるもので、2003年以降、24年連続での採択となりました。

同理事会のホームページにはまだ報道資料が公開されていませんが、韓国外交部が31日に公開した決議案の要旨によると、「北朝鮮国内で組織的かつ広範囲で重大な人権侵害と、そうした人権侵害に対する不処罰の文化が蔓延し、責任を糾明することが不足していること」に対する深い憂慮が含まれています。

また、「北朝鮮国内で、独立した市民団体が活動できず、その結果として、北朝鮮を基盤とする市民団体が人権の普遍的定例的審査(UPR)や条約機構の審議過程に関係者として報告書を提出できない点」に対する遺憾と憂慮を表明しています。

これは文字通り、北朝鮮の市民団体が存在せず、住民みずからが国際社会に人権状況を訴える術がない点を指摘するものです。

また、今回の決議案には、前述したような「これ以上は統一を推進しないという宣言(敵対的二国家宣言)」が、南北間の離散家族を含む、北朝鮮の人権状況に否定的な影響を与えることを憂慮する内容が含まれています。

他にも強制労働や、デジタル監視を含む表現の自由の制限、移動の自由の制限など、「北朝鮮国内で組織的かつ広範囲で重大な人権侵害がある」と決議案では指摘しています。

もう一つだけ引用します。

決議案には「北朝鮮内の人権状況が国際平和および安全保障と本質的に連係している点を強調する」とあります。これは、北朝鮮政府が住民の福祉ではなく、軍事費に資源を転用している点を指摘しながら出てきた表現でした。平和な環境を作ることの重要性を指摘するものです。

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こうした決議案には、50か国が共同提案国として参加しています。しかし韓国政府は参加をギリギリまで迷っていました。締め切りの3月18日を過ぎ、参加を決めたのは28日のことです。

前出の統一部・鄭東泳長官は一貫して参加に反対していました。人権問題は主権問題であるため、相互不干渉の原則を持つ南北関係において、提起するこはふさわしくないという判断です。

国連を担当するのは外交部であることから、参加に至るまでの一連の動きを、北朝鮮政策をめぐる外交部と統一部の主導権争いと見る向きもあります。これは韓米同盟を重視する「同盟派」と、南北関係を重視する「自主派」の路線争いとして、韓国メディアが大好きな構図です。

ですが実際には、▲南北対話が現段階では難しい点、▲民主主義国家を自認する韓国が普遍的人権を無視することはできない点、が作用したと見るのが妥当でしょう。こうした見方は韓国メディアでも広く共有されています。

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「平和共存のため、言うべきことから目を逸らす」のか、それとも「人権と安全保障の問題が何よりも重要」なのか。この二つの命題は過去四半世紀以上、北朝鮮と相対する中で相剋してきました。

ですが本来は「人権と安全保障の問題を提起しながら平和共存を目指す」べきでしょう。一連の動きの中を見る中で、古い構図が今なお生きていることを確認しつつ、北朝鮮に対する韓国社会の視線が徐々に狭まっている現状に憂いを感じました。

ここまでが韓国の状況です。

いま、これを書いている状況の中で、1ドル=1530ウォンまでウォン安が進んでいて、韓国最大の航空会社である大韓航空が非常経営体制に入るという一報が飛び込んできました。

こういった流れの中では、韓国は当面、北朝鮮に構う余裕はないでしょう。「現状維持」が続くことになります。それにしても冷や汗が出る状況です。

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・独自路線をひた走る北朝鮮

一方の北朝鮮はどうでしょうか。最近の大きな動きとしては、ベラルーシのルカシェンコ大統領の訪朝がありました。3月25日のことです。

そして両首脳は26日、「朝鮮民主主義人民共和国とベラルーシ共和国との間の親善および協助に関する条約」に署名しました。

条約に署名後、握手する両首脳。朝鮮中央通信より。

条約に署名後、握手する両首脳。朝鮮中央通信より。

27日付の朝鮮中央通信によると、金正恩氏はルカシェンコ氏との会談に際し、「社会政治的な安定と経済発展を成し遂げ、国際舞台で主権的な権利を守護するためのベラルーシ指導部の政策に対する支持と連帯性表明した」とのことです。

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この動きについて、韓国の北朝鮮専門家・韓基鎬(ハン・ギホ)亜洲(アジュ)大学亜洲統一研究所教授は、韓国メディアへの寄稿コラムの中で、「米国主導の国際秩序が根本から揺れ動く中、北朝鮮が生存のための空間を広げている」と分析しています。

2023年の金正恩の訪露、24年のプーチンの訪朝、北朝鮮によるロシアへの派兵、25年の金正恩の中国・戦勝節へ参加と、ベトナム共産党書記長の18年ぶりの訪朝、そしてベラルーシ大統領の初訪朝まで、一連の動きに一貫性があるということです。

ハン教授はコラムの末尾でイラン情勢に触れながら、「残念なことに今や、地球上に北朝鮮が核を放棄すると信じる国はない」とこれを結んでいます。

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他方、日本のアジアプレスの最近の報道によると、北朝鮮ではロシア・ウクライナ戦争において、ロシア側兵士として実際に参戦した将校と兵士に各地の部隊を巡回させ、ロシアでの戦闘経験を講演させているそうです。

また、北朝鮮兵士の戦いぶりを宣伝する映像を作り部隊内で見せているといいます。アジアプレスでは一連の動きを「新しい英雄作り」と位置づけています。

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さらに29日には、朝鮮中央テレビと朝鮮中央通信が、金正恩氏が朝鮮人員軍の特殊作戦区分隊の訓練を視察したと明かしています。身体を張った激しい演舞を見せる兵士たちを楽しそうに見守る金正恩氏の姿が映し出されています。

このように、南北は全く別の世界を生きているように見えます。この二つの社会はどこで交わるのか。それが戦争でないことを願うばかりです。

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2. 今日の時事韓国語「종량제 봉투」

「チョンリャンジェ ポントゥ」と読みます。少し長いですね。これは「従量制の袋」という意味です。「종량제 チョンリャンジェ」が従量制、「봉투 ポントゥ」が袋を意味します。

燃えるゴミを出すための有料の袋のことです。

韓国ではこの袋の使用が義務づけられており、数日前のニュースレターでお伝えしたように、ナフサ不足から一時、韓国でこの袋の買い占め現象が起きました。

その後、政府が「在庫は充分」と火消しに務め沈静化しましたが、なおも不安に思う人々が多いため、「袋が無くなった場合には、一般の袋で代用できる」とまで、担当省庁の長官が会見で明かしています。

さらに31日には、李大統領が国務会議(閣議)の席で「従量制の袋の在庫不安」を広めた人物を探し出せと警察庁長(代行)に命じる一幕もありました。

ピリピリした韓国社会(そして李在明大統領の)ムードの一端を示す出来事と言えそうですが、ネットには「物資の不足ではなくゴミ袋を心配するとは、いつからそんな真面目な民族になったのだ」という笑い話もありました。

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今日は以上です。

実はもう一つ書きたいことがありました。

韓国で4番目に大きい都市である大邱(テグ)市長選に、文在寅(ムン・ジェイン)政権下で国務総理を務めた、与党・共に民主党の大物政治家である金富謙(キム・ブギョム、68)氏が立候補を決めた話です。

故朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の地盤として、文字通り保守の牙城である同市では過去、進歩派の市長が誕生したことはありません。

12年前に同じく市長に挑戦して破れた金富謙氏は、世論調査でトップを走り、歴史的な勝利となる可能性が十分にあります。6月3日の統一地方選の目玉の一つです。

…文字数の関係で次回に回しますね。

いずれにせよ、最近の南北関係に関する動きをまとめられて良かったです。

それではまた明日。今日もありがとうございます。

アンニョンヒケセヨ。(徐台教)

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