【デイリー・コリア・フォーカス】26年3月23日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
3月22日、月曜日です。週末はあっという間に過ぎてしまいました。
土曜日の午後には、日本からスタディツアーに来られた方々に、南北分断をとりまく韓国内の状況についてお話する機会がありました。少し暗いトーンになってしまったと終わった後に反省しましたが、明るい材料がどこにもないので仕方ないですよね…。
その後は、ソウルをぶらぶらと歩きました。ちょうどこの日はBTSの復帰コンサート。会場の光化門(クァンファムン)までは歩いて15分。人の流れに混ざり向かってみるも、チケットがないのですぐに行き止まりとなりました。

交通規制の案内。すべて筆者撮影。

チケットを持たない人は会場に近づけないシステムでした。

道端では便乗商売も。
この日は、警察にソウル市の職員、さらにボランティアなど1万人以上が警備と導線確保にあたっていました。
会場のすぐ近くにプレスセンタービルがあり、事前に申し込んでおけば入れたのですが、「そこまでは到底カバーできない」と申し込まなかったため、退散しました。
少し考えをまとめる時間が欲しかったので適当なお店に入り瓶ビールをちびちびとやっていたところ、店のテレビでBTSコンサートが始まり、結局見ることに。パフォーマンスからは「失敗してはならない」という雰囲気がひしひしと伝わり、大変だなあと思いました。
今回のコンサートに行政のリソースが多大に割かれ、他の施設での公演者や近隣の人々など、損害を被った人もいる中で、その利益をBTSの所属会社と中継したNetflixが独占することに対する批判の声も随分とありました。
これを意識してか、公演後には韓国社会の支援に感謝する声明も出ていました。いずれにせよ、大きな事故がなく良かったです。
本題に入ります。今日の目次は以下の通りです。
1. 高市-トランプ会談、韓国にとっては「教材」の役割
2. 「備蓄分は70日」?エネルギー危機に積極対応する韓国政府
3. [コラム紹介] 北韓が次の標的にならない4つの理由
4. 今日の時事韓国語「마지노선」
1. 高市-トランプ会談、韓国にとっては「教材」の役割
日本で良くも悪くもずいぶん話題となった、日米首脳会談。韓国には日米関係を一つの「標本」とし、これに学ぼうという視点が存在します。
保守紙『朝鮮日報』は、高市外交を高く評価しています。
その論調は、日本政府はトランプに積極的に対応しながら、さらに19日には英仏独伊などとイランを強く糾弾する共同首脳声明を出し、その上でイランとの個別外交も展開しているという、懐の深さを見習えといった形です。
21日付けの社説「‘ホルムズ封鎖糾弾’声明に遅れて参加した韓国」では、韓国政府が20日夜になり、ようやくこの声明に遅れて参加したと批判しました。米国の意中をもっと大切にせよという指摘です。
休刊日の日曜日を挟んだ、今日23日付けの『朝鮮日報』社説「‘イランと交渉’日本、危機の時に切実な韓国式の国益外交」では、イランとの交渉に焦点を当てています。
日本はイランとの交渉の詳細を明らかにしていないものの、しているだろうと前提し、韓国もこの姿勢を持つべきとせっつきました。
朝鮮日報の主張は、まず韓米同盟を重視しながら、イランとも交渉すべきというものです。李在明政府はきちんと米国に向き合うべきという叱咤(?)がそこにあります。
これは「進歩派は米国をないがしろにする」という、一般的なフレーム化(型にはめた議論)と言えますが、最も右に位置する保守紙・朝鮮日報のいつもの論調です。
それでは韓国は、イランとどのような関係なのでしょうか。
21日の時点で韓国メディアは、「イランを含む関連国と多角的に疎通している」、「日本とイランの協議を綿密に注視している」という韓国外交部の当局者を引用しています。
これはこの日にあった、外交部のバックブリーフィングを参考にしているものと見られます。
週明けに新たな情報が出るだろうと思っていたところ、今日23日午前、『毎日経済』が趙顯(チョ・ヒョン)外交部長官とイランのアラグチ外相が今週、イランはじめて電話会談を持つ予定と伝えました。

『東亜日報』21日付けの社説「米、日本に対し派兵の圧力…韓国は安保-投資パッケージの対策を立てるべき」。同社HPをキャプチャ。
保守紙の『東亜日報』も21日付けの社説「米、日本に対し派兵の圧力…韓国は安保-投資パッケージの対策を立てるべき」で、日米関係を取り上げました。
高市外交には、やはり高い点数を与えていました。
憲法を盾に派兵に対し線を引きながらも、調査研究目的での自衛隊派遣など、安保協力の意志を伝え、SMR(小型モジュール原子炉)など二度目の対米投資も「プレゼント」としてきたと言及しました。
そして「韓国政府も、韓国軍の現実的な能力を根拠に、できることとできないことを具体的に区分し、米国を説得すべき」としたのです。
同紙はここで、掃海任務を例に挙げています。
先日のニュースレターで、アデン湾で商船保護にあたる韓国海軍の『青海部隊』を取り上げましたが、この部隊には掃海能力がないというのです。そもそも、韓国軍の掃海艇は700トン級と小さいため、遠洋に出られません。
そして韓国ではようやく、対米投資特別法が成立したことを取り上げながら、「韓米関係を損ねない形で、韓国国益のマジノ線(譲れない最低ライン)を守る総合的な対策を立てるべき」としました。
この論調は、やはり保守紙の『中央日報』でも同様でした。21日付の社説「ホルムズ派兵のジレンマ、先例から妙手を探すべき」で主張しています。
また、進歩紙の『ハンギョレ』も20日付けの社説「日本・欧州も慎重なのに、ホルムズに派兵すべきという国民の力の政治家たち」の中で、韓国政府は日本をはじめ、前出の糾弾声明を出した各国と綿密に意志疎通を図るべきとしました。
このように、日本の外交をとやかく批評する前に、日本の外交を糧に韓国もしっかりやっていこうという論調は明白です。これは今の韓国社会が、それなりに成熟していることを示すものといえるでしょう。

オートペン写真を見て笑う高市首相の姿を扱った記事。批判的な論調が並びます。ポータルサイト・ネイバーをキャプチャ。
他方、高市さんの外交の様子は逐一、韓国に伝わっています。トランプさんに抱きつく姿、バイデン前大統領の写真に代わって掲げられたオートペンの写真見て笑う様子、トランプの真珠湾発言に目を丸くする表情などは記事になっています。
反応は私がすべてチェックした訳ではないので、あくまで印象ですが、批判的なものが多いです。先述したような、無難な外交をしたというメディアの評価とは対照的です。
なお、日本のSNSで批判が集中していた、声を上げて踊るかのような高市さんの写真についての記事は、一件しかありませんでした。記事にしたのは統一協会系の『世界日報』でした。
2. 「備蓄分は70日」?エネルギー危機に積極対応する韓国政府
韓国メディアは昨日から今日にかけて、一斉に「最後の油槽船(タンカー)が入港し、来月の入港予定はゼロ」と伝えました。
イスラエル・米国によるイラン攻撃が始まった2月28日にホルムズ海峡を抜けた船が、今月20日、忠清南道の瑞山(ソサン)港に到着したのです。
その後、同海峡を抜けた韓国行きの船はないため、このままでは来月、タンカーが一隻も到着しないことになるそうです。

「来月の入港予定はゼロ」と伝えるJTBC。22日の同社ニュースをキャプチャ。
これを伝えた『JTBC』によると、韓国には現在、民間に9000万バレル、政府に1億バレルの原油および石油製品が備蓄されています。
IAEA(国際エネルギー機構)の基準では208日分とされていますが、実際にはそれより少ないとのこと。輸出用まで含める場合、毎日の消費量は240万バレルにのぼり、単純計算で70日前後で底を突くというのです。
70日というのはあっと言う間です。このように「エネルギー危機の顕在化」を伝える報道がとみに増えました。
『朝鮮日報』も社説で、「今月末からナフサを原料とする包装材が不足し、ラーメンやお菓子工場が止まるという展望もある」と堂々と書くほどです。
こんな不安が募る中、政府は火消しに躍起になっています。
23日、産業通商部のヤン・ギウク産業資源安保室長は会見を開き、現状は「過去に類例のない状況」としながらも、「4月の全体の需給には特別な問題がない」と強調しました。
ヤン室長によると、精油会社はそれぞれ、ホルムズ海峡を迂回する経路を通じた物量確保に動いているとします。
一方、先日お伝えしたように、UAE(アラブ首長国連邦)から緊急輸入が決まった2400万バレルのうち、400万バレルが3月末と4月1日に、残る1800万バレルも4月初旬~中旬から入港が始まる予定」と明かしました。
なお、備蓄油の放出は、民間が現在保持する在庫が尽きる4月中旬から始めるとのことです。
一連のニュースを伝えた『聯合ニュース』によると、ロシアからの原油導入については、国内の精油会社は「慎重な立場」を見せているとのことです。品質や決済上の問題や、今後、米国による制裁の対象となる可能性などを考慮してのものだそうです。
また、日本でも不足が憂慮されるナフサについてですが、輸出分を国内消費向けに転用する計画があるとのことです。政府が「緊急需給調整命令」を出す必要がありますが、この場合には、ナフサ生産工場の稼働中断時期を4月末や5月まで遅らせることができるそうです。
なお、「緊急需給調整命令」は2021年に中国が尿素水(アドブルー)の輸出を制限した際にも発動されたことがあります。
また、やはり先日の産業通商部のレポートで紹介した、造船業で使う切断用エチレンガスについても、問題ないとの見解を示しています。
韓国政府は23日から「供給網支援センター」を設置するとのことです。住民生活と関わりの深い、30~40種類ほどの品目をモニタリングするそうです。
また22日には、青瓦台(大統領府)と与党・共に民主党が、25兆ウォン(約2兆6000億ウォン)の補正予算を編成することを決めました。4月10日に国会で議決することを目標に、予算内容を決め、野党を説得するとしています。
予算は、油価対策や産業界への補助、貧困層の支援などに使われる予定で、国債発行はせずに超過税収でまかなうそうです。
この辺のスピード感は、さすが韓国といったところでしょう。もちろん、既にお気付きかと思いますが、5月以降は不透明なままです。国内対策をしっかり行うと同時に、外交面でもしっかり声を上げる必要があるでしょう。
3. [コラム紹介] 北韓が次の標的にならない四つの理由
恒例の(?)コラム紹介です。文在寅大統領の外交安保特別補佐官を務めた、韓国屈指の外交専門家・文正仁(ムン・ジョンイン)延世大学名誉教授が23日に、『ハンギョレ』に寄稿したものです。
タイトル通りの内容で、非常に時宜にかなったものです。なぜなら、米国はベネズエラとイランで首脳を除去した今、「次は金正恩か」という考えを持たない人はいないだろうからです。
しかし文教授は、北韓(朝鮮民主主義人民共和国、以下、北朝鮮)は違うと断言します。
一つ目の理由は、「北朝鮮はイランではない」というものです。
50から100の核弾頭に加え、韓国や日本、(米軍基地のある)グァムや米本土を叩ける弾道ミサイルを持っているとします。核による反撃能力がイランとは全く異なるという事です。
また、先の朝鮮労働党大会を見ても、金正恩氏のリーダーシップは揺るぎなく、米国からの外圧が金正恩体制をより強くするだろうということでした。
二つ目の理由は、「イスラエルの有無」です。
今回の戦争は「イスラエルとネタニヤフによる戦争」という見方を紹介しながら、北朝鮮にはイランにとってイスラエルのような存在がいないという点を、その違いとしています。
特に、朝鮮半島の平和を掲げる李在明政府は、米国独自の軍事行動に強く反対するだろうし、「韓国軍が参加しない形での北朝鮮への軍事作戦は想像できない」と判断を下しています。
三つ目の理由は、「地政学的な環境」です。
イランはサウジアラビアを筆頭に、スンニ派の国家が反イラン連合に属しているが、北朝鮮の場合は、戦争を望まない韓国と日本が存在するとします。
さらに、イランに対して表立った支援ができない中国とロシアも、北朝鮮が攻撃される場合には別の反応を見せると予測します。
四つ目の理由は、ペルシャ湾地域で既に戦争を行っている米国が、朝鮮半島で同時に大規模な戦争を行う能力を持たないという点です。
また、トランプ大統領はイラン指導部に対する不信を露にしていた反面、金正恩氏に対しては「条件のない対話」を強調してきた点を取り上げています。対話と外交の場は生きている、という指摘です。
文正仁さんは最後に、「変数は北韓(朝鮮)にある」とします(朝鮮と書いています)。米国の強硬派に対し、軍事行動の名分を与えるような発言と行動を自制し、米国との対話に積極的に応じよとアドバイスを送りました。
コラムの紹介は以上です。確かに、北朝鮮とイランは異なります。変なパニックに陥らないようにしたいものです。
もしかしたらあるかなと思い探したところ、既にハンギョレ日本語サイトに全文訳がありました。ご興味ある方はぜひ。
4. 今日の時事韓国語「마지노선」
「マジノソン」と読みます。日本語では「マジノ線」です。
戦史に詳しい方はご存知かもしれませんが、この言葉は第一次世界大戦後の1929年から30年代にかけて、フランスがドイツを防ぐ目的で国境沿いに建設した要塞群を指します。
のちのドイツに破られることになるのですが、この「マジノ線(Maginot Line)」を、韓国では「それ以上、後退することが許されない限界ライン」という意味で使います。
今日の第一項目でも出てきましたよね。なぜこうなったのかは分からないのですが、メディアでは非常に多用される表現です。
日常の会話でも使う人がいます。覚えておいてよいと思います。
今日はここまでです。
韓国も日本も、今の危機をなんとか乗り切ってほしいものです。それと同時に、国際的に意味のある声を上げていきたいものです。
それではまた明日。ありがとうございます。
アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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