【デイリー・コリア・フォーカス】26年4月28日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
4月28日、火曜日です。今日も「デイリー・コリア・フォーカス」をお送りいたします。
23時近くなってしまいました。再三お伝えしてきた通り、コリア・フォーカスのリニューアルに向けた準備をしております。
テーマを朝鮮半島問題・民主主義・AIの三つに絞り、内部の陣容を固め外部寄稿者と合わせて、掘り下げていく形に変わります。
ニュースレターはその中で、読者にとって入り口の役割を果たすことになります。陣容が固まる前までは私がこれまでと同じようにやりますが、その後は徐々に体裁を整えていこうと思います。
という訳で、今日の目次は以下の通りです。2件ですが重要な内容なので長くなりました。
1. 「韓流で死刑」北朝鮮での‘処刑’を分析した報告書が発刊
2. 今日の時事韓国語「한류」
1. 「韓流で死刑」北朝鮮での‘処刑’を分析した報告書が発刊
韓国にTJWP(Transitional Justice Working Group)というNGOがあります。「転換期正義ワーキンググループ」というのですが、2014年にソウルで設立されました。
主に朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)で起きている人権侵害を記録し、それを改める政策を提案するアドボカシー活動を行っています。
団体のHPには「武力紛争や独裁体制から転換中または、今なお転換が行われていない社会で大規模な人権侵害を扱う模範的な事例を開発し、被害者中心のアプローチを通じ賠償を実現し、加害者の責任を糾明することを目標とする」と紹介されています。
2014年に設立されて以降、専門性を積み重ね、今では国際的に北朝鮮人権運動を主導する団体のひとつへと成長しました。代表の李永煥(イ・ヨンファン)さんは私と同い年で、長い付き合いのある人物でもあります。
そのTJWPが今日、新しい報告書を発表しました、『コロナ19パンデミックの前後、北韓の処刑マッピング:金正恩政権下13年間の死刑』というものです。同団体は米政府機関の資金提供を受けています。

報告書『コロナ19パンデミックの前後、北韓の処刑マッピング:金正恩政権下13年間の死刑』の表紙。韓国で新型コロナは「コロナ19(COVID-19)」と呼ばれます。以下の画像はすべて同報告書より。
TJWPが同様の報告書を出すのは、2017年、19年、21年に続き4回目です。報告書の特徴は「マッピング」にあります。文字通り、公開処刑が行われた場所を地図上に落とし込んでいくもので、このためには正確な調査と聞き取りが欠かせません。
報告書によると、TJWPが2015年4月から24年12月までの9年9か月間にインタビューした脱北民は880人にのぼります。
この内、有効なインタビューは873人、さらに金正恩氏の父・金正日が死亡した2011年12月17日以降に脱北した者は、265人とのことでした。
また、北朝鮮が新型コロナにより国境を閉ざした、2020年1月30日以降に脱北した者は7人でした。
新型コロナが猛威を振るった2020年以降、北朝鮮は今なお国境を閉ざしたままです。この部分を補完するため、同団体はRFA(米国)やアジアプレス(日本)、デイリーNK(韓国)など北朝鮮取材を専門とするメディアと情報を共有するシステムを作ったと説明しています。

同団体が調査した880人の出身地。色が濃いほど多くなります。
その結果、金正日が死亡した2011年12月17日から2024年12月16日までに確認できる、処刑・死刑宣告のケースが144回であると明かしています。
TJWG独自のものが44件、五つの北朝鮮取材メディアが101回という内訳です(内一件は重複)。
この内136回が公開処刑でした。最低でも358人が処刑されています。残りの8回は死刑宣告を受け、他の場所に連れて行かれたケースで、その後、刑が執行されたかどうかは分からないとします。
上記の期間中、公開処刑が最も多かったのは2020年で24回あったとのことです。特に2012年から14年、そして2020年から21年にかけては一年に10回以上、公開処刑がありました。
前者は金正恩氏が権力を世襲する初期にあたり、後者は新型コロナのパンデミックによる措置が下った時期と報告書は分析しています。
この5年の間に、136回の公開処刑のうち87回(64.0%)が行われています。処刑された人数で見ると74.9%にのぼります。

金正恩氏が執権して以降、処刑・死刑宣告があった場所。地図では111回で、残る33回の場所は未詳だ。
地域が確認できたのは111回でした。北朝鮮の167の市・郡のうち34の市・郡で行われています。最も多いのは中国との国境にある両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市。
2位は平壌、3位は咸鏡北道(ハムギョンプクト)清津(チョンジン)市、4位は咸錫南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)市、5位は咸鏡北道の会寧(フェリョン)市です。
大都市もしくは国境の都市という特徴があります。
報告書では処刑の種類についても説明しています。
まずは公開処刑。北朝鮮みずからも1990年代からその存在を認めている公開処刑は、「大衆を動員する公開処刑」と「特定の集団をねらって動員する公開処刑」に分けられます。
前者は社会に恐怖心を与えるため、一般住民をひろく動員し参観させるものです。開かれた場所で行われます。
後者は職業や所属機関、階級、地位など属性につながりがある者たちを動員し参観させるものです。こちらは閉じた空間で行われます。目的はやはり恐怖心を与えるためです。
他に「非公開処刑」と「超司法的な略式処刑」もあります。後者には即決処刑も含まれます。一連の処刑のうち、最も多いものが「大衆を動員する公開処刑」で51.2%(66回)でした。

処刑場所を地図上に記していく。マッピングです。後に責任を問うためのものです。
最も衝撃的な内容は、処刑・死刑宣告の理由です。
報告書では、前述の時期に10回以上の処刑・死刑宣告があった六つの罪状を挙げています。主要な理由といえるでしょう。
最も多かったのは「韓国の映画、ドラマ、音楽など外部の文化および情報の利用、流入、流布などや宗教、『迷信』行為など表現の自由の統制を違反した行為」で、全体の20.1%(29件)にのぼりました。
二番目に多かったのは「金正恩の指示および方針の違反、金正恩・党・国家保衛省(情報機関)の批判、私組織の構成といった政治的な犯罪、それに牛の屠殺および摂取など、分類が難しいものが18.1%(26回)でした。
3位は故意の殺人で13.2%(19回)、4位は麻薬の密売ならびに使用で11.1%(16回)、5位は新型コロナ、口蹄疫などによる移動統制の違反で8.3%(12回)、6位は横領、不正蓄財が7.6%(11回)でした。

死刑における16の罪状。上から順に、外部文化・宗教・迷信、金正恩の批判など、故意の殺人、麻薬の密売および使用、新型コロナ・口蹄疫の統制違反、横領・不正蓄財、金正恩に関する機密流出・間諜(スパイ)行為、脱北・脱北支援、性的搾取、過失致死、拉致、強姦、脱獄、公共秩序での性的規範の違反、密輸、銃器違法所持、未詳
報告書では、この罪状の「順位」から三つの意味を読み取っています。
一つ目は「金正恩政権は住民たちの思想文化的な統制と処罰を優先ししている」というものです。特に韓国の映画やドラマ、音楽など外部の文化と宗教、そして迷信などを体制存立における脅威として最も恐れていると見立てます。
二つ目は、金正恩氏や党、国家保衛省などを批判する政治犯が二番目に処刑理由として多かった点は、「死刑制度は金正恩の権力維持の重要な手段である」ことを裏付けているとします。
三つ目は、北朝鮮が国連のUPR(Universal Periodic Review、普遍的定期審査。4年半にいちど全ての国家が人権状況のチェックを受ける制度)で、「極悪な殺人犯に対し、被害者家族が要求する場合にだけ公開処刑をする」としているが、実際はそれ以外の罪状での処刑が圧倒的に多い、という部分です。
ここで不思議に思う読者の方がいるかもしれません。「思想文化的な統制とはなんだ。昔から北朝鮮に存在したのではないか」と。
この点について少し説明します。北朝鮮では2020年12月の最高人民会議常任委員会全員会議で『反動思想文化排撃法』を採択しました。
韓国メディアが公開した当時の説明資料によると、同法の第27条では「傀儡(韓国)の映画や録画物、編集物、図書、歌、絵、写真などを直接見たり聞いたり保管した者は5年以上15年以下の労働教化刑や死刑など最高刑に処する」とありました。
また、第32条には「傀儡(韓国)式で話をしたり文章を書いたり、傀儡の歌い方で歌を唄ったり、傀儡の書体で印刷物を作った者は労働鍛錬刑または2年までの労働教化刑に処する」としてます。
北朝鮮には00年代から韓国ドラマや映画が盛んにヤミ流通し、多くの住民がこれに接しています。この法律からは、住民が自由な韓国への憧れを持たないよう、徹底して管理しようとする当局の姿勢が透けてみえます。

平壌市内でも処刑は行われたとしています。金正恩氏の執務室から同心円上に位置を配置したものです。
なお、同法の全文は23年3月になって、韓国の北朝鮮人権団体により公開されています。
第3条では「反動思想文化を排撃することは、わが制度を崩壊させようとする敵たちの思想文化的な浸透策動から社会主義の思想を固守し、社会主義の制度を堅固に守護するための必須的な要求だ」と法の原則と目的を示しています。
まさに、韓国の文化を排除するための法律です。
韓国の文化、とりわけ映画やドラマに、独裁から民主化にいたる韓国現代史を背景とした社会派のものが多い点は言うまでもないでしょう。
韓国文化は「社会の善悪を判断する基準」を提供する点で、金正恩政権にとって恐怖となり得るのです。ましてや、翻訳も通訳も必要ありません。「同じ民族が使う同じ言語」を通じ、北朝鮮の人々の頭にダイレクトに入っていくのです。
なお、北朝鮮はその後さらに『青年教養保障法(2021年9月)』、『平壌文化語保護法(2023年1月)』をそれぞれ制定し、締めつけを強めています。
『平壌文化語保護法』では「わが思想と制度、文化をしっかりと守護するための強力な法的な担保を得た」と意味を付与するなど、目に見えない鉄条網を社会に張り巡らせているのです。

第9回党大会で発言する金正恩氏。朝鮮中央通信より。
尹錫悦政権時代にはこれらを「三大悪法」とも呼んでいました。韓国文化の「威力」については今年2月、5年ごとに開催される北朝鮮最大のイベント・朝鮮労働党大会で金正恩氏が直々にこう言及しています。
「そもそも歴代の韓国の執権勢力たちは、私たちとの真情性のある和解と団結を望んでおらず、陰険にも和解と協力の機会を通じ、私たちの内部に彼らの文化を流布させながら、それを通じ、その誰かの変化を図り、さらには私たちの体制の崩壊を企ててきた」
この一文からは、文化が体制の崩壊につながるという明確な危機感が読み取れます。金正恩氏が一連の法律を制定した根拠がようやく明確になったと言えるでしょう。
報告書に戻ります。最後に、メインと言うべき分析を紹介して終わります。処刑・死刑宣告が新型コロナ以前と以後どどう変わったのかという部分です。
報告書が扱う期間の内、国境封鎖が行われた2020年1月30日を中間地点とし、同じ期間を前後に取って整理する場合、以下のような表になります。

左が国境封鎖以前、右が国境封鎖以後です。期間は各4年と10.6か月(1783日)です。
国境封鎖以前(2015年3月14日~2020年1月29日)は30回、以後(2020年1月30日から2024年12月16日)までは65回の処刑・死刑宣告がありました。
この内、「外部文化と宗教および迷信」に関するものが14回で最多でした。「殺人事件」によるものは9回から5回に減っているのとは対照的です。封鎖前の4回から14回に増え、人数も7人から38人に増えました。
また、「金正恩氏の指示違反など政治犯」は封鎖前の4回から13回に同じく増えています。人数も4人から28人へと増えました。
この部分について報告書では「国境封鎖後に、金正恩政権に対する社会的不満が高まったり、政治的な不満の表出に対する処刑が強化されたと推定できる」としています。
報告書ではこれらのデータを元にこう結論を下しています。
「北朝鮮の死刑の優先順位が、国境封鎖前の治安から、国境封鎖後には文化思想の統制と政治的な支配の強化へと変わったことを示唆している」
報告書の紹介はここまでです。
韓国のある専門家は以前、北朝鮮を指し「新型コロナを世界で最も上手に利用した国」と評しました。社会を引き締め、市場を統制し、国境を完全に国家の管理下におく手段として、新型コロナを活用したというのです。
この報告書のデータが全てを物語ることはできないでしょうが、新型コロナ前後して起きた北朝鮮社会の変化を追う際に、欠かせない視点を提供するものといえるでしょう。緻密な調査により導き出された結果は、傾聴に値するものです。

報告書の裏表紙。
2. 今日の時事韓国語「한류」
「ハルリュ」と読みます。言わずとしれた「韓流」です。最近では「K컬처(Kコルチョー、Kカルチャー)」とも言います。
講演会などでたまに言及しますが、ソウルで行われるデモで「大統領を火あぶりにしろ」と言っても逮捕されません(少なくとも文在寅の時はそうでした)。
しかしそこからわずか200キロしか離れていない平壌では、まったく別の世界が広がっているのです。
南北に存在するこの違い、これが朝鮮半島なのです。
今日はここまでです。
日中、尹錫悦前大統領夫人・金建希(キム・ゴニ)氏の二審判決があり、長く疑惑が持たれていた株価操作の件でついに有罪となりました。
ここまで来るのに13年かかったそうです。このように、尹錫悦氏が大統領だった時に色々な疑惑がありましたが、その一つ一つに有罪判決がくだっています。
私を含め、韓国市民の多くが「いずれこうなる」と思っていたことでしょう。権力とはおそろしいものです。
それではまた次回。次回は30日になるのでお間違えのないよう。
ありがとうございます。
アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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