【デイリー・コリア・フォーカス】26年4月23日号

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徐台教 2026.04.23
誰でも

皆さま、アンニョンハセヨ。

4月23日、木曜日です。ここ数日はやや寒いくらいだったのですが、ようやくまた暖かくなってきました。今日も「デイリー・コリア・フォーカス」をお送りいたします。

昨日のニュースレターを通じ、韓国が軍需産業(防衛産業)に力を入れていることを初めて知ったという反応が、いくつか届きました。確かに驚きですよね。

昨今の状況は韓国に有利で「このままいくとイスラエルを抜いて3位になれる」などという声も韓国内にはあります。欲望に終わりはありません。

今日の目次です。内容は二つしかないのですが、二つ目を書いている内に熱が入り、こんな時間になってしまいました。

1. イラン戦争長期化で、韓国メディアに「7月危機」の声
2. 進歩派政権悲願の「戦時作戦統制権」転換、2029年に実現か 
3. 今日の時事韓国語「전작권」

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1. イラン戦争長期化で韓国経済に黄信号か、メディアに踊る「7月危機」の声

終戦に向けた米国とイラン間の交渉がまとまらず、ホルムズ海峡の封鎖が続く中、原油輸入を中東から頼る韓国経済の雲行きが怪しくなっています。

特に昨日から「7月危機」という言葉がメディアに登場しています。

日刊紙「ハンギョレ」は『原油の受給難の長期化により‘7月危機説’が頭をもたげている…政府「備蓄油の放出などで対処」』という23日付の記事の中で「7月危機説が拡散している」と書いています。

同紙はそのきっかけとして、クウェート国有石油公社の「不可抗力(フォース・マジュール)」宣言を挙げています。昨年、同国から韓国が輸入した原油は全体の8.7%を占めます。

先日お伝えしたように、韓国は4月と5月分の原油については、例年の8割以上を確保しています。

これに加え、政府の備蓄油をスワップする制度(輸入の見通しが立った分を政府から先に借りる形)や、備蓄油の放出で6月を乗り切るにしても、7月は危ないという話のようです。

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やはり日刊紙「東亜日報』は22日付で、『韓国の原油輸入5位クウェート‘輸出不可抗力’宣言…7月の分量確保は非常(事態)』という記事を出しています。

この中で韓国の精油会社の状況について、「6月まではなんとか(必要量に)合わせた」と書きつつ、中東以外の地域における原油争奪戦が熾烈になっていると指摘します。

なお、韓国政府はこのような「7月危機」を否定しています。

産業通商部の当局者は21日、「戦争後からクウェート産の原油は入ってきていない」と、今回の不可抗力宣言の影響はないとしています。

東亜日報の記事。

東亜日報の記事。

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最後に日刊紙「京郷新聞」の記事を紹介します。23日付の『‘7月原油危機説’に…精油業界、輸入途切れたロシア産に食指』です。

前述したような原油確保の不安の中、一部の企業がロシアからの原油輸入を検討しているというものです。

記事によると、韓国はロシアから2020年に全体の原油輸入量のうち4.9%を、2021年には同6.1%を輸入してきました。

ロシアがウクライナを侵攻した2022年には同2.4%まで減少し、米国とEUによる制裁が本格化した2023年から現在までは輸入量ゼロとのことです。

現在は米国が制裁を一時的に解除しているため、ロシアからの原油輸入は可能です。メリットとしては、ウラジオストクから運ぶことで輸送距離が少なくて済む点があるそうです。

しかし、ウクライナがロシアの精油施設を攻撃したことでロシアの生産能力が落ちており、長期契約のない韓国企業では、言い値で買える分だけ買う形になるという不利な条件があるとのこと。また、EUの制裁は今も続いている点も見逃せない部分です。

記事では前出の産業通商部の当局者による「(ロシア産原油の)導入には慎重にならざるを得ない」というコメントを引用しています。

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韓国銀行が4月22日に発表した3月の生産者物価指数は、前月よりも1.6%上昇していました。石油製品は31.9%、化学製品は6.7%の上昇でした。

石炭および石油製品の上昇率も57.7%と、28年3か月ぶりの高水準だったそうです。ナフタも68%、エチレンも60.5%の上昇率でした(以上、京郷新聞)。

こんな厳しい見通しが出る中、韓国の総合株価指数(KOSPI)は22日、6417.93と史上最高値を更新しました。

これを伝えた地上波MBCでは「いずれは(米国・イラン)両国間の交渉が妥結するだろうという期待を反映している」という専門家のコメントを紹介しています。

昨日のニュースレターで紹介した防衛産業関連株も好調のようです。喜んでよいものかは分かりませんが。いずれにせよ、今のままではいずれ行き詰まるという認識は持っておきたいものです。

韓国最大の防衛産業企業ハンファ・エアロスペース(Hanwha Aerospace)の株価は3年で約15倍になりました。NAVER証券より引用。

韓国最大の防衛産業企業ハンファ・エアロスペース(Hanwha Aerospace)の株価は3年で約15倍になりました。NAVER証券より引用。

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2. 進歩派政権悲願の「戦時作戦統制権」転換、2029年に実現か 

このニュースレターを読むほど朝鮮半島に関心を持つ皆さんならばご存知かもしれませんが、歴代の韓国進歩派政権の悲願の一つに「戦時作戦統制権」を取り戻すことがあります。

文字通り、戦時において軍の作戦を立案・実行し、これを実際に統制する権利のことです。自国軍を指揮する権限です。どの国にもあるべきこの権利を、韓国は持っていないという理由からです。

事の始まりは朝鮮戦争でした。

1950年6月に朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の南侵により朝鮮戦争が始まった直後の7月、当時の李承晩(イ・スンマン)大統領が作戦統制権(当時は作戦指揮権)を国連軍司令官マッカーサーに預けました。作戦の効率性を考えてのこととされます。

1950年10月、占領した平壌で演説する李承晩大統領。北朝鮮を打ち倒す考えを生涯持ち続けていました。大統領記録館提供。

1950年10月、占領した平壌で演説する李承晩大統領。北朝鮮を打ち倒す考えを生涯持ち続けていました。大統領記録館提供。

その後1953年の朝鮮戦争の停戦協定を経てもなお、作戦統制権は国連軍司令官の下にありました。韓国独自の「北進」を防ぐ目的もありました。そして1978年に作戦統制権は、韓米連合軍司令官(兼在韓米軍司令官)に移りました。

1987年の大統領選挙で当選した盧泰愚(ノ・テウ)氏は作戦統制権の還収を公約に掲げていましたが、完全に還収することは難しいと判断し、これを平時と戦時に分け、平時作戦統制権は1994年に韓国軍に還収されました。

つまり今なお、戦時に韓国軍は米国の指揮を受けることになります(後方を守る陸軍の第二作戦司令部や首都防衛司令部など一部を除く)。

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そして05年に当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が、戦時作戦統制権の還収と「自主国防」の概念を結びつけて以降、これは代々の進歩派政権の課題となってきました。

「戦時作戦統制権」を取り戻すことによって、自力で自国を守るという自主国防が完成するのです。これを可能にするため、国防費を増やし、軍事力を着々と積み重ねてきました。

なお、記事の本論に入る前に用語について説明します。米国にある戦時作戦統制権が韓国に移ることは「還収」、「返還」、「転換」、「回復(李大統領)」などと様々に表現されます。

返してもらうのか、取り返すのかといったニュアンスは異なりますが、意味はすべて同じです。米韓の間での公式用語は「転換」であるため本稿ではこれを用います。

盧武鉉大統領(左端)。右から3人目は文在寅大統領秘書室長(当時)。2007年に撮影されたもの。大統領記録館提供。

盧武鉉大統領(左端)。右から3人目は文在寅大統領秘書室長(当時)。2007年に撮影されたもの。大統領記録館提供。

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李在明政府が掲げる123の国政課題の中に、戦時作戦統制権の転換も当然含まれています。

目標は「拡大抑止を内実化するなど、韓米同盟に基づく全方位的な抑止能力の確保」、「韓国軍の核心的な軍事能力を補強し、任期内に戦時作戦統制権の転換を目標に推進」とあります。

なぜ単純に作戦権を取り戻すことができないのでしょうか。

今なお朝鮮戦争は休戦中で、北朝鮮と米国(と韓国)は対立を続けているからです。戦争を管理する実力を求められているのです。

ゼイビア・ブランソン韓米連合司令官在韓米軍司令官は、21日、22日(いずれも現地時間)、米国ワシントンで上下院の軍事委員会の聴聞会に出席し、戦時作戦統制権転換に関する重要な発言を行いました。

21日の上院では「政治的な便宜主義が、条件より前に出てはならない」「条件に集中すべきだ。そうしてこそ米国がより安全になり、韓国が安全になる」といった発言がありました。

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ここでの「条件」は過去、米韓が合意した戦時作戦統制権転換の条件を指します。

具体的には以下の図のようになります。

戦時作戦統制権転換の条件。筆者撮影。

戦時作戦統制権転換の条件。筆者撮影。

 大きく三つの条件に分かれ、それぞれに細かい課題が定められています。その総数は200あまりとされますが、条件①だけで150あまりの課題が割り当てられています。

さらに、条件①の下位にある三つの段階には73の「連合任務必須課題目録(CMETL)」が存在します。これは戦時に韓米連合司令部を韓国軍が運用できるのかをテストするチェックリストです。

三段階の内、一段階目の基本運用能力(IOC、初期作戦運用能力とも)の検証は終わっており、現在は二段階目の完全運用能力(FOC)の検証が進んでいます。

ここまで終わった段階で、最終的な転換時期を決めることになります。今年中にここまでたどり着くのが韓国政府の目標です。

それでは、上記の票の条件②と③はどうなるのでしょうか。こちらも重要になります。

特に軍事衛星を利用した韓国独自の偵察能力は米国に遠く及ばないため、補強が急がれています。③についても北朝鮮との関係を管理する必要があるでしょう。

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ブランソン韓米連合司令官は22日、「私たちは2029年の会計年度の第二四半期以前まで、該当する条件を達成するためのロードマップを国防部に提出した」と明かしました。これは米下院軍事委員会の聴聞会での発言です。

韓国の2029年第一四半期(2029年1~3月)にあたる時期に、戦時作戦統制権を転換する条件が整うという見通しです。正式な転換はその後になるということです。

なお、トランプ大統領の任期は29年1月まで、李在明大統領の任期は2030年6月までです。同盟国の自律性を求めるトランプ大統領の任期との兼ね合いは重要になるでしょう。

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米側が戦時作戦統制権転換の時期を明言したことは、大きな驚きを持って韓国社会に受け止められました。各紙が大きく報じています。

「ついに」、「いよいよ」という雰囲気の中、保守紙「朝鮮日報」は23日付けの社説『「戦時作戦統制権の転換は政治ではなく軍事の基準で」韓米のための忠言」で、ブランソン司令官の「条件に集中しなければならない」という発言を取り上げました。

社説ではさらに、「韓国の国防費は北朝鮮のGDPの1.4倍でその軍事力は世界5位」とする李大統領の平素からの発言を否定的に引用します。

これはあくまで「核を除いた評価である」というのです。同紙は「核ひとつだけで韓国の軍事力全体を相殺して余りある」と続けました。

韓国メディアを普段から読む人はここまで読めばもう後は分かります。そうです。朝鮮日報はこの後ずっと「戦時作戦統制権の転換は時期尚早」と主張し続けるのです。

在韓米軍が存在する限り、在韓米軍と韓国軍は有事の際に共同で作戦にあたらねばならない。韓国軍が米軍を指揮するなんて10年早い、という論調です。「高校生が大学生を指揮するのか」とありました。

朝鮮日報の該当社説。同紙をキャプチャ。

朝鮮日報の該当社説。同紙をキャプチャ。

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また、「韓国国内に向けた、政治的な宣伝のために戦時作戦統制権を転換する事は、韓国の安保を危険にさらす」と書いています。

大事なのは作戦権ではなく、国を守れるかどうかという点だと、同紙な重ね重ね強調します。北朝鮮はウクライナ戦争で実戦経験を積んでいる点も想起させます。

同紙は盧武鉉政権の時から一貫して、このように戦時作戦統制権の返還要求が持つ「政治性」を批判してきました。NATO加盟国も戦時作戦統制権を米軍司令官に委ねている点も常に併記されます。

盧武鉉大統領が強調したのは、韓国軍の「米国頼り」の姿勢を正すことでした。米国抜きで国を守れなくてどうするのだという叱咤がありました。

しかしこれは朝鮮日報の論調、つまり韓国右派の論調では「反米」、「身の程知らず」と変換されるのです。戦時作戦統制権の転換が近づくにつれ、この論争はより激化することでしょう。

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韓国国防部は23日、ブランソン司令官が明かした戦時作戦統制権転換の時期について「在韓米軍司令部の意見」と控えめな評価を行いました。

その上で転換の時期については、今年の「SCM(韓米安保協議会議)」を通じて決められ、その後、両国の大統領に建議される予定であると明かしました。年例の同会議は10月にワシントンで行われます。

尹錫悦政権時の混乱を経て、ようやく「進歩派政権の悲願」が大きく動き出しました。

戦時作戦統制権の転換には、平和な朝鮮半島が欠かせません。単なる指揮権の問題ではなく、朝鮮半島の未来に関わる選択だという視点が必要です。

ただ、韓国の作戦能力を証明するためには韓米合同軍事演習を重ねる必要があり、この点が今後、南北関係においてさらなる軋轢を生む可能性があります。上手に管理することが欠かせません。

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3. 今日の時事韓国語「전작권」

「チョンジャックォン」と読みます。漢字では「戦作権」です。

今日何度もでてきた「戦時作戦統制権」の略語です。超頻出単語です。

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今日はここまでです。

戦時作戦統制権の記事は日本語でもたくさん出ていますが、数百字で説明するには荷の重い話題です。長くなるのを承知で、いったん整理しておきました。

それではまた明日。お読みいただきありがとうございます。

アンニョンヒケセヨ。(徐台教)

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