【デイリー・コリア・フォーカス】26年3月30日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
3月30日、月曜日です。週末に韓国へと戻ってきました。
ここ最近、私自身の発信に物足りなさをひどく感じています。世の中は激しく動いているのにもかかわらず、表面をなぞっているだけというか。リニューアルの準備をしているとはいえ、もどかしい毎日です。
今日の目次は以下の通りです。
1. 李大統領「眠れないほど深刻な状況」イラン情勢が韓国にもたらす経済難が続々と可視化2. 「保守は惨敗した」李明博元大統領インタビューが話題
3. 今日の時事韓国語「국가폭력」
1. 李大統領「眠れないほど深刻な状況」イラン情勢が韓国にもたらす経済難が続々と可視化
現在の時刻は午後6時過ぎ。ニュースレターを書き上げ送信しようと思っていたところに、今日30日午後、済州特別自治道を訪れている李在明大統領の発言が飛び込んできました。
「世界的にエネルギー問題のため大騒ぎだが、私も眠れないほど深刻な状況だ」というのがそれです。現在の状況も悪いが、未来にはさらに状況が不安定になるのではないかと見通しています。
何度もニュースレターを通じお伝えしているように、韓国でもナフサ不足に端を発する様々な影響が表れています。
30日付のリベラル紙『京郷新聞』は一面で、農業に及ぼす問題を取り上げました。
ナフサ不足のため、農業用不織布の価格が30%、農業用のビニールの価格は1年前よりも40%近く上昇しているそうです。
さらに農業用の免税油(各種税金を抜いて供給されるガソリンや灯油など)も直近の3週間で13%値上がりしているとしました。
肥料の需給も危機です。肥料の原料となる尿素の38.4%がホルムズ海峡を経由してくるためです。また、尿素自体の国際価格も2月末の1トン480ドルから、現在は680ドルまで上昇しているとのこと。
韓国政府は上半期の在庫はあるとするものの、価格上昇は避けられないと同紙は見通しています。こうした事実を並べながら、一年の農業を左右する4月から5月にかけての時期に問題が重なり、重大な影響が出ると指摘しています。

30日の京郷新聞一面。
また、28日(現地時間)にイエメンの親イラン武装勢力フーシ派が参戦を宣言したことで、紅海の南側出口であるバブ・エル・マンデル海峡を封鎖する可能性が出てきた点が、韓国でも話題です。
やはり京郷新聞によると、韓国の石油会社は封鎖中のホルムズ海峡の代案として、サウジアラビア西部のヤンブー港から紅海を通る航路を実際に活用してきたそうですが、これが止まる可能性があるためです。
ナフサの5.9%がバブ・エル・マンデル海峡を通じ入ってくるそうで、さらなるダメージとなります。
こんな状況に、韓国の大企業も警戒を強めています。
30日付けの朝鮮日報によると、「サムスン・SK・現代自動車・LG ・ロッテなど韓国の主要財閥企業は車両の5部制または10部制での運用や、低層階の階段利用、昼食・退勤後の全体の消灯の義務化など、エネルギーの節約を行っている」とのことです。
また、「大韓商工会議所や韓国経済人協会といった経済団体も同様のキャンペーンを始めている」そうです。
韓国政府は、今月5日「資源安保危機警報」を一段階目の「関心」としました。その後、18日に二段階目の「注意」に引き上げましたが、これをいつ三段階目の「警戒」に引き上げるのかにも注目が集まっています。
30日夕方の報道では、4月1日から引き上げるという見方も出ています。
「警戒」となる場合、現在は公用車に適用される車両5部制を、民間にも導入する可能性があるそうです。29日、具潤哲(ク・ユンチョル)財政経済部長官が、出演したテレビ番組の中で明かしています。
引き上げの目安の一つとしては、ブレント原油価格が120ドルから130ドルになる点を示しました。現在は100ドルから110ドルの間です。
また、同じ29日、金民錫 (キム・ミンソク)国務総理は「非常経済本部」の会議を主宰した際に、「物資の需給危機への対応が、ゴールデンタイムを逃す場合、国民の負担と不便は堪えられない水準になるだろう」と述べています。
2020年の新型コロナ当時、マスクの需給が問題になった点に言及しました。なお、「ゴールデンタイム」とは、「対応が最も効果的な時間」を指す言葉として使われます。ニュース頻出用語です。
家の近所のガソリン価格は、先週と比べ約100ウォン(約11円)値上がりした1900ウォン(約200円)程度で、街はまだ平穏な雰囲気ですが(自家用車の数は減りました)、4月1日からはガラリと様相が変わるかもしれません。
日本で懸念されている人工透析のための用品不足については、まだニュースに取り上げられていない状況です。
しかし韓国にとって今の時期は、2か月先に大きな選挙を控えている点で、2020年2月の新型コロナ拡散時と似ているかもしれません。
当時は4月に国会議員選、今回は6月に統一地方選という違いはありますが、イラン情勢による経済危機をどう乗り切るかが選挙結果にかかわってくるため、韓国政府は必死でしょう。
選挙がなくともそうすべきというのは当然ですが、さらに力が入るはずです。もっとも、6月までにカタがつくとも思えないは不安ですが。いずれにせよ、政府の本気度がMAXになっているのは、不幸中の幸いなのかもしれません。
一方で、急ぎ編成する補正予算を通じ、市民が選挙前に「政府のおかげ」を実感できるようにすることは間違いなく、対策の本質を見失ってはならないでしょう。
20年当時は、コロナ対策が功を奏し当時の与党・共に民主党の歴史的大勝となりましたが、今回はどうなるでしょうか。選挙熱が徐々に高まり、国家の危機が選挙の話題へと回収されないよう願うのみです。
2. 「保守は惨敗した」李明博元大統領インタビューが話題
李明博(イ・ミョンバク)氏といえば、植民地時代の1941年に大阪で生まれ、解放後に帰国。貧しい家庭に育つも、サラリーマンとして成功した後、国会議員とソウル市長を経て2008年に大統領に就任した人物です。
この経歴から「立志伝上の人物」と評する者もいますが、退任後は、それまでの横領・収賄や脱税、任期中の収賄などで懲役17年の判決を受け収監。22年末に特赦されました。
その後、公の場に姿を現すことはあっても、メディアのインタビューを受けたことはありませんでした。その李明博氏が今回、日刊紙『中央日報』に対し、13年ぶりに重い口を開きました。退任後はじめてです。
同紙は都合3時間にわたるインタビューを、今日30日から有料読者限定で公開しました。その内容をダイジェストでお伝えします。なお、4月6日からは、李明博氏の回顧録の連載(週二回)を始めるとのことでした。

インタビューに応じる李明博元大統領。記事には30分あまりの動画も添えられています。85歳ですがずいぶんお元気そうでした。
第一回目は、タイトルにあるように「保守は惨敗した」というひと言が印象的で、あらゆる韓国メディアに引用されました。このひと言を引き出しただけでも、今回の企画は成功かもしれません。
インタビューはまず、若者の間で李明博氏の再評価が行われているという話から始まります。
私は初耳でしたが、李氏の下には「10代から30代までの若者から、ほぼ毎日70~80通の手紙が届く」そうです。その理由について李氏は、「私たち(若者たち)がだまされていたと、考えているようだ」と分析しました。どこに行っても、若者たちが歓迎してくれるそうです。
任期中に行った、最も誇らしい仕事を聞く質問には、2008年以降の金融危機を乗り切った点を挙げました。当時、韓国の企業家や公務院、労組組織の委員長までを呼んで説得したと振り返っています。銀行に対しては週末にも、企業からの資金調達申請を受けるようにしたそうです。
また、任期中に「中道保守路線」と「中道実用、実用外交」を掲げた点については、これを李在明政権が受け継いでいると評価しました。その一例として脱原発の撤回や、北極航路の開発、資源外交を挙げています。
李在明政府が中道実用路線を取っていることで、保守の立ち位置が無くなるのではという質問には、「南北に分かれているのに、南側でも分かれて争ってどうするんだ。韓国は他の国と(環境が)異なる。だから、政治家はその点をよく考えてほしい」と述べています。
次に、今なお尹錫悦路線、つまり不正選挙陰謀論との決別ができない最大野党・国民の力に関しては「前例のないこと」と評価し、以下のように続けました。
「過去には保守に問題点もたくさんあったが、それでも自由民主主義体制を守り、経済発展に寄与した。(声のトーンを高め:訳注、原文ママ)それなのに、今の保守を見ると、保守が惨敗した。ただ負けたのではなく、惨敗した。議会の3分の2があちら側だから。尹錫悦前大統領の弾劾は別の話で。それなのに、この惨敗した野党が分裂している。惨敗した家庭の内紛がこんなに強い中でどこに希望があるというのか。私は保守は惨敗を認めなければならないと見る」
その上で、「尹錫悦を間に分かれているのが話にならない」とし、尹氏の判断は法に任せ、野党は惨敗の原因を分析し、代案を作り世に問うべきと力説します。
ここで蛇足ですが、一点だけ説明します。李氏の言う保守の惨敗というのは、直近二度の国会議員選挙を指すようです。
総議席300のうち、2024年4月の総選挙で共に民主党は175議席、国民の力は108議席、2020年4月には共に民主党180議席(衛星政党との合計)、国民の力の前身・未来統合党は衛星政党を合わせ103議席でした。
保守(国民の力)がなぜ惨敗を認めないのかという質問に李氏は「それを説明できないというのが、理解できない。知る必要もないし、知ることもできない」と答え、「極右や極左に左右されてはならない」と述べています。
張東赫(チャン・ドンヒョク)代表をはじめ同党の幹部達に対しては「政治を行う資格もない人物たちが今、野党で何かしようとするのが問題だ。家でじっとしているべき人たちだ」とバッサリ斬りました。
李氏はさらに、政治をはじめ学界や宗教界もすべて分断しているし、このままでは韓国という国じたいが困難な状況になると指摘しています。「AI時代が来るのに、AIに恥ずかしいことになる。AIも『これじゃダメだろう』と心配するだろう」と笑いました。
今日公開された分はここまでです。次回また、続編をお送りします。
ここまで読んだ感想としては、「釣り人が釣果を振り返る際、話すたびに魚が少しずつ大きくなっていく」という開高健の一文を思い出しました。過去は常に美化されるのだな、という点に尽きます。
一方で、現在の保守陣営に対しての指摘はいずれも真っ当なもので、これは傾聴すべきでしょう。高市さんを見て、安倍さんの方がまともだった、という脈絡で理解すればよいのではないでしょうか。皮肉が過ぎるかもしれませんが。
とはいえ、ふだん、韓国の方々と話しながら、本当に政治的に分断していると感じることが多い中、李明博氏のような中道の考えというのが強調されるのは、それ自体を切り取れば良い事だとも思います。本当に大変です。
3. 今日の時事韓国語「국가폭력」
「クッカポンリョク」と読みます。漢字では「国家暴力」となります。
29日、李在明大統領は済州特別自治道にある「済州4·3平和公園」を参拝すると同時に、同事件の遺族と面談しました。
この際、李大統領は芳名録に「済州4·3を記憶し、国家暴力の再発を防ぐために、民・刑事の時効制度を廃棄します」と書き込みました。

芳名録の写真。青瓦台提供。
これは、過去、国家の名前で市民に暴力をはたらいた人物の罪を、最後まで追及する意志を明かすものとして受け止められています。
1948年から(広義には47年)から54年まで続いた「済州4·3事件」では、約2万5000人から3万人の犠牲者が出たとされます。20万島民の10%以上にあたる数です。その8割以上が、蜂起した武装隊を討伐する過程で、韓国軍警により殺されました。韓国現代史最大の悲劇の一つです。
「国家暴力」という言葉は、文字通り国家による暴力を指します。朝鮮戦争時代の住民虐殺、民主化を求める市民への長きにわたる弾圧などが全て含まれます。
その実行犯の断罪をやめないというこの日の李大統領の言葉は、「不当な命令には従わない」という、尹錫悦氏によるクーデター後に広く共有される精神と、軌を一にするとと言えるでしょう。

平和公園を参拝する李在明大統領夫妻。後ろにあるのは慰霊碑。青瓦台提供。
今日はここまでです。
南北関係についても書くことがたくさんあるのですが、字数が足りません。明日以降、遅れた分を書きます。
また、今週から毎週土曜日午前に、YouTubeライブを始めます。
「ウィークリー・コリア・フォーカス」として、ニュースレターの内容+αでやっていきます。もしかしたら来週からになるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。またお知らせします。
それではまた明日。ありがとうございます。
アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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