【デイリー・コリア・フォーカス】26年4月1日号

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徐台教 2026.04.01
誰でも

皆さま、アンニョンハセヨ。

4月1日、水曜日です。今日はエイプリルフールですが、冗談みたいにひどい世の中になってしまったのが悲しいところです。

ちなみに韓国ではエイプリルフールのことを、「萬愚節(만우절、マヌジョル)」と言います。それでも日常では笑って過ごしたいものですね。

今日の目次です。

1. 李大統領「緊急財政経済命令も」…人口7割への現金支給含め、中東発の経済難に韓国は‘耐える’選択か
2. 今日の時事韓国語「유해발굴」

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1. 李大統領「緊急財政経済命令も」…人口7割への現金支給含め、中東発の経済難に韓国は‘耐える’選択か

昨日は火曜日でした。そう、国務会議(閣議)の日です。李在明大統領が言いたいことを思い切り言う日です。この日は13分にわたって冒頭発言がありました。

まず、韓国政府の対応を「安定的」と評しながらも、対外依存度が高く、中東地域からのエネルギーを受け入れる比重が大きい韓国としては、より緻密な対策が必要であると発言しました。

特に強調したのは能動性です。

これまでの慣例に縛られず「政府が持つ権限と力量の最大値を発揮するよう努力すべき」とハッパをかけました。発言の最後尾でも保守的な公務員たちに同様の姿勢を求めるなど、公務員の働きぶり意識した発言が続きました。

さらに「緊急な場合には、憲法が定める緊急財政経済命令を活用することもできる」と続けています。後述しますが、この発言は大きな注目を集めました。

また、昨日のニュースレターの最後の部分でお伝えしたように、「従量制」のゴミ袋に関する言及もありました。社会に不安が広がらないようにでしょうか、強い口調で地方政府に対する指導と管理を求めていました。

精神論(?)もありました。

危機というのは日常的に訪れるもので、それにどう対応するかで、よりよい状況を作ることもできるという話です。続いて「石油類の消費を減らすことに積極的に参加してほしい」と訴えました。

また、今回の事態を機に「再生エネルギーへの大転換もこれ以上、後回しにすることができない、国家的で時代的な課題である点が確実になった」としました。これも重要な発言です。

「化石燃料に依存する、今のような経済産業構造をそのまま放置する場合、今後も地政学的な危険にそのままさらされるしかない」という認識です。

「方向は決まっている。どれだけ早く実行するかだけが(課題として)残っている」と意欲を見せました。

国務会議の様子。青瓦台提供。

国務会議の様子。青瓦台提供。

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3月31日には、ドキッとする出来事がありました。午後に1ドル=1536.9ウォンとなったからです。2009年の金融危機時の1ドル=1549.0ウォン以来のウォン安でした。

また、KOSPI(韓国総合株価指数)も4%以上急落し、5052.46となりました。ウォンはドルだけでなく、円やユーロなどに対しても全面安となり、李大統領が言及したような「対外依存度の高さ」が脆弱さにつながる形です。

このニュースに触れた時、私は「どうなってしまうんだ」と大きな不安にかられました。

そうでなくとも韓国は過去、通貨危機を経験しています。

これに対し、韓国銀行の新総裁候補・申鉉松(シン・ヒョンソン、66)氏は韓国の記者団に「現在、ドルの流動性が良好であるため、以前のようにレートと金融不安を直結させる必要はない」と述べ、「憂慮はない」との判断を下しました。

英国で学び、IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)での勤務経験を持つ申鉉松氏は、韓国を代表する経済学者です。

申鉉松氏。青瓦台提供。

申鉉松氏。青瓦台提供。

31日付の地上波『MBC』では同氏を取り上げながら、「海外の碩学からも、韓国人の中でノーベル経済学賞に最も近いと評価される人物」としました。いかにも韓国的な表現で苦笑いでしたが、その実力は折り紙付きのようです。

この日のウォン安にも韓国当局は介入しませんでした。前出の申氏の発言が、ウォン安を容認するものとして国際マーケットに受け止められたという見方もあるようです。

なお、韓国銀行が31日に公開した資料によると、昨年第四四半期に225億ドル(約3兆5000億円)の為替介入を行っています。外貨保有高は4月3日に3月の統計が発表されますが、4300億ドル程度です。

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この日の国務会議では、補正予算が可決されました。

金額は既にお伝えしたように、26兆2000億ウォン(約2兆7500億円)です。財源は昨年の半導体企業の業績や株式市場が好調だったことによる増収分で賄う形です。

「戦争追加予算」と呼ばれる予算の用途は、大きく三つに分けられます。

まずは「高油価負担の緩和」で、10兆1000億ウォン(約1兆620億円)が当てられます。この中には、油類価格の安定化のための資金に加え、市民への「高油価被害支援金」が含まれます。

これは所得下位70%の範囲に含まれる国民に一人あたり10万ウォン(約1万500円)から最大で60万ウォン(約6万3000円)までを支給する制度です。

油類高騰による現金負担を緩和するためのもので、地域通貨(居住地域だけで使えるプリペイドカード)の形で支給されます。支給額は所得や居住地域により異なります。

これには総額4兆8252億ウォン(約5000億円)の予算が割り当てられています。

予算の用途を説明する企画財政処の資料。

予算の用途を説明する企画財政処の資料。

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二つ目は、零細企業への資金供給や青年への雇用・起業支援、さらに農産物の割引支援といった「民生の安定および青年の回復」に2兆8000億ウォン(約2900億円)が投入されます。

三つ目は、輸出企業への支援、エネルギー転換への支援、文化産業の育成、サプライチェーンの安定化など「産業被害の最小化および供給網の安定」に2兆6000億ウォン(約2730億円)といった形です。

他に地方財政の補強に9兆7000億ウォン(約1兆200億円)となります。

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「高油価被害支援金」は所得下位70%に支給されることになります。人口×0.7という計算で、「約3600万人」と各メディアは表現しています。

一昨日のニュースレターで述べたように、韓国では6月3日に統一地方選があります。

このため、現金ではないとはいえ現金に準じる通貨の配布については賛否があるでしょう。現に、私の行きつけのカフェでも、激論が交わされていました(笑)。

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最後に、国務会議での李大統領の発言にあった「緊急財政経済命令」についてお話ししたいと思います。

聞きなれない言葉ですが、これは憲法76条で定められた(なお次の憲法77条ではあの「非常戒厳」を定めています)大統領の権限です。該当部分を引用してみます。第一項です。

大統領は内憂・外患・天災・地変または重大な財政・経済上の危機において、国家の安全保障または公共の安寧秩序を維持するために緊急な措置が必要で、国会の集会を待つ余裕が無い時に限り、最小限に必要な財政・経済上の処分を行ったり、これに関し法律の効力を持つ命令を発することができる。

韓国憲法第76条一項

1987年に改正された現行の憲法下では、これまで一度だけ同命令が発せられました。1993年8月のことで、当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領は金融実名制を導入するためにこれを活用しました。

実は李在明大統領は過去、新型コロナによる経済的影響が大きかった2020年や22年にも同命令について言及したことがあります。一種の持論と見ることができるでしょう。

とはいえ、同命令は戒厳と同列に並んでいることからも分かるように、あくまで非常時の手段です。

積極的に政策を進めたい李氏の意気込みの現れと受け止めるべきで、実際に青瓦台(大統領府)も「今すぐ」という見方を否定するコメントを地上波『MBC』などに明かしています。

韓国政府は他に、備蓄油を精油を行う企業に貸し出す「スワップ方式」も導入しています。これは企業が原油調達契約を決めた場合、実際に原油が届く前に、備蓄分を貸す制度です。

李在明大統領。支持率は60%台を維持し好調ですが、検察・司法改革をめぐっては様々な異論があります。

李在明大統領。支持率は60%台を維持し好調ですが、検察・司法改革をめぐっては様々な異論があります。

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ここまでざっと、韓国政府の動きを見てきました。

なお、今日1日の対ドルレートは、1ドル=1504ウォンと、落ち着きを見せています(これでもウォン安ではあります)。

イランと米国双方が「終戦」に向けた動きを見せている点や、韓国債が4月1日から世界国債インデックス(WGBI)に編入されたことによる資金流入が影響していると、韓国メディアは報じています。

日本のSNSを見ると「なぜ高市政権はイラン政府と直接交渉をしないのか」という書き込みを多く見かけます。

韓国もイラン政府から「ホルムズ海峡を航行できる」というメッセージを受け取っている点は同様です。さらに、イランと公に交渉していない点も同様です。

「戦争後」を見越した動きがどうなっているのかは分かりませんが、少なくとも今は、ここまで書いてきたような政策を最大限行うことで、遠くない終戦を見越し「耐える選択」をしていると見ることができるでしょう。

なお「イランと交渉せよ」という声は、保守紙・リベラル紙問わず、どの社説にもありません。

下手に動いてトランプ大統領に恨みを買う訳にはいかないという、李在明政府、そして韓国社会の‘固い意志’が見て取れます。生存本能のようなものでしょう。また、国際協調という原則を維持している点も見逃せません。

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2. 今日の時事韓国語「유해발굴」

「ユヘパルグル」と読みます。漢字では「遺骸発掘」です。

今朝、韓国の国防部からメールが届きました。「白馬高地」での遺骸発掘が、今日4月1日から再開されたというものです。

「白馬高地」というのは、その形が横たわる白馬に似ているということから名付けられた高地で、江原道(カンウォンド)鉄原(チョロン)郡にあります。

同地は朝鮮戦争(1950~1953、以降休戦)時の激戦地として知られます。

1952年10月に中国人民志願軍と韓国軍の間で激戦が行われ、韓国軍の死者・不明者は3146人、中国軍の死者は1万4389人にのぼりました。

現在は韓国領で、韓国軍が遺骸を発掘しているということです。冬は厳冬のため発掘できないのですが、春になったため再開されました。

なお、下記記事にあるように、隣接する「ファサルモリ高地」では19年に南北が合同で遺骸発掘を行ったことがありました。

実は今年のお正月に、私も娘を連れて白馬高地を望む鉄原の所伊山(ソイサン)に登ってきました。このメールは、私は何のために仕事をしているのかということを、改めて思い起こしてくれました。

今日はここまでです。

中間選挙の話題、さらに先日第一回目を紹介した李明博元大統領のインタビューの話(今日完結しました)も滞っています。

それでも今、韓国で最も重要なニュースであり、さらに日本社会にも一つの参考になればと、経済対策の話を取り上げました。焦りをなだめつつ、気長にやっていきます。

それではまた明日^^ ありがとうございます。

アンニョンヒケセヨ。(徐台教)

真ん中の横長の丘が白馬高地です。奥の山は北朝鮮領です。韓国の最前線です。1月2日、筆者撮影。

真ん中の横長の丘が白馬高地です。奥の山は北朝鮮領です。韓国の最前線です。1月2日、筆者撮影。

所伊山から望む鉄原平野。真ん中を横切る黒い帯は林で、その間に南北の軍事境界線があります。同上。

所伊山から望む鉄原平野。真ん中を横切る黒い帯は林で、その間に南北の軍事境界線があります。同上。

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