【デイリー・コリア・フォーカス】26年1月26日号

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徐台教 2026.01.26
誰でも

皆さま、アンニョンハセヨ。新しい月曜日ですね。

「デイリー・コリア・フォーカス」1月26日号をお送りいたします。

それにしても一日たりとも静かな日はありませんね。日本も選挙を控え同様だと思います。

「デイリー・コリア・フォーカス」を10分ほど読むことで韓国や朝鮮半島で起きている大切な動きに触れ、日本はどうかなと考えてみるのもよいでしょう。

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今日の目次は以下の通りです。

1. 米国の新国家防衛戦略「韓国は北朝鮮抑止に責任を」
2. 民主党系の支柱・李海瓚元国務総理が死去
3. 「嫌中」の現住所と、その対策
4. 李大統領、‘肝いり人事’を撤回
5. 今日の時事韓国語「점메추」

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1. 米国の新国家防衛戦略「韓国は北朝鮮抑止に責任を」

23日(現地時間)米国戦争部(旧国防部)は「国家防衛戦略(2026NDS、National Defense Strategy、以下NDS)」を発表しました。

昨年12月に発表された「国家安全保障戦略(NSS、National Security Strategy)」の下位文書にあたるもので、新政府の安全保障の指針を示します。

内容は34ページにわたりますが、本項では朝鮮半島についての部分を中心に取り上げます。

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文書の内容は大きく「戦略環境」と「戦略行動」の二つに分かれています。

まず「戦略環境」では米本土および西半球、中国、ロシア、イラン、そして朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)、さらに同時多発的な脅威の問題と同盟国への負担分担が扱われています。

この中で、北朝鮮に対しては「米国の同盟国である韓国と日本すべてに対する、直接的な軍事的脅威を加えている」とし、その核・ミサイル能力について言及しました。

さらに、その核能力を「米本土に対する核攻撃という明白で現存する危険を提起している」と位置付けています。なお、北朝鮮の非核化には言及しませんでした。

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次に「戦略行動」については、「戦略環境」の項で触れた、「多くの同盟国は米国が自身を守ってくれると思い国防費を削減した」という言及したに対応するかのように、その負担増を明確にしています。

韓国に対してはまず、「強力な軍隊と高い水準の国防費、堅固な軍需産業と徴兵制」挙げ、これを根拠に「より制限的(限定的)な米国の支援を受け、北朝鮮抑止の主たる(一次的な)責任を果たすことができる」とその役割を規定しました。

また、在韓米軍についても「配置の現況をアップデートする」と、‘同盟の現代化:在韓米軍の柔軟な運用’という最近の立場を改めて明かしています。

このような「責任分担」、言い換えると「韓国の独り立ち」を求める内容は、バイデン政権が2022年に発表したNDSとは大きく異なるものです。当時は北朝鮮に対し「韓国と緊密な協助を行う」と言及していました。

2026NDSの表紙。米国防部より引用。戦争部とか書きたくないですよね。

2026NDSの表紙。米国防部より引用。戦争部とか書きたくないですよね。

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それではいったい、この文書をどう解釈するのか。

総合日刊紙5紙のうち『ハンギョレ』を除く4紙は26日付けの社説でこぞって言及しました。

(26日16時追記:ハンギョレも25日付で社説を出していました。「社説」カテゴリではなく「政治」カテゴリに記事があったため気付きませんでした。なお、その内容はやはり「NDSをテコに自主国防を急げ」というものでした)

『朝鮮日報』は「米国は韓国を対中国戦線の監視基地程度に見ているようだ」と指摘します。

これは米国がNDSで、日本の南西諸島から台湾そしてフィリピンまでを結ぶ「第一列島線」に防衛戦を築くとしたことに対応した言及です。

その上で、韓国軍の規模縮小・士気や練度の低下を指摘し、「自主国防」をしっかり打ち立てることを政府と政治に注文しました。

今回のNDS発表を受け、李在明大統領も24日、SNSを通じ「不安定な国際情勢の中で自主国防は基本中の基本」と明かしています。

自主国防というのは、狭義には「韓国軍だけで北朝鮮を抑えること」を指し、広義には「自分の国は自分で守る」というものを意味します。

その第一歩として、朝鮮戦争(1950~53、休戦中)時に米国に預けた戦時作戦統制権を取り戻すことがありますが、李在明政権はこれを公約に掲げています。

これは盧武鉉政権(ノ・ムヒョン、03~08年)の時から進歩派政権の悲願であったもので、自主国防は文字通り、韓国の外交的自主性を高めるものともつながります。

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各紙社説に戻りましょう。

『東亜日報』は「韓国が中国の潜在的な攻撃の標的になる事案を、緊密な協議もないまま米国が一方的に決めることがあってはならない」と憂慮を示しています。

李在明政権の北朝鮮との対話の姿勢も「北の核の挑発を阻止する確固とした抑止力があってこそ可能」とし、これを米国に説得すべきと訴えました。

『中央日報』は昨年のNSSに続き、今回のNDSに「北朝鮮の非核化」についての言及が無い点が問題であるとし、トランプ政権が北朝鮮の核を認める方向に転換するのではと心配しています。

その上で、NDSを原潜建造への支援など、韓国の「自強力」を高める契機として利用すべきと主張しています。

ここまでは保守紙の論調です。

実はリベラル系日刊紙『京郷新聞』の論調もあまり変わりません。

「自主国防に向け動揺せず進んでいけばよい」というものです。今回のNDSを、より具体的に戦時作戦権の返還を議論するきっかけにすべきとの主張です。

韓国紙の論調のまとめとしては、もはや「独り立ちは避けられない」という前提の下、「それをどう実現するのか」を共通して指摘しているとみることができるでしょう。

なお、NSSとNDSの策定に大きな役割を果たした米戦争部(国防部)のエルブリッジ・コルビー政策担当次官が、25日から3日間の予定で訪韓しています。具体的な話はまた出てくることになりそうです。続報します。

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2. 民主党系の支柱・李海瓚元国務総理が死去

韓国で最も知られた政治家の一人、李海瓚(イ・ヘチャン)元国務総理が死去しました。

南北統一に関する政策を進める大統領直属機関・民主平和統一諮問会議の首席副議長として、公務で訪問していたベトナムで心筋梗塞により倒れ、そのまま客死となりました。73歳でした。

1952年生まれの同氏は、ソウル大学生の時から亡くなるまでの50年間、一貫して「民主陣営」に所属してきました。民主化運動に文字通り身を投げうち、軍事政権から激しい拷問を含む弾圧に遭いながらも、その達成に貢献しました。

故金大中(キム・デジュン)大統領が平和民主党を率いていた在野時代の88年に政界入りし、その後、7期28年を国会議員として過ごしました。

金大中政権(98~03年)では教育部長官を、盧武鉉政権(03~08年)では国務総理の重職を担いました。

その後、保守政権が9年続くなか、民主党系の顧問として党を支え続け、文在寅政権(17~22年)では共に民主党代表として2020年の総選挙での歴史的大勝を実現しました。

また、李在明大統領(25年~)の強力な後ろ盾としても知られ、4人の民主党系大統領と共にしたその足跡は、韓国民主主義・民主党系そのものであったと評価されています。

昨年12月、第22期民主平和統一諮問会議の発足式での李海瓚氏(左)。体調の悪さは伝えられていました。拷問の後遺症する見方もあります。青瓦台提供。

昨年12月、第22期民主平和統一諮問会議の発足式での李海瓚氏(左)。体調の悪さは伝えられていました。拷問の後遺症する見方もあります。青瓦台提供。

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こんなキャリアから、進歩陣営ではたくさんの方がその死を悼む様子が、SNSなどで見受けられます。

一方、保守陣営も李海瓚氏の死を、礼節をもって受け止めているのが印象的でした。

最大野党・国民の力は25日、首席報道官名義で「深い哀悼」を表する論評を出しました。

この中で李氏の死去を「7選の国会議員と国務総理を歴任し、政治の中心で長い時間を過ごした方でした。在野にはじまり国政の責任を担うまでの道は、私たちの政治史の一つの場面として残るでしょう」と受け止めています。

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昨日、誇張ではなく李海瓚氏の死を悼む記事やニュース、様々なSNSの書き込みを数時間のあいだ見ていました。

特に「進歩派が20年集権しなければならない」という持論の裏に迫った、週刊誌『時事IN』の6年前のインタビューは印象的でした。

「20年集権論」は一般的に「進歩派の過度な権力欲」と受け取られることが多かった発言でしたが、李氏の論理は別のところにありました。

それは「韓国という国は、制度政治だけが例外的に進歩的で、経済・金融・言論・イデオロギー・検察といった社会のほぼ全ての領域を保守が握っている」というものです。

つまり、「保守が強すぎるので進歩陣営が20年集権する必要がある」という主張で、「民主化は形式ではなく、価値と主体の問題である」という指摘でした。

このように保守陣営をまるごと「敵」と見なすその視点には批判の目もありましたが、中身は傾聴に値するものと言わざるを得ません。

私もまた、李海瓚氏の死去を「こうやって生きてきた人がいた」と受け止めています。

その細かい功過の論評を離れ(これはこの後すこしずつ出てくるでしょう)、今の民主主義韓国を作った人物の一人であり、一貫した生き様から学ぶことは多いとしみじみ思っています。

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3. 「嫌中」の現住所と、その対策

リベラル系日刊紙『京郷新聞』が23日付けの記事で、韓国に広まる「嫌中」の現状を詳細に取り上げました。

昨年12月の世論調査で中国に対し「好感を覚えない」とした回答者は72%で、18~29歳では86%、30代では81%に達したといいます。

記事では「反中」と「嫌中」を区分する言説を紹介しています。

「反中」は政策や体制、理念や文化などに対する反感と拒否感で、「嫌中」はこれに恐怖や怒り、差別に基づく嫌悪感情が結びついたものである、ということです。

さらに「嫌中」が韓国が浮上したのは、04年の「東北工程」、つまり中国の「歴史歪曲」の試みがきっかけだったとします。その後、中国が経済発展する中で、危機感や恐怖感がこれに加味されているということです。

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そしてこの「嫌中」情緒に火をつけたのが、24年12月3日の尹錫悦前大統領による非常戒厳でした。

これまでの「嫌中」は中国が原因だったとすれば、『12.3』以降の「嫌中」は国内的な政治・社会状況により自生的に大きくなっていったとします。

尹錫悦は中国による選挙介入という「不正選挙」を掲げ、尹錫悦を支持する極右勢力はこれにスローガン化し、保守政治家もこの情緒を利用したというのです。

記事で専門家は、この過程で「反中情緒が人種主義(レイシズム)に変わったのではないかと思う」と分析しています。そして、このように人種主義になったため、解決が難しくなったと指摘しています。

京郷新聞の記事。

京郷新聞の記事。

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これに対応するための対策にも、記事では言及しています。

嫌中情緒への対応を、マイノリティ嫌悪(ヘイト)に対応する次元として捉え、「嫌悪の認識が拡散することが自体が、社会が不安定化する信号」として受け止め、「学校をはじめ文学・宗教・産業など各分野で嫌悪の認識を減らすための役割を模索すべき」というものです。

あまりに一般的ですよね。

より具体的な対策としては、嫌悪(ヘイト)表現や嫌中デモを規制する法律を挙げています。

しかし保守陣営が「表現の自由を侵害する」と反発しているとします。

一方、「外国人を対象とする反対デモを法で規制すること」に対し「必要50%、必要ではない42%」という先の世論調査の結果を提示しました。これに言及する過程で「日本のように『ヘイトスピーチ解消法』を作る」という内容も出てきました。

記事はここで終わっています。

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私は法律でヘイトを規制すべきで、その枠組みは「包括的差別禁止法」を用いるべきと考えています。

この点において、日韓は同じ悩みを抱えていると思います。

日韓政府は今、首脳間の合意により自殺や少子高齢化、地方創生といった共通の社会問題を解決するための協議体を運営していますが、ここに「ヘイト対策」を入れるべきではないでしょうか。

今後、こうした論陣を張っていきたいです。

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4. 李大統領、‘肝いり人事’を撤回

今日の最後です。

25日、李在明大統領が李恵薫(イ・ヘフン)氏に対する、企画予算処長官への候補指名を撤回しました。

企画予算処というのは、前政権における巨大省庁「企画財政部」が、李在明政権下で分割されることでできたものです。

国家の国家発展戦略の樹立や、財政政策の樹立、国家予算の編成・執行・管理を担う省庁で、処長は長官級です。

なお、もう片方の「財政経済部」は経済や金融政策を受け持つ形です。

李恵薫さん。9年前のSNSからの引用です。最近の写真は著作権があるため引用できませんでした。

李恵薫さん。9年前のSNSからの引用です。最近の写真は著作権があるため引用できませんでした。

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経済学博士出身で、保守陣営の最大野党・国民の力で国会議員を三期務めた同氏の抜擢は、李大統領によるサプライズ人事でした。

重要な職責に保守陣営の著名政治家を指名することは、進歩・保守陣営の「統合」をはかるものとされました。

指名当時から与党内でも反発があり、国民の力は「裏切り者」とすぐに同氏を除名しました。

成功した場合、李大統領ならではの成果なったかもしれませんが、なにせ李恵薫氏が抱える疑惑がひどすぎました。

高級マンション分譲権の不正取得、議員補佐官へのパワハラ、尹錫悦の非常戒厳支持などハチャメチャとしか表現しようがない、国会議員としての特権にまみれた生活でした。

23日にあった人事聴聞会でも、李恵薫候補がこうした疑惑に正面から答えられなかったことから(というか、無理でしょう)、政権としてもこれ以上、支え続けることができないと判断したものです。

この騒動は「いったい、国会議員はふだんどんな特権を享受して生きているのか」、「青瓦台(大統領府)の人事検証システムは機能しているのか」という疑問だけを残しました。情けない話です。

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5. 今日の時事韓国語「점메추」

「チョムメチュ」と読みます。「점심 메뉴 추천」の略後です。

「점심チョムシム」はお昼ご飯、「메뉴メニュ」はメニュー、「추천チュチョン」は推薦です。

つまり、「お昼ご飯のオススメ」となります。

なんのこっちゃですが、お昼ご飯に何を食べるか迷う人に、ルーレット形式で決めてくれるコンテンツが、TikTokやInstagramなどに多数あります。

「チョムメチュ」ルーレット。Instagramより引用。

「チョムメチュ」ルーレット。Instagramより引用。

ちなみに、娘に教えてもらった言葉です。

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今日はここまでです。

どうしても月曜日は長くなってしまいますね。

海外ニュースは本ニュースレターの対象外ではありますが、韓国でも米国移民当局ICEによる暴挙は大きく報じられています。26日付けの『京郷新聞』では一面に大きな写真がありました。

トランプ氏の反移民政策の支持率は30%まで落ち込んだようですね。

一方、Xなどには衆議院選挙にかこつけて、さっそくヘイトスピーチをばらまく参政党人士の動画が流れてきます。3項で言及したように「反移民」に騙されてはなりませんね。

それではまた明日。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)

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