『梨泰院惨事』から1年、「改革の旗手」に聞く韓国の政治改革、医大定数拡大をめぐる議論など全8トピック|第9号
(10月24日)サポートメンバー(有料会員)の皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第9号をお届けいたします。今号は韓国社会・韓国政治をテーマにお届けします。最も大きなテーマとしては昨年10月29日に起き159人の死者を出した梨泰院での事故から1年が経つというものがあります。次いで、韓国の政治改革における明確なビジョンを詳細に解説しました。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国社会(1):『梨泰院惨事』から1年、現状と争点
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韓国社会(2):17年間据え置きの医大定数拡大?尹政権の「レガシー」になる可能性も
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韓国社会(3):信頼度1位、報道チャンネル『YTN』の筆頭株主に民間企業
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韓国政治(1):「改革の旗手」李誕熙議員インタビューから読む韓国の政治改革
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ショートニュース:変わる世論調査、政治・選挙の世論調査は必ず面接式で…信頼度アップなるか/与党の革新委員長にサプライズ人事/『梨泰院惨事』に関する米ドキュメンタリー、韓国で視聴禁止に?/小学校3年生の娘が校内暴力…大統領室の秘書官が辞任
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あとがきに代えて:「国家」を前に悩む
◎韓国社会(1):『梨泰院惨事』から1年、現状と争点
昨年10月29日、ハロウィンを楽しもうとソウル市内の梨泰院(イテウォン)に集まった市民が、傾斜のある狭い路地で密集し転倒する事故が起きました。
繁華街への近道となる幅3.2メートル、長さ40メートル弱の路地の上下から数百人の市民が押し寄せ、身動きが取れないまま多数が圧死しました。犠牲者は159人。この中には外国人26人と、事故後に自ら命を絶った1人が含まれます。
こんな『梨泰院惨事』と呼ばれる大事故から一年、韓国では今、事件に関する動きはどうなっているのでしょうか。
まず、最も肝心な立法から見ていきます。
現在『10.29梨泰院惨事被害者の権利保障と真相究明および再発防止のための特別法案(梨泰院特別法。以下、特別法)』が国会に係留中です。
時限付きの「ファストトラック」制度に指定されており、12月から60日の間に国会本会議での票決が行われる予定です、成立が見込まれています。
法律には被害者の支援などの内容が含まれますが、真相究明が最も重要な争点として位置づけられています。しかしこの部分で与野党間の意見が衝突しています。
与党は特に「セウォル号特別法のように社会的な葛藤を増幅させる」という理論を持ち出しています。
修学旅行中の高校生258人を含む304人が亡くなった2014年4月16日のセウォル号沈没事件に関しては「9回の国政調査、特別調査委員会の調査、特別検察による調査」が行われたものの、検察の捜査以上に新たな事実が明らかにならなかったというものです(週刊誌『時事IN』記事より)。
一方で、遺家族と市民が作る団体『10.29梨泰院惨事市民対策会議』の関係者は週刊誌『時事IN(シサイン)』への取材に「その間の真相究明が捜査機関中心で行われたことに根本的な限界がある」と明かしています。
その上で「充分なマンパワーと予算を投入する『調査』が必要である」としています。「捜査」ではなく「調査」を行うことで、現在の「トカゲの尻尾切り」のような現場関係者だけに責任を被せるのではなく、惨事が起きた原因を究明し再発を防ごうという主張です。
事故現場近くの電柱には「子どもたちよ、お前たちを守ってやれず本当に申し訳ない」と書かれた張り紙があった。事故の翌日の22年10月30日、筆者撮影。
『聯合ニュース』によると、事件後に設置された特別捜査本部は今年1月13日、梨泰院が所属する自治体であるソウル龍山(ヨンサン)区の区長や警察署長など23人を検察に送致しました。
この中で2人が不起訴となり、また新たに2人が捜査対象となったため、現在も容疑者・被疑者は23人のままです。
裁判についてはやはり『時事IN』の記事によくまとまっています。余談ですが、韓国にも日本ほどではないですがいくつか週刊誌があります。特に『時事IN』と『ハンギョレ21』は進歩派メディアとして、社会問題に深く切り込むので重宝しています。週刊誌というのは良いですよね。
裁判の争点はひと言で「予見できたか」というものです。
事故当時、龍山区庁と龍山警察署に所属していた(している)被告たちは、責任を否定する論理として「事故を予見できなかった」と主張しています。
被告たちの多くには「業務上過失致死罪」が適用されているのですが、この立証のためには、▲具体的な注意義務の違反、▲結果の発生に関する予見可能性が存在、▲結果を回避できる可能性が存在、▲過失と結果の間の因果関係が存在、という4つの条件をすべて満たす必要があるそうです。
つまり「事故が起きることを予想できなかった」と主張し、さらに「事故を認知して以降は最善を尽くした」とすることで責任を逃れようとしているというのです。
こうした認識(弁明)は両機関だけでなく、罪を問われている政府機関に共通しています。
事故直後、事前に存在した危険性を指摘する内部報告書を削除した疑いで裁判中のソウル警察庁・公共安寧情報外事部長は23日の裁判で改めて「梨泰院惨事は、人々がたくさん押し寄せた場合に一般的に考え得る安全事故の範囲を超えている」と主張しています。
前出の記事ではまた、裁判が遅々として進まない点も指摘しています。担当する裁判所は他の刑事事件も担当しているため、裁判は月に一度のペースでしか行われないとしながら、身柄を拘束されていた人物はすべて釈放されたと伝えています。
「結局、誰も処罰を受けないまま梨泰院惨事の一周忌が訪れた」
今週号の『時事IN』では梨泰院惨事一周年特集として6本の記事が掲載されたのですが、一番印象深かった一文でした。
事故が起きた路地。今もメッセージを書き込みに市民が訪れます。10月15日、筆者撮影。
私も24日、『10.29梨泰院惨事市民対策会議』のイ・ミヒョン共同状況室長に改めて電話で取材を行いました。
政府の責任や責任逃れに対する指摘は上記の記事内容と似たものでしたが、特別法について「できるだけ与野党の合意の下で可決されてほしいと要求している」と明かしました。
前述したように与党は特別法に反対していますが、野党が議席の過半数以上を占めているため、法案の可決は確実視されています。しかし与野党合意という形は今後に禍根を残さないためにも重要でしょう。
また、追悼施設についても聞いて見ました。現在ソウル市庁前にある追悼施設についてソウル市は「一周忌まで待つ」としています。
イ室長はこれについて「一周忌後に撤去するとも読み取れる」と指摘しつつ、「『市民対策会議』としては十分に今のまま共存できるし、真相が究明されたと確信を持てる時点でその後のやり方を決めると明かしている。ソウル市が尊重してくれることを願う」と述べました。
筆者も先週、梨泰院の事故現場を訪れましたが、整備されているとは呼べない状況です。イ室長は「梨泰院の現場にはパネル(プレート)を設置する案がある」と教えてくれました。詳細は木曜日(26日)の会見で明らかにするそうです。
凄惨な事故から一年。聯合ニュースによると、事故後から今年10月5日まで、国家トラウマセンターで市民がカウンセリングを受けた件数は7141件にのぼるそうです。
セウォル号事件と比べ、社会の関心は低い印象をどうしても受けていまいますが、遺族や市民の闘いはまだまだ続きそうです。29日の一周忌集会なども今後、お伝えしていきます。
事故の生存者と遺家族が事故を語る証言集が発刊されます。
◎韓国社会(2):19年間据え置きの医大定数拡大?尹政権の「レガシー」になる可能性も
韓国の医療についてどんな印象をお持ちでしょうか?
ヒットしたいくつかのヒューマンドラマの影響で、良い印象をお持ちかもしれません。しかし現実は満足には程遠いのが現状です。
今年10月19日、韓国の保健福祉部は『生命と地域を蘇らせる必須医療革新政策』という20ページあまりの報告書を発表しました。
その第一項目がまさに「国民の健康・生命と直結した地域・必須医療の生態系崩壊の危機」というものでした。大ピンチ、ということです。
報告書が出た背景には、その数日前に「2025年から医大の定員増員」というメッセージを尹錫悦大統領がぶち上げたからに他なりません。
韓国の医大定員は06年から年間3058人で据え置かれたままです。
「増員は最大で1000人にも」という情報は文字通り韓国社会に新鮮なショックを与え、各メディアから韓国の医療に関する記事が溢れ出ました。そうして明らかになった韓国医療の現状は、確かにひどい状況です。
問題は大きく地域医療格差と、医師の不足に分けられます。
前者では「ビック5(ソウルにある5つの大規模総合病院)で“上京治療”を受ける患者が年間71万人」(朝鮮日報)、「ガン患者の30%がソウルで“上京治療”」(東亜日報)、「ソウルの人口1000人あたりの医師数は3.47人に比べ慶尚北道1.28人、忠清南道1.54人など11の市・道では2人に満たない」(中央日報)など、枚挙に暇がありません。
全羅南道には医大がそもそも存在しないという点なども改めて明らかになりました。
次に医師の不足については『時事IN』が入手した政府資料によると、25年から医大の定員を1000人ずつ増やしても2035年の韓国人口1000人たりの医者の数は3.37人でOECD平均の4.5名に満たないそうです。
また、2010年と20年を比較する場合、米国は7868人、フランスは2968人、日本は1394人も卒業生数が増えているのに、韓国はゼロです。韓国の医大定員は3058人と2006年からずっと同じ数が維持され続けているからです。
さらに、10万人当たりの医大卒業者数は06年には9人でOECD平均(8.9人)と似たような水準でしたが、20年には韓国7.2人、OECD平均13.6人とその差が広がっています。
同誌の別の記事を引用すると2030年には1万4000人、2035年には2万7000人の医師が足りなくなるといいます。
『朝鮮日報』ではこうした医師不足を埋めるためだけに政府が再来年から医大定員2535人増やす必要があるとしています。
また、30年後にOECD平均に到達するためには5500人増やす必要があるとまでしています。これは最大1000人増とされる政府暫定案でも足りないことを示しています。
19日、『必須医療の革新のための戦略会議』に参加した尹錫悦大統領。大統領室提供。
19日、尹大統領は忠清北道・忠州大学で行われた『必須医療の革新のための戦略会議』で「国民の健康と生命に直結した地域の必須医療の崩壊および地域間の医療格差など」を当面の課題として指摘しました。
また「地域の必須医療を復活させ、超高齢社会に備えるために医療人材の拡充と人材の養成は必要条件」と述べ、医者の定員を増やすことを改めて表明しました。
しかし理にかなっているように見える政府の医師拡充の動きに対し、韓国最大の医師団体である『大韓医師協会』は強く反対しています。
同協会は19日に決意文を発表し、必須医療の危機の原因を政府の支援策の不足に求める立場を明らかにしました。医師が足りないからではない、ということです。
とはいえ、その反対のトーンは同じく医師の拡充を訴えた文在寅政権の時よりも低めです。
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