【デイリー・コリア・フォーカス】26年11月2日号 [朝鮮半島問題]:韓米SCM延期、朝鮮が約1兆円を強奪?進む朝鮮の軍備拡張 など

皆さま、アンニョンハセヨ。11月2日、月曜日です。ついに今年も残すところ二か月となりました。韓国は冷たい風が吹くようになり、夜遅く愛犬の散歩に出る際に、思わず身を縮めることが増えました。
朝鮮半島情勢は、フタは閉じているものの、中はぐつぐつと煮えている鍋に例えることができるかもしれません。朝鮮側の積極的な動きを前に、韓国に住む人々は朝鮮への異質感を高めているのではないかと想像できます。先週一週間、何があったのか見ていきましょう。
今日の目次は以下の通りです。
(1)「SCM延期」も韓米関係維持に腐心する韓国政府
(2)「史上最大の銀行強盗」朝鮮のハッカー集団が約1兆円を強奪
(3)韓日米外相が「朝鮮の非核化」を再確認
(4)ドローンと核搭載可能なミサイル試験…止まらぬ朝鮮の軍備拡張
(5)南北を行き来するスイス外相
(6)今日の時事韓国語「해킹」
(1)「SCM延期」も韓米関係維持に腐心する韓国政府
韓国の統一部長官が、朝鮮の核開発に関する機密情報を口外したことによる情報共有の制限や、在韓米軍司令官が、戦時作戦統制権の転換にまつわり韓国の主権侵害と受け止められる発言をするなど、韓国と米国の間にはギクシャクした関係が続いています。
そうした中、年内に開催されるはずのSCM(韓米安保協議会議)が延期されたことが明らかになりました。
10月28日、フィリピンで米国のヘグセス国防省(戦争省)長官と、韓国の姜信哲(カン・シンチョル)国防部長官が会談した結果、今年予定されていたSCMを来年初頭に開催することで合意したのです。
SCMとは、韓米両国の安全保障能力を高めるために必要な議題を議論する年例会議です。軍事同盟を結ぶ両国において、非常に重要な位置付けを持っています。
1968年に「国防閣僚会談」という名で始まったもので、今年は58回目の会議が予定されていました。延期は1980年、1998年以来に続き3度目と異例のことです。

10月28日、フィリピンで会談した米国のヘグセス国防省(戦争省)長官と、韓国の姜信哲(カン・シンチョル)国防部長官。韓国国防部提供。
今回の決定の背景には、何があるのでしょうか。
韓米間の意思疎通に問題があるのではないかという問題提起が、朝鮮日報や中央日報といった保守紙から出ています。中央日報ではSCMを「韓米同盟の象徴」と評し、この延期は韓米同盟の現住所を表していると批判的です。
同紙は、戦時作戦統制権の転換に注目します。
今回の両国防長官の会談後の共同発表文に「両国は戦時作戦統制権の転換が、‘適期’に順調に行われるよう協力することにした」とあるとしながらも、米国はあくまで「時期」でなく「条件」にこだわっているとしているのです。
その上で今や、戦時作戦統制権の転換は「未来の韓米同盟の位相を再規定する事案である」と指摘します。これは正しい見方で、韓米同盟は今、大きな節目を迎えているのです。
早ければ2028年内に、遅くとも2030年初頭までに転換が行われるためには、より多くの「軋轢」が待ち構えているのでしょう。SCMに先駆け、今年12月には米ワシントンで韓米両国の国防相会談が行われる予定です。
他方、韓米関係の現状について、李在明政府の重要人物からの‘診断’が出ている点も見逃せません。
李鍾奭(イ・ジョンソク)国家情報院長は10月29日、国家情報院への国政監査に臨みました。この席で、「米国からの情報提供がごく一部制限されている」旨を明かしながらも、情報協力がうまくいっていないという見方には否定的な態度を示しました。
他方、魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安保室長は30日、記者団に対し、韓米間の現状について説明しました。
ここでは原子力潜水艦の建造といった安全保障分野での協力が「中断している」と明かしています。戦時作戦統制権の転換については、「米国の意志を再確認した」と強調しました。いずれも聯合ニュースなどが伝えています。
韓米間には、他にも関税引き下げと引き換えの対米投資の進捗が遅い点など、いくつかの懸案事項があります。韓国政府は戦時作戦統制権の転換を最優先事項にしながら、調整を続けていると言えるでしょう。

韓国の魏聖洛国家安保室長は30日、今年の韓米合同演習「ウルチ・フリーダム・シールド」を通じ、FOC検証のための能力評価を完了したと明かした。SCMを通じ、検証が完了する場合、第三段階のFMCの検証へと進むこととなる。筆者作成。
(2)「史上最大の銀行強盗」朝鮮のハッカー集団が約1兆円を強奪
朝鮮政府が運用するハッカー集団の能力が世界屈指であることは広く知られていますが、その実力(?)を遺憾なく発揮する出来事が起きました。
10月29日、世界最大の仮想通貨取引所の「BINANCE」から約63億6000万ドル(約1兆円)の仮想通貨を盗み出したのです。
わずか20分の間に起きたこの出来事について、仮想通貨に詳しい米国の分析シンクタンクTRM Labsは「朝鮮政府が支援するハッカー集団・Trader Traitorによるもの」と、翌日に発表したレポートの中で指摘しました。
同シンクタンクの政策総括責任者は、韓国の地上波MBCの取材に対し、「人類の歴史上、最も大きい銀行強盗事件だ。これは事実上、前例のない速度と規模で、仮想通貨の生態系全体を攻撃したものだ」と明かしています。
なお、「BINANCE」側はすぐに約4500億円を凍結し、被害を最小限にとどめています。
さらに同31日、米国のFBI(連邦捜査局)が、今回のハッキングが朝鮮(North Korea)によるものであると、改めて指摘しました。
先のTRM Labsと同様に、朝鮮の「Trader Traitor」を犯人と見なし、資金洗浄に使われと見られる口座を一斉に公開しました。

朝鮮のハッカーグループを丁寧に追った『ラザルス』(ジェフ・ホワイト著)。終章ではハッカーグループの「革新性」が指摘されているが、その予測が見事に的中した形だ。悪い意味で、朝鮮のハッカーグループは進化し続けている。
朝鮮によるハッカー・グループといえば10億ドル以上を稼ぎ出した「ラザルス」が有名ですが、今や数十のグループが動いているようです。韓国では太刀打ちできないでしょう。
一方、各国のメディアは、今回のハッキング事件が米朝首脳会談の実現にどう影響するのかに注視しています。
米国のルビオ国務省長官は会談の見通しについて10月31日(現地時間)、「具体的な会談の予定は何もない」旨を明かしながら、なお会談への余地を残していました。
トランプ大統領はFBIの発表を受けてもなお、「North Koreaとこの問題について話し合う」と発言するなど、煙に巻いています。
ただし本来、米朝首脳会談は中間選挙用の話題作りとして位置付けられていたことから、選挙が始まった今、トランプ氏側としてもこれを急ぐ必要はなさそうです。
そうでなくとも、朝鮮側が突きつけるであろう要求は、核保有を認める前提から始まるものと見られるため、米側にとっても不利な取引を行う動機は少ないと見るべきでしょう。
(3)韓日米外相が会談…「朝鮮の非核化」を再確認
少し時間は戻ります。10月28日に、韓国の姜信哲(カン・シンチョル)国防部長官は日本の小泉進次郎国防大臣と、フィリピンで会談を行いました。拡大ASEAN国防相会議(ADMM-Plus)に参席する際のものでした。
韓国国防部によると、この場で「AI(人工知能)・無人システムなど先端科学技術分野をはじめ、互恵的・未来志向的な韓日国防交流協力を安定的に推進していくことにした」とのこと。
また、姜長官は今年9月に起きた、朝鮮側が埋設した地雷による韓国軍将兵負傷事件についても説明したとします。
さらに同30日(現地時間)には、米アトランタで、韓日米の外相会談が行われました。3人が集まるのは、9月の国連総会以降、約ひと月ぶりです。

アトランタで会談をもった韓日米の外相たち。左から趙顕(チョ・ヒョン)韓国外交部長官、マーク・ルビオ米国務省長官、茂木敏充日本国外相。手に持っているのは「北極太平洋パートナーシップに関する日米韓協力覚書」。韓国外交部提供。
韓国外交部の発表によると、この会談では「北韓が韓半島の緊張緩和と平和定着のための努力に参加することを求め」るとしました。
さらに、「緊密な共助を土台に、堅固な対北抑止態勢を維持し、対話と外交を通じた、韓半島の平和・安全および非核化目標の実現のための努力を持続的に傾けていく」としました。
なお、日本の外務省の発表には、「北朝鮮の核・ミサイル計画の資金源となる悪意あるサイバー関連活動への対処において引き続き連携していくことを確認した」とも書かれています。
今なおこの三つの国が、基本的には非核化という目標を維持し続けていることが分かります。それぞれが描く非核化の道程は異なる上に、トランプ氏が朝鮮の核を認める場合には前提が大きく揺らぐことになります。あくまで現状はこうであるということです。
(4)ドローンと核搭載可能なミサイル試験…止まらぬ朝鮮の軍備拡張
ハッキングと同時進行で、朝鮮側の軍備拡張が続いています。特に、韓国政府との非対称性を印象付けるような分野での発射試験が相次いで実施されています。
まず、10月29日に平壌で開催された「無人航空技術発展2026」という展示会では、様々な兵器による「威力示威」が行われました。
例えば「600ミリ多連装放射砲」です。多連装ロケットのことで、米軍では「KN−25」と呼んでいるものです。
核弾頭が搭載可能で射程距離は400キロと、韓国の大部分を射程に収める兵器です。朝鮮の国営・朝鮮中央通信によると同放射砲はこの日はじめて「群集の前に公開された」とのこと。
もう一つは様々なドローンです。こちらは、韓国の兵士詰所を模した建物や、米軍の戦車、韓国の自走砲などのモデルに突っ込み、自爆するする姿が公開されています。

先月29日、「600ミリ多連装放射砲」の発射がはじめて、朝鮮の市民の前で行われた。朝鮮中央通信より。
国営・朝鮮中央通信によると、金正恩氏は上記の展示会における演説で「無人機分野での絶対的な優勢を目的とすることは、現代戦の変化の様相に従う必須不可欠な選択である」という認識を示しました。
また、「平和と力は分離できない関係にある。(中略)力が即ち平和で、平和は力によってのみ担保される。これは今日のせわしない世界で生存するために必要な常識である」とも述べ、その世界観を顕わにしていました。
金正恩氏と娘の金ジュエ氏は共に、試験発射を見守りました。なお、ジュエ氏について韓国の国家情報院は10月29日の国政監査の席で興味深い分析を行っています。
同氏がはじめて公開の場に現れた2022年以降、「後継者としての位相を段階的に(朝鮮社会に)刻み込んでいる」というものと、「軍事部門での活動が60%に達している」という点です。また、長く確定してこなかった名前についても「キムジュエが正しい」と述べたとのことです。
同31日には、「戦術弾道ミサイルの散布戦闘部」のテストもありました。いわゆる集束弾(クラスター爆弾)の弾頭のことで、一度に広範囲の地域を「焦土化」できるものです。こちらも写真が公開されています。
一連の兵器テストは、韓国のニュースで連日取り上げられており、韓国社会にとって無言のプレッシャーとなっているでしょう。こうした兵器がすべて南側に向けられていると考える場合、韓国政府が掲げる「平和共存」という言葉が色あせる他にありません。
南北関係は正念場を迎えていると言えるでしょう。
(5)南北を行き来するスイス外相
先週のニュ−スレターでお伝えしたように、スイスは平壌に外交事務所を開設しました。既に業務は始まっていますが、開所式が行われる10月30日に合わせ、スイスのイニャツィオ・カシス外相が訪朝しました。
29日に平壌入りした同外相は、30日には朝鮮の崔善姫(チェ・ソニ)外相ならびに、趙甬元(チョ・ヨンウォン)朝鮮労働党政治局常任委員と相次いで面談しました。
国営・朝鮮中央通信によると、この席ではスイスと朝鮮両国の「対話と協力を強化すること」などについて話し合われたとのこと。
そしてなんと、カシス外相はその足で韓国を訪れ、ソウルで魏聖洛国家安保室長と面談したのです。青瓦台(大統領府)が「スイスが北韓と疎通するチャンネルを維持・拡大する点を評価した」と、聯合ニュースが伝えています。

30日、平壌で会談するスイスのイニャツィオ・カシス外相(左、上から2番目)と、朝鮮の崔善姫外相(右、上から5番目)。スイス外務省提供。
一連の行動について、スイス外務省も公式発表を通じ伝えています。
ここでは訪問の目的として、「新たな形でスイスの外交拠点を再構築すること、二国間の政治関係を正常化すること、そしてNorth Korea当局との直接対話を再開すること」という3つの内容を挙げています。
注目すべきは南北朝鮮を訪問したことに対し、「対話を維持する(ため)」と改めて明かした点です。スイス外交部は「あらゆる人々と対話し、外交交渉が困難な状況下でも建設的な役割を果たす」という「普遍主義的な伝統」を強調し、今後の役割に含みを持たせました。
無論、こうした動きからすぐに、「スイスが南北間を仲介する」と見るのは早計です。しかし、韓国政府にとっては貴重な「意志伝達の通路」ができたことになります。これはとても重要です。
(6)今日の時事韓国語「해킹」
「ヘッキン」と読みます。英語の「hacking(ハッキング)」のハングル表記です。
韓国の金融機関に対して、朝鮮側によるものと見られるハッキングの企図が相次いでおり、個人情報が流出している旨を多くの韓国メディアが伝えています。
例えば先月21日には、韓国内の金融機関に、朝鮮のIP帯域から440万件もの「接近」があったと、政府機関・金融保安院が明かしています。
しかし、これを断定することも難しく、韓国は後手後手に回っている印象だけが蓄積されていくのが実情です。あるニュースに出演した専門家は、朝鮮のハッキング能力について「世界1〜2位」と述べていました。
核兵器が物理的な武器だとしたら、ハッキングは非物理的な武器にあたります。それらを自在に振り回す朝鮮に対し、李在明政府の語る「平和共存」は果たして有効な代案たり得るのでしょうか。
今日はここまでです。ご覧の通り、朝鮮半島をめぐってはたくさんの出来事が同時進行で起きています。明るい話題が多くないため、追いかけるだけでもストレスとなりますが、基本的な動きを踏まえつつ、独自取材を増やしていきます。
また、ニュースレターの今後ですが、有料化を検討しております。有料会員(サポートメンバー、クラウドファンディング参加者を含む)の方は全文が読めるようにし、そうでない方は一部だけ読める形です。
ニュースレターを「コリア・フォーカス」の本体サイトに一本化する事も含め、改めて整理してお知らせいたします。
それではまた明日。今日もありがとうございました。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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