あのトップ俳優が右翼?、ADEX開幕、パレスチナ支持集会、「残り6か月」崖っぷちの尹政権など9トピック|第7号
(10月17日)サポートメンバー(有料会員)の皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第7号をお届けいたします。今号は韓国社会・韓国政治をテーマにお届けします。韓国社会では尹政権への圧力の高まりを感じます。検察を自在に操り(?)無敵と思われた尹大統領ですが、やはり民意には勝てないようです。詳しく解説しました。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国社会(1):韓国最大の防衛産業展示会『ADEX』始まる
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韓国社会(2):『チャングムの誓い』の李英愛、李承晩記念館への寄付が呼ぶ議論
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韓国社会(3):「パレスチナの抵抗は正当」ソウル市内で約500人が集会
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韓国政治(1):「尹大統領の時間は6か月も残っていない」ソウル江西区長選で与党惨敗、批判の矛先は尹大統領に
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韓国政治(2):世論調査から読む韓国有権者の「クールさ」、第三党は苦戦
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ショートニュース:「韓国のamazon」クーパン労働者が配達中に亡くなる/ジャーナリズム続報:言論を守るべき財団が、尹政権に過度の忖度?/予算続き:原発R&Dが異例の増加、背景に尹大統領の原発推進政策か/ネットショッピング最大手クーパンの配達員が勤務中に亡くなる
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あとがきに代えて:良い日韓関係の一例
◎韓国社会(1):韓国最大の防衛産業展示会『ADEX』始まる
17日からソウル市郊外の軍用ソウル空港で『ソウル国際航空宇宙および防衛産業展示会(ADEX)』が始まりました。
ADEXは韓国最大の防衛産業展示会として、韓国政府の全面支援により隔年で開催されるものです。主催側によると14回目となる今年は、過去最高の35か国、550社、2320ブースが参加して行われます。
また、55か国から114人の代表団が参加し、各国の軍幹部も多数含まれるそうです。
同日に行われた開幕式には尹錫悦大統領が出席し、祝辞を述べました。
尹大統領は「韓国の防衛産業は無から有を創造し、新たな歴史を刻んでいる」と述べ、「援助と輸入に依存していた国が、今や最先端の戦闘機を作り、輸出する水準にまで跳躍した」と韓国の発展を誇りました。
また「防衛産業は安保と経済を支える『国家戦略産業』である」と強調しながら、「政府は防衛産業の『先端戦略産業化』を国政課題として提示し、防衛産業の成長基盤をしっかりしたものにしようと努力している」と述べました。
防衛事業庁の資料によると、韓国政府は2027年までの短期間に「国防科学技術7大強国への跳躍(21年世界9位→27年同7位)」、「武器システムの迅速獲得期間の短縮(21年12年→27年5年)」、「防衛産業の規模の倍増(20年17.9兆ウォン[約2兆円]→27年40兆ウォン[約4兆4000億円])」という野心的な三つの目標を掲げています。
文字通り「国策」といって差し支えないでしょう。
尹大統領は「これからもわが政府は、韓国の防衛産業と航空宇宙産業の国際競争力を強化することに最善を尽くす」と祝辞を締めました。
ADEX開幕式でゴールドバーグ駐韓米国大使と握手する尹錫悦大統領。大統領室提供。
この日、会場では韓国の『韓国航空宇宙産業(KAI)』が開発している国産最新鋭戦闘機KF-21『ポラメ』が初めて一般公開され、テスト飛行を行いました。
また、開幕を記念した飛行ショーには豪州の特殊飛行団が参加し、さらにKF-21と米軍の戦略爆撃機B52が合同飛行を行うパフォーマンスもありました。B52にはこの後、韓国の清州(チョンジュ)空軍基地に着陸しました。国防部によると、同機が韓国の空軍基地に着陸したのは今回が初めてとのことです。
ADEXを通じ売り込まれる韓国産の武器は、FA-50といった軽攻撃機から、「世界の自走砲市場の半分を占める」(尹大統領)K-9自走砲、K-2戦車、韓国型機動へり・スリオン、小型多目的ヘリ、装甲車に多連装ロケットなど様々です。水素で動くドローンなどもありました。
現代(ヒュンダイ)自動車グループが開発中の「水素燃料電池軍用ドローン」。同社HPより引用。
一方で、こんな物々しい武器展示会に対する根強い批判があります。
韓国では2013年から韓国一のアドボカシー(政策提言)NGO『参与連帯』や『韓・ベ(ベトナム)平和財団』などが中心となってADEXに反対する『ADEX抵抗アクション』が行われています。
同アクションでは今年もADEXの開幕に合わせ声明書を発表しました。
声明書では昨今のハマス・イスラエル戦争に触れつつ、防衛産業について「数多くの生命を殺傷し基盤施設と環境を破壊する戦争が、武器産業業界にとって好材料として作動する事実は、死と苦痛に寄生してこそ成長できる武器産業の本質を露わにする」と指摘しています。
また、韓国政府の産業研究院が発表した報告書に「ロシア―ウクライナ戦争が韓国のような新興武器輸出国においては『千載一遇』の機会である」と書かれていたことを取り上げ、「『K-防産(防衛産業)』という美辞麗句は、誰かの苦痛により利益を得ているADEXの本質を隠している」と非難しました。
声明書ではまた、尹大統領が掲げる『力による平和』を強い武器に強い武器で対抗するという悪循環をもたらす「危険な綱渡り」と見なし、朝鮮半島やイスラエル・ガザ地区の紛争を例に対話の重要性を訴えました。
一方、同アクションのサイト(リンク)では「ADEXには軍と警察を動員し自国民を弾圧する政権もVIPとして招待される」と指摘してします。
いかがでしょうか。
確かに、韓国社会では最新武器の開発・生産と輸出について諸手を挙げて賛成する雰囲気が目立つのが事実です。メディアはこぞって輸出実績を褒め称え、大きく報じます。
ウクライナ戦争のさなか、ポーランドに軽攻撃機や戦車、自走砲など90億ドル分の装備を輸出することが決まった際には「史上最大の輸出」「ジャックポット」といった表現が並びました。
こうした「強さ」が支持を受ける背景には、今なお極限の対立を見せる南北分断状況、さらにこれに端を発する徴兵制など軍事動員文化の存在を挙げられるでしょう。また、輸出国家としての性格も作用しているかもしれません。
いずれにせよ、国家がいかに武器産業を育成しているのかはメディアや市民社会によってしっかりとチェックされなければならないでしょう。
私も今年はじめて取材に行く予定です。次の報告をお待ちください。
『ADEX抵抗アクション』のHPでは、「ADEXの観覧ポイント」として、いくつかのテーマを挙げている。上記イメージは「中東の涙」というもの。「過去20年間、中東に最も多くの武器を販売した国家は米国。中東の武器輸入の54%は米国産」としています。
◎韓国社会(2):『チャングムの誓い』の李英愛、李承晩記念館への寄付が呼ぶ議論
10月3日、ドラマ『チャングムの誓い』などで有名な韓国のトップ俳優(韓国では女優という言葉を使いません)、李英愛(イ・ヨンエ)さんが、李承晩(イ・スンマン、在任1948〜60年)大統領記念館建立に寄付した理由について改めてコメントしました。
事の経緯はやや複雑です。
まず李英愛さんは9月12日に、同記念館建立のために5000万ウォン(約550万円)を寄付しました。
寄付と共に添えた手紙によるとその理由は「李承晩大統領には過ちもあるが、それでもこんにちの自由大韓民国がそびえ立つように、その礎を固く整えられた方と思います」というものでした。
また「韓国の歴代の大統領には在任中、過ちもあったが、わが国と国民のために行った良い事も多いと思います」としながら「過ちだけを非難し、国民の葛藤(争い)させるよりも、良い事を称賛し和合できるようにするならば、子ども達がより平穏で良い国で暮らしていけるのではないかと願ってみます」と明かしていました。
李英愛さんは他に、朴正熙、金泳三、金大中、盧武鉉大統領の財団をも後援しているとしました。これは、保守派と進歩派にかかわらず支援しているということを指します。
保守紙『朝鮮日報』がこうした内容を大きく取り上げるや、韓国の著名ブロガー、イム・ビョンドさんが進歩派市民メディア『オーマイニュース』に「李承晩の過去、李英愛氏がもう一度細かく見て欲しい」という記事を寄稿しました。
この中で李元大統領の「過ち」について、48年8月の政府樹立直後に始まった親日派の処断を止めたことや、済州4.3事件や麗順事件、保導連盟事件など多数の民間人虐殺の命令権者であったこと、さらに不正選挙を行いこれに反対する市民を殺害したことなどを挙げながら「李承晩記念館は歴史を歪曲する基になる」と批判しました。
そして「李英愛氏の寄付が(和合ではなく)逆に葛藤を増幅する触媒の役割を果たすようで残念だ」と指摘し、「なぜ歴代政権が李承晩記念館を作らなかったのかをじっくりと考えてみるべき」と結びました。
李英愛さん。押しも押されぬ韓国のトップ俳優の一人です。同氏のインスタグラムより引用。
韓国の初代大統領である李承晩元大統領については、韓国では(特に50代以上の世代では)評価が真っ二つに分かれます。
「建国の父」や「北朝鮮を撃退し国を守った」という肯定評価がある一方、先の記事で引用した通り、無辜の人や反対派を虐殺したという強い拒否反応もあります。ある歴史学者は「建国の父、独裁の母」と称しもしました。
さらに『建国節論争』というものがあります。