【デイリー・コリア・フォーカス】26年1月22日号
皆さま、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。
「デイリー・コリア・フォーカス」1月22日号をお送りいたします。
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毎日ニュースレターを送るという現在の方式を始めて二週間が過ぎましたが、ゆっくりと広がりを見せています。
今はまだ登録いただいた方が3000人に満たない状況ですが、まずは1万人くらいまで読者が増えてほしいと思っています。
そんな「朝鮮半島のニュースの流れを掴んでいる方達」が増えれば増えるほど、日本と朝鮮半島の理解は深まり、その距離は縮まっていくことでしょう。
いまお読みの方も、周囲の方々にぜひお勧めしてくださいませ。
今日の目次は以下の通りです。1番目が特に大きなニュースでした。しっかり書こうとしたら、随分時間がかかってしまいました。
1. 「非常戒厳は内乱」裁判官が宣告で言葉に詰まった訳
2. 李大統領が新年記者会見、南北関係と日本は?
3. 今日の時事韓国語「징역」
1. 「非常戒厳は内乱」裁判官が宣告で言葉に詰まった訳
ソウル中央地裁は21日午後、韓悳洙(ハン・ドクス)前国務総理の「内乱重要任務従事」の罪を認め、同氏に懲役23年を宣告しました。
検察が求刑した懲役15年よりもはるかに重い判決が出たことで、韓国社会で大きな驚きをもって受け止められました。
しかし真に重要なのは、なぜそうなったのかという「理由」です。
この日、李珍官(イ・ジングァン、52)裁判長が約1時間にわたって読み上げた判決文には、24年12月3日の非常戒厳を、韓国社会でどう受け止めるべきかというエッセンスが詰まっています。
韓悳洙(ハン・ドクス)前国務総理。大統領に次ぐ、行政府のナンバー2であり、韓国では大統領、国会議長、大法院長・憲法裁判所長に次ぐ序列4位です。長く49年生まれの76歳とされてきましたが、裁判では79歳とされました。YTNよりキャプチャ。
まず、最も重要なものとして「非常戒厳は内乱であった」と韓国の司法府がはじめて認めた点があります。
韓国の刑法87条で内乱とは、「大韓民国の領土の全部または一部において、国家権力を排除または国憲を紊乱する目的で暴動を起こすこと」と定義されています。
「国憲の紊乱」という聞き慣れない言葉が混ざっており理解を妨げるのですが、これは刑法91条でこう定義されています。
「憲法または法律に定めた手続きによらず、憲法または法律の機能を消滅させること、憲法により定めた国家機関を強圧により転覆またはその権能行使を不可能にすること」
さらに「暴動」とは何ぞや、という疑問も生まれます。
これは過去の判例により「一つの地域の平穏を害する程度の暴行や脅迫」と定義されています。
こうした内容を当てはめる場合、尹錫悦大統領(当時)による非常戒厳は内乱であるというのが、この日の裁判所の判断でした。
尹錫悦氏が非常戒厳を宣布し、▲憲法で保障される議会・政党制度を否認する内容の布告令を発令し、▲国会や中央選管などを占拠または出入りを統制し、強制捜査を行ったという事実があり、これは以下のように整理できるというのです。
「大韓民国の領土全部において、国憲を紊乱する目的で多数の人(軍と警察公務員)を結合し、有形の力を行使し、害悪を告示(脅迫)することで、一つの地域(国会など)の平穏を害する程度の暴行を起こした」
ややこしいですが、これが「非常戒厳=内乱」の法理となります。
24年12月3日、非常戒厳を宣布する尹錫悦大統領(当時)。YTNをキャプチャ。
この日、李珍官裁判長は非常戒厳を「『12.3内乱』と呼ぶ」と宣言しました。
韓国の司法府がこの見解を今後の尹錫悦一党への裁判で踏襲する場合、尹錫悦氏による非常戒厳は韓国の現代史の中で『12.3内乱』という固有名詞となっていくことでしょう。
韓悳洙氏は、この『12.3内乱』に加担したことで罪に問われました。
具体的には国務会議(閣議)での審議が必要であると尹錫悦氏に助言し、これを実行した点です。
内乱を止めるべきであったにもかかわらず、すぐ側で助けたことが「内乱重要任務従事」であると見なされたのです。
裁判所は明確に「韓悳洙は内乱を防ぐことができた」と明かしています。さらに、「やらなかったこと」は、「やったこと」と同じだというのです。
具体的には何ができたでしょうか。
それは別の裁判で言及があったように、24年12月3日のあの日、召集された10人以上の国務委員(閣僚)の誰か一人でも、普段から付き合いのある記者などに「非常戒厳が今日ある」と知らせれば良かったのです。
それをせず、尹錫悦に従ったということが、国務総理としてふさわしくなかったということです。
裁判所は「被告人(韓悳洙)には、国憲を紊乱する目的と内乱重要任務に従事する故意があったか」という問いに対し、認識と意欲があったと結論付けました。
韓悳洙氏はさらに、李祥敏(イ・サンミン)行政安全部長官(当時)と共に、特定のメディアに対する断水・断電措置を進めたとされました。
それではなぜ、懲役15年ではなく懲役23年だったのでしょうか。
李裁判長は、韓悳洙氏が約50年間の公務員生活の中で、一切の刑事罰を受けた前歴がなく、79歳という高齢である点などを考慮すべきとしました。
しかし、それにもかかわらず量刑を厳しくせざるを得ないとして、五つの事由を挙げました。
一つ目は、尹錫悦による『12.3内乱』は「上からのクーデター(セルフ・クーデター)」であるという点です。
その成功率は世界的に高く、成功すれば独裁者が生まれるもので、過去に韓国であった「下からのクーデター」とは危険性の面で比べものにならないとしました。
二つ目は、『12.3内乱』が民主主義を脅かす人々を量産した点です。
25年1月19日のソウル西部裁判所襲撃事件に代表されるように、自身の政治的な立場のためには、法を犯し他人に被害を与えてよいと考える人々や、選挙制度を否定する人々を指すものです。
これもまた国民が選んだ権力者が憲法と法律を無視するという、「上からのクーデター」に特有な悪影響であるとしました。
三つ目は、『12.3内乱』が起こした衝撃の大きさです。
24年12月当時の韓国は先進国であり、その世界的な認知度からして「セルフ・クーデター」が起きたことによる経済的・政治的な衝撃は、過去とは比べものにならないとしました。
四つ目は、内乱を事前に遮断すべきという点です。
内乱が起きる場合には、人的・財産上の被害および社会的な混乱が発生し、これを元通りに回復させることは大変難しいとしました。
このため、内乱は事前に遮断する他になく、そのためには内乱行為に加担した人物を重く処罰することが避けられないと述べています。
最後の五つ目は、韓悳洙氏に反省の色が見られない点です。
自身の安易のために虚偽の陳述をおこない、この姿が、社会的な葛藤をさらに深めたというものでした。
李珍官(イ・ジングァン)裁判長。宣告文を朗読する様子からは、社会の秩序を守るという意識が節々に感じられました。
ずいぶん長くなってしまいました。
最後に、韓国メディアや韓国の多くの市民が注目した場面を挙げて終わります。
李裁判長は判決の主文朗読に先立ち、量刑事由を読むさなか、涙がこみ上げた様子で言葉に詰まりました。以下の部分での出来事でした。
「12.3内乱の過程で死亡者が発生せず、内乱行為そのものは数時間の間に終わりました。しかしこれは何よりも、武装した戒厳軍に身体ひとつで立ち向かい国会を守った国民の勇気によるものです」
見ていた私もグッときてしまいました。
ここまで読んで、イ裁判長はメガネを整え気を取り直した様子で以下のように続けました。
「さらに、こうした国民の抵抗を基に迅速に国会に進入し、非常戒厳解除案を議決した一部政治家たちの努力、大韓民国の歴史にあった内乱の暗鬱な記憶を想起しながら、違法な指示と命令に抵抗したり、または仕方なくこれに従っても消極的に参加した一部の軍人と警察公務員の行動によるものです。
決して『12.3内乱』の加担者によるものではありません。したがって『12.3内乱』の加担者に対する刑を定めるにあたり、被害の発生が軽微であったことや短い時間の間だけ(内乱が)続いたという事情を深く考慮することはできません」
なお、25年4月4日に憲法裁判所が全員一致で尹錫悦氏の大統領職からの罷免を決めた際にも、似たような言及がありました。
国会が迅速に非常戒厳解除要求決議をできたことは「市民の抵抗と軍警の消極的な任務の遂行のおかげ」というものです。
この日の裁判所の言及と合わせ、非常戒厳、いや『12.3内乱』に立ち向かった市民の貢献を歴史的に位置付けるものといえるでしょう。
日本の一部で言われているような「市民の役割は関係ない」といったような訳知り顔の指摘が、いかに馬鹿げたものであるかを物語っています。
今回の韓悳洙氏への判決は当然ながら、2月19日に予定されている「内乱の頭目」尹錫悦氏への一審判決に影響を与えるでしょう。検察側は死刑を求刑しています。
2. 李大統領が新年記者会見、南北関係と日本は?
21日午前、李在明大統領が青瓦台(大統領府)で新年記者会見を行いました。
160人あまりの内外信の記者を集めた会見は、90分という当初の予定を大幅に超え173分にわたり、その全ては生中継されました。
この日、李大統領は冒頭発言を述べたあと、25人の記者の質問に答えました。
内容は経済、地方分権、人事、政治、外交、統一教会など韓国のあらゆる分野に及び、話すことが大好きな李氏は楽しそうに答えていました。
全てについてここで触れることはできませんが、この日取り上げられた内容はいずれ、別個の重要なテーマとなるものなので気長にいきましょう。
記者会見の様子。左手前が李在明大統領。青瓦台提供。
今日は、南北関係と日本という二つのテーマに絞ります。
南北関係については冒頭の発言でまず「平和共存と共同成長」という未来図を改めて提示しました。「経済成長のためには平和が必要だ」という李氏の持論によるものです。
このために、米朝対話と南北対話が実現するように努力すると明かしました。
また、以前ニュースレターでも触れたように『9.19南北軍事合意書』を復元することも明言しました。
つづく質疑応答では「南北関係は困難な状況にある」と率直に述べました。
対決主義であった尹錫悦政権が去り、平和共存を掲げる李在明政権が発足したものの「ドローン事件」によりその信頼にも傷がついたという話です。
「今は統一どころか、戦争がなければよいという状況」とも述べました。
非核化については「(朝鮮半島問題の)本質」と、その重要性を強調しました。
韓国が核を持つことはないので、北朝鮮が核を放棄することになるが、そうしないというのが「厳然たる現実」であるともし、非核化の難しさ認めました。
今も北朝鮮は「年間10~20発の核兵器を作れる核物質を生産している」とし、これは体制維持のためであるが、いずれ海外に流れていくだろうとも述べました。
このため、現段階では「これ以上、核物質を生産せず、搬出されず、ICBM(大陸間弾道ミサイル)技術を開発させない」という「中断」を目的とすべきというのです。
そしてこの話を、トランプや習近平という海外の首脳にも話したと明かしました。
李大統領の原則は「相手を絶滅させることができないならば、相手を認め、実用的にアプローチする」というもののようです。
こうした問題を解決するには米国の役割が重要であるともし、米朝対話の道を韓国が切り拓く「ペースメーカー」の役割を果たすとしました。
面白い(?)言及もありました。
李大統領は平和と経済の関係性を強調しながら、自身の北朝鮮への対応を「低姿勢」と批判した記事を「馬鹿げている」と取り上げたのです。
「高姿勢でやってやるか?そうなると経済が破壊されるだろう」と語気を強めました。ちなみにこの社説を書いたのは韓国経済紙の一角、『韓国経済』というオマケつきでした。
なお、ちょうどこのニュースレターを書いている22日午前、韓国のKOSPI(韓国総合株価指数)が史上初めて5000ポイントを達成しました。
最後に、日本との関係についてですが、考えたらこれはもう日本で報じられていますよね。
少しだけ触れます。
まず、先の日韓首脳会談の成果として、首脳間の信頼強化や日韓の国民の間の共感度を高めた点を挙げました。
そして「日韓関係というのは、政治家個人や集団の利益を超え、国家の利益、さらには東北アジアの平和と安定という巨大な利益のために協力することが重要」と持論を述べ、それに向かうきっかけになったと、首脳会談を位置付けました。
一方で、今後の日韓関係は「根本的な過去事(歴史認識)の問題や、地政学的問題などのため、しっかり管理すべき」とも明かしています。その秘訣として「互いに配慮すべき」と強調しました。
3. 今日の時事韓国語「징역」
「チンヨッ」と読みます。漢字では「懲役」です。受刑者を矯正施設に収容し行わせる労役のことです。労役を課さない「禁錮」は「금고(クムゴ)」と呼ばれます。
尹錫悦氏には「無期懲役、無期禁錮、死刑」のいずれかの刑が宣告されます。
今日は以上です。
実は昨日、韓国では世界ではじめて「AI基本法」が施行され、同法が与える影響について、大いに議論されています。
今日とりあげたかったのですが、「非常戒厳=内乱」という、韓国史に残る判断を詳細に書いておきたい気持ちが上回りました。明日以降、取り上げます。
いずれにせよ、ニュースレターの可読性を高めるために、記事化するものと、ダイジェストでお伝えするものをしっかり分けるべきですね。
少しずつ対応していきます。
それではアンニョンヒケセヨ。ありがとうございます。(徐台教)
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