「南北軍事合意」の停止条件は衛星発射、ソウルでの特大外交イベントに北朝鮮が反発、動き続ける開城工団など 全7トピック|第16号
(11月17日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第16号をお届けいたします。今日金曜日は韓国の首都圏で初雪となりました。10分と経たずに降り止みましたが雪を見るとどうしても「北側は寒いだろうなあ」と思っていまいます。
実は2021年から今日に至るまで、韓国から誰一人として朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)を訪問していません。新型コロナがあったとはいえ、こんな事は少なくとも過去30年の間にありませんでした。由々しき事態です。
今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。この一週間、韓国では大きな外交イベントが相次ぎ、静かだった北朝鮮もこれに応えてきました。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国から見た南北関係:条件は北朝鮮の「衛星発射」...『9.19南北軍事合意』の効力停止方針決定へ
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朝鮮半島情勢(1):韓国で韓米を中心とした大型外交イベント相次ぐも、北朝鮮は「情勢激化を招く」と反発
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朝鮮半島情勢(2):平壌で朝露による経済協力のための委員会が4年ぶりに開催
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ショートニュース:韓国在住脱北民による北朝鮮への送金が取締りの対象に/国連総会の委員会が北朝鮮人権決議案を採択、北朝鮮は「ダブルスタンダード」を主張/閉鎖された開城工業団地を北朝鮮が再稼働させている「証拠」とは/北朝鮮の出生率は「1.8」、国連が発表
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あとがきに代えて:
◎韓国から見た南北関係:条件は北朝鮮の「衛星発射」...『9.19南北軍事合意』の効力停止方針決定へ
ニュースレターで何度も取り上げてきた『9.19南北軍事合意』の行く末。
破棄するのか、それとも効力停止措置を取るのか、韓国政府のアクションに注目が集まっていましたが「北朝鮮が偵察衛星を打ち上げる場合に一部の効力を停止する」という方針が定まりました。
韓国政府が明言した訳ではないのですが、11月13日から14日にかけての韓国メディアの記事を総合すると、国防部や統一部を通じこのような方針が明確なものとして確立されたと判断できます。すぐに既定事実となりました。
尹錫悦大統領も14日に公開された米AP通信とのインタビューの中で「北韓が軍事偵察衛星の発射に成功する場合、北韓が大陸間弾道ミサイル(ICBM)能力を一段階引き上げたという意味」と言及し「より強い備えが求められる」と述べていました。
ここで言う「一部の効力の停止」というのは「軍事境界線(MDL)一帯の偵察作戦を正常化する」との脈絡で読み解かれています。
具体的には軍事合意書にある「飛行禁止区域」の無効化です。
18年の『9.19南北軍事合意書』の説明資料に添付されていた地図。中央の点線が軍事境界線で、赤線が北側の非武装地帯。青色は同様に南側の非武装地帯となっている。東西で異なる広さの飛行禁止区域が設定されているのが分かる。基本的に回転翼航空機は軍事境界線から10キロメートルに、無人機は東部地域から15キロメートル、西部地域から10キロメートルに、気球は25キロメートルを適用する。
現在は「固定翼、回転翼、無人機、気球」などの種類と地域によって、南北それぞれ10キロから40キロまでの区間で飛行禁止となっています。
しかし尹政権はこの取り決めを圧倒的に優位な偵察資産を持つ韓国にだけが不利になる措置と見ています。韓国軍のせっかくの長所を台無しにしてしまっているということです。
「軍事合意を破棄してこそ、北朝鮮への監視能力を存分に発揮できる」という旨の発言を申源湜(シン・ウォンシク)国防長官もしています。
いよいよ方針を定めた尹政権ですが、こんな「決断」を前に、南北対話を促す韓国の進歩紙も危機感を募らせています。
進歩紙『ハンギョレ』は15日付けの社説「9.19合意の効力停止、韓半島の緊張を悪化させる誤った判断だ」で、軍事合意書締結以降も軍事境界線で緊張が高まることがあったものの「武力衝突と死傷者が発生していないことが事実」と言及しました。合意により最後の一線が守られているという解釈です。
その上で「これを停止させ韓半島で武力衝突と戦争の脅威が高まることが私たちの安保にとって真の利益となるのか」と政府に問いかけました。
「前任の政府(文在寅政権)の成果を消し、支持層を結集させようとする与党の政治的な計算」とも見立て、政治的な行為であると批判しています。
進歩紙の双璧である『京郷新聞』もまた、14日付けの社説「米国も慎重な『9.19南北軍事合意』破棄、急ぐ理由は何か」で同合意の「安全装置としての役割」を強調しています。
北朝鮮は今年5月と8月に二度、偵察衛星の打ち上げに失敗した上で、10月中の再打ち上げを予告していましたが行われていません。一部の韓国メディアでは北朝鮮が「ミサイル工業節」に指定した11月18日の打ち上げもささやかれています。
いずれせよ『9.19南北軍事合意』は風前の灯と言えそうです。
なお、韓国の国家情報院傘下のシンクタンク『国家安保戦略研究院』は11月14日のレポート「『9.19軍事合意』効力停止の戦略的効果の検討」の中で、停止により韓国が得られる効果について、▲韓国による北朝鮮への軍事的圧迫能力の強化、▲北朝鮮の合意違反に対する制裁と懲罰、▲金正恩の核・ミサイル開発能力の安定的な環境への障害の三つを挙げています。
一方で、こんな『9.19南北軍事合意書』の効力停止が、米中の緊張緩和の流れに逆行するという主張もやはり進歩紙を中心に行われています。米中首脳の「変化」を見ての反応です。
『ハンギョレ』は17日付けの社説で米中首脳が1年ぶりの首脳会談を通じ歩み寄りを見せたことに言及しながら、これによりできた「外交の空間」を有効活用することを尹政権に求めています。
『京郷新聞』もまた同日付の社説で、これまで日米韓協力一辺倒だった尹政権に対し「米中が協力できるアジェンダを積極的に発掘すべき」としています。
米中首脳会談について肯定的に判断するのは早計だという評価もある中、韓国の進歩派が求める地点がよく分かる社説と言えるでしょう。なお、中道の『韓国日報』も17日付けの社説で同様の指摘をしています。
韓国の文字メディアの分類。保守は親企業、反北朝鮮を特徴とし、進歩系は統一(平和)、平等などを指向する傾向があります。経済紙はおしなべて保守と分類できます。中道は議題によって保守と進歩を行き来すると考えてよいです。通信社は聯合ニュースの存在が圧倒的で他の2社は同じ系列です。筆者作成。
◎朝鮮半島情勢(1):韓国で韓米を中心とした大型外交イベント相次ぐも、北朝鮮は「情勢激化を招く」と反発
少し時計の針を戻します。
11月12日から14日まで、韓国では大きな外交イベントが相次ぎました。12日には日米韓国防相会談、13日には韓米SCM、そして14日には韓国・国連軍司令部会員国による国防長官会議がありました。
・日米韓国防相会議
12日の日米韓国防相会談(日本の木原国防相はオンラインで参加)では「北朝鮮の完全な非核化」という共通の目標を確認しつつ、北朝鮮の核・ミサイル開発を糾弾しました。
そして北朝鮮の核開発を断念させるために「制裁と圧迫」を強調しつつ、これに国際社会が同調すべきと強調しました。
今年一年の軍事協力を振り返る発言もありました。
「日韓軍事情報保護協定(GSOMIA)の完全な正常化、中断された日米韓の次官補級安保会議(DTT)、捜索救助訓練・海洋遮断訓練・対海賊訓練の再開など3者安保協力が過去のどんな時よりも活発に推進された」と評価しました。
日米韓国防相会議の様子。左から申源湜(シン・ウォンシク)韓国国防部長官、ロイド・オースティン米国防長官、木原稔防衛相。韓国国防部提供。
・韓米SCM
13日には『韓米安保協議会議(SCM)』がソウルで開催されました。1969年から毎年続く同会議は、韓米の安保政策を決める最上位の会合として位置づけられています。
会議後に発表された共同声明を見ると、韓米同盟70周年を迎えた今年のSCMで、100周年を準備するための『韓米同盟国防ビジョン』が承認されたといいます。
同ビジョンには「北朝鮮に対応する拡大抑止努力の向上、科学技術同盟への進化を通じた同盟能力の現代化、類似の立場を持つ国家との連帯および地域安保協力の強化」という「三つの核心軸」が含まれています。三つ目は日本を念頭に置いたものです。
他方、12ページに及ぶ共同声明では、北朝鮮の脅威を「韓半島はもちろん世界の平和と安定により深刻な脅威である」と何度も引き合いに出しています。
声明を通じては10年ぶりに『オーダーメード型抑止戦略(Tailored Deterrence Strategy; TDS)』が改定されたことも明かされました。
この『2023TDS』は「高度化される北朝鮮の核・大量破壊兵器(WMD)および戦略的影響を持つ飛行能力に効率的に抑止および対応するための戦略的な基盤」と位置づけられ「柔軟性を持った強力な文書」とされています。
内容については「平時、危機時および戦時にまたがり北朝鮮の核・WMD攻撃に備え、韓国の在来型兵器の能力と共に米国の核能力を含む、あらゆる範疇の米国の軍事能力を活用する方案に対する指針が反映されていると確認した」と明かされています。
つまり、北朝鮮の脅威に対し米国はいつでもフルパワーで韓国を支えるということです。10年前には北朝鮮の核武力は今のように高度化されていなかったため、ようやく更新されたことになります。
韓米SCM後に記者会見に臨む両国国防相。韓国国防部提供。
共同声明では「北朝鮮の完全な非核化」についての言及もありました。
「両国は圧倒的な力により北朝鮮の核の脅威を抑止すると同時に、制裁と圧迫を通じ核開発を断念させ、対話と外交を追及する努力のための共助を続けていく」としました。
それらしい文言ですが、何度もニュースレターでお話ししているようにこれは「軍備の拡張だけする」という言葉に他なりません。対話が前面に来ない限り、南北双方で軍備の増強が延々と続くことになります。
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