[32号] コラム「海を越える南北分断」、書籍『1945年 解放直後史 現代韓国の原型』、映画『建国戦争』レビューなど 全7トピック

ジャーナル形式のニュースレター本編をお送りいたします。発行が遅れ申し訳ありません。
徐台教 2024.02.04
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 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。本来は金曜日にお送りするはずのニュースレター本編が、二日遅れの日曜日の午後となりました。

 ご存知の通り私は群馬県生まれの在日コリアン3世であり、朝鮮学校、日本の公立校、韓国の大学という3つの異なる環境で教育を受けてきました。さらに人生の半分以上を韓国で過ごし、南北関係や朝鮮半島問題をはじめ、韓国の政治社会的な移り変わりを見つめてきました。

 その中でまだひと月しか経っていない2024年が格別な意味を持って迫ってきます。

 南北関係、韓国政治、日韓歴史認識問題など、現在をどう捉えるべきなのかを真剣に考える時間が続いています。その片鱗を今号に込める過程で思ったよりも手間取りました。発行が遅れたことをお詫びいたします。

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 第32号の目次は以下の通りです。

1.巻頭コラム:海を越える南北分断

2.読書体験:『1945年 解放直後史 現代韓国の原型』~韓国の秘密の3か月~(鄭秉峻、2023トルベゲ)

3.ショートニュース:

(1)梨泰院特別法に尹大統領が拒否権を行使、

(2)人気YouTuberが愛犬を複製し議論に、

(3)李在明代表が新年記者会見を開催、韓国を「4大危機」と表現

(4)海兵隊司令官が「大統領は関係ない」と証言

4.カルチャー:映画『建国戦争』~今なお続く歴史的内戦状態~

5.あとがきに代えて:講演のお知らせ

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◎巻頭コラム:海を越える南北分断

 瞬く間に1月が過ぎた。数冊の本とその数倍のレポートを読み、何万字かの文字を書くという個人的にはそれなりに意味のある時間を過ごせたものの、世の中にどう寄与しているのかの手応えはあまりない。それどこから身もだえする南北分断の遠心力に吹き飛ばされそうである。

 現在の韓国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の対立には、二つの側面からブレーキが存在しないという特徴がある。一つ目は大国による制止の不在だ。軍事協力を進める日米韓のうち反対世論が最も強い韓国において、南北対立が尹錫悦政権を支えていることを知る米国は尹政権を諫めることができない。一方の北朝鮮はウクライナ戦争への支援をテコにロシアとの間で国際社会のルールを無視した関係深化を進め、体面を気にする中国の影響圏からはみ出し、自由な外交空間を開拓し続けている。

 もう一つは、南北共に止まる名分が存在しないことだ。北朝鮮では昨年末の朝鮮労働党全員会議の中で金正恩氏が明かした、南北関係における同質性と同族性を否定し韓国を敵対国家と見なす根本的変化を国内に定着させるために、アンチ韓国のショック療法を続ける必要がある。一方の韓国では金正恩氏に突きつけられた絶縁状を軍事的な挑戦と読み替えこれまで通り対処するだけで、南北関係における根本的な変化への対応策を打ち出せずにいる。停まったところで何をどうすればよいのか分からないまま、慣性で走り続けているのである。

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 南北があちこちで寸止めのマスボクシングを繰り返すニュースを横目に、一冊の本を読み終えた。鄭秉峻(チョン・ビョンジュン、58)梨花女子大学史学科教授による『1945年解放直後史 現代韓国の原型』(2023,トルベゲ)という大著だ。詳しい解説は今号に載せた書評に譲るとして、同書に書かれていることを失礼を承知で一行にまとめるならば「1945年8月15日の植民地支配からの解放により訪れた『独立した統一国家を建設する』という理想がどのように潰えたのかを、新たな史料と観点から掘り起こした一冊」となるだろう。

 韓国では1945年8月から大韓民国政府樹立(48年8月15日)、朝鮮民主主義人民共和国政府樹立(48年9月9日)までの間を「解放空間」と呼ぶ。解放の喜びもつかの間、北緯38度線を境に北はソ連、南は米軍による軍政が敷かれ、さらに冷戦の影が朝鮮半島を覆い始める中、二つの別々の政府が樹立するまでには様々なドラマがあった。

 そして日本では全くと言っていいほど知られていない(韓国でも同様だ)この解放空間をどう捉えるのかが実は、朝鮮半島の現代史をどう読むかの分かれ目となる。やはり今号で紹介する映画『建国戦争』のように、反共保守の立場から現在の発展につながる礎を築いた成功の歴史と捉え誇りに思うのか、それとも「独立した南北統一国家」という理想が潰える過程と見なし教訓を得ようとするのかで解釈は大きく異なる。

 同書が特に後者の立場を標榜している訳ではないが、読んだ者はみな失敗した歴史に思いを馳せざるを得ないだろう。私も本の余白に大量のメモを書き込み続けた。そして最後のページを読み終え本を閉じたとき、大きなため息とともに力が湧き上がってくるのを感じた。今は昔とは違う。もう一度やり直せる、やり直すべきだ。

***

 しかしこんな気分も憂鬱な知らせにかき消されそうになった。1月29日から2月2日にかけて、群馬県高崎市の群馬の森にある朝鮮人追悼碑が県による行政代執行で撤去されたためだ。群馬県には植民地時代、約6000人の朝鮮人が軍需工場や鉱山に動員され、300人から500人が命を落としたとされる。県議会が全会一致で賛同し04年に設置された碑は、追悼集会の際の「強制連行」という参加者の発言が問題視され14年に県が設置許可の更新を認めなかった。碑を設置した市民団体は県の決定取り消しを求め提訴し一審で勝訴するも、高裁、最高裁で敗訴し、移転をめぐる話し合いが平行線をたどる中、県が撤去を急いだものだ。

 群馬の森は、私が生まれ育った群馬県多野郡新町(06年に高崎市に合併)からは自転車で20分しかかからない。少年時代に従兄弟とよく遊びに行き、ドングリで作ったコマを回したり、輪ゴムで模型飛行機を飛ばしたものだった。碑ができてからは一度しか訪れていないが、その静かな存在感はよく覚えている。新聞社のヘリが捉えたという粉々になった碑の姿はまるで、幼い頃の思い出や日本社会の良心の亡骸のようだった。思わず目を背けた。

粉々になった朝鮮人追悼碑。朝日新聞より引用。

粉々になった朝鮮人追悼碑。朝日新聞より引用。

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