[再送]【デイリー・コリア・フォーカス】26年5月29日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
5月29日、金曜日です。今朝は釜山で目覚めました。
その前に、まずは昨日の夕食のお話からお届けします。
29日の0時過ぎ。無事釜山に着いたはよいものの、ホテルの近所に開いている店が一軒もなく、腹ぺこのまま20分ほど歩いてようやく食堂を見つけました。
喜び勇んで入店し、蒸し豚(ポッサム)の定食を注文。もちろんビールを付けました。
わくわくして待つも、しばらくすると厨房からは「チーン」というレンジの音が。まさかな、いや、それはないだろと思うそばからテーブルに置かれた豚肉は…見事にカチカチでした。
ビールも生ぬるく、のどごしゼロ。まあこういう日もありますよね。
ということで、釜山を離れる前にカフェからニュースレターをお送りします。

こちらは今日のお昼の食べた釜山名物のミルミョン。美味しかったです。
1. 韓国、釜山・北区甲の国会議員補欠選ルポ「こんなお祭り選挙は初めてだ」
今日は朝からバンバン取材する予定のはずが、別の仕事が長引き、ようやく取材に出たのは午後になってからでした。
市場を歩きミルミョンという釜山名物のおそばを食べた後、午後5時から韓東勲(ハン・ドンフン、53)氏の演説に向かいました。
同氏は釜山の北区・甲という選挙区から出ています。
ここは現職の与党・共に民主党の田載秀(チョン・ジェス)氏が、釜山市長選に出馬したことによる補欠選挙です。
共に民主党の河丁友(ハ・ジョンウ、49)氏と最大野党・国民の力の朴敏植(パク・ミンシク)候補、そして韓東勲氏の三つどもえです。
河氏は韓国最大のIT企業ネイバーのAI事業の責任者から、李在明政府のAI首席秘書官となった人物。「肝入り候補」として、故郷の釜山で国会議員に挑戦しています。
この選挙区は直前までの三度の選挙ですべて田載秀候補が勝っていることから、当初、地盤を受け継いだ河氏の勝利は堅いと見られていました。
しかし韓東勲氏が猛追。投票日の6日前から新規世論調査の結果は非公開となりますが、その直前の世論調査ではすべて、河丁友氏よりも優勢でした。

韓東勲陣営がまとめた、各紙世論調査の結果。茶色が韓東勲、水色が河丁友、ピンクが朴敏植です。韓東勲氏のFacebookより。
韓東勲氏の特徴はファンダム(ファン集団)を持っていることです。
ブックコンサートやトークコンサートの取材に何度か行ったことがありますが、女性ファンの多さに圧倒されました。
今回の選挙でもその力は遺憾なく発揮されています。
選挙区の街の交差点には、冗談抜きで100メートルごとに女性ボランティアが、韓東勲氏の写真と記号6番を手に、行き交う車に90度で挨拶しています。こんな選挙の光景は見たことがありません。

紙には6番、無所属、韓東勲と書かれています。29日、筆者撮影。

こちらも6と韓東勲。29日、筆者撮影。
演説開始の1時間前から、三々五々集まった市民たち。
聞くと、ソウル、釜山、大邱など様々な場所から来ていました。
それでも韓国メディアが「外部からたくさんの人が来ている」と報じ、他党の候補もこれをあげつらうような言動をしていることもあり、ややナーバスになっているようでした。
とはいえ、「釜山には今、空いているホテルが少ないので、日帰りで来ている人もいる」と、やや自慢気に語ってくれました。
午後5時過ぎ、韓東勲氏が登場するや否や、黄色い歓声が上がります。
十字路の周辺に700人程の人々が集まっていました。
はじめは、誰も演説を聞いていないのではないかと思うくらい、みな写真撮影などを懸命に行っていましたが、場は次第に落ち着きを取り戻し、私の耳にも演説内容が届くようになりました。
韓東勲氏の主張は、「釜山北区の『失われた20年』を取り戻し、経済を回復させる。そして李在明大統領と共に民主党の独走を止めると共に、保守を再建する」というものです。

演説する韓東勲氏。29日、筆者撮影。
そして、後者の二点をもって、ボランティアの存在価値を最大限に引き立てました。
つまり、韓東勲の後ろには政治を憂う全国の有権者が付いているという論理です。
これは連日トップニュースで報じられ、瞬く間に全国区となった、釜山・北区の存在価値をも高める論理でもあります。見事だなと思いました。
演説を終えた韓東勲氏は、選挙カーにハコ乗りし、交差点を何度も往復し、聴衆にアピールを続けました。
その姿を目を細め見ていた男性がいたので、声をかけてみました。
釜山・北区が地元のキムさん。71歳です。
「これまでこの地域で、こんなお祭りみたいな選挙が行われた事はなかった。人口も減りゆく中、私たちにとって韓東勲氏の価値はとても大きい」というのです。
もう少し詳しく聞こうとしたところ、横にいた同じ釜山出身の女性が言葉をかぶせてきました。
「北区がうらやましい。北区はロト宝くじに当選したようなものだ。ボランティアは皆、外から来ているというが、市場に行ってみなさい。店を埋めているのはみな、外から来た女性たちですよ」。
するとキムさんはうなづき、胸に手を当てながらこう続けました。
「韓東勲が来ると聞いたときから、私の心の中はずっとお祭り騒ぎですよ」。
先の女性もすかさず、場を盛り上げます。
「韓東勲が当選すれば景気もよくなり不動産も値上がりしますよ。私の周りはその話題で持ち切りです」と述べ、にっこりと笑うのでした。

選挙カーをフル活用する韓東勲氏。右端です。29日、筆者撮影。
そもそも韓東勲という人物は、それほど好感度の高い人物ではなかったはずです。
ソウル大法学部卒の検事で、妻も弁護士。韓国で最も高価なマンションに住み、最年少で法務部長官に抜擢されるなど、韓国のスーパーエリートそのものでした。
さらによく言えば尹錫悦氏の側近、悪く言えば子分のような存在で、鼻に付いた印象がありました。
しかし、あまりに非合理的な尹錫悦大統領に少しずつ楯突き、ついには24年12月の非常戒厳の際、決定的に袂を分かちます。
検察の先輩よりも憲法秩序を守ることを選んだのです。この時に韓東勲氏は、新しい保守のアイコンとなりました。
そうとはいえ、尹錫悦支持派により「裏切り者」とのレッテルを貼られ、国民の力を追い出された後はパッとしませんでした。
SNSで発信したり、ブックコンサートをやるといった「空中戦」には長けているものの、地べたで支持を集める政治家というイメージではありませんでした。
しかし韓氏は今回の選挙を通じ、完全に新しいキャラクターを手に入れました。
この日の演説でも「53年間生きてきた中で、こんなに一生懸命なのは初めてだ」と言って笑いを集めていたように、休まず選挙区を飛び回るという、体育会系な姿を見せたのです。
前出のキムさんも「テレビで見ていた時にはもっと冷たい人物かと思っていたが、全くそうではなかった」と嬉しそうに述べていました。

沿道を埋める支持者たち。29日、筆者撮影。
それでもこの釜山・北区甲の選挙区は、蓋を開けてみないと分からないでしょう。今日から始まった事前投票では、釜山市は10.68%と、4年前に比べ1.32%上昇していました。
韓東勲氏が当選する場合、無所属であることから「経済発展」という公約を履行するにあたり、多大な苦労をすることでしょう。
一方で、保守再建や韓国政治の変化といった側面からは、台風の目になるのは間違いありません。
過去、釜山の盟主と呼ばれた金泳三(キム・ヨンサム)元大統領を支持していたという前出のキムさんは、「大統領まで押し上げる楽しみができた」と言い、別の韓東勲支持者の女性2人も「当然、大統領になるまで支える」と意気軒高でした。
どうなりますか。
2. 今日の時事韓国語「투표율」
「トゥピョユル」と読みます。漢字では「投票率」です。
統一地方選の投票率は大統領選や総選挙(国会議員選)よりも低い傾向があります。前回2022年には50.93%と、2018年の60.20%から大幅に下げました。
昨日の大邱市、そして今日の釜山北区甲で「異変」が起きるには、高い投票率が欠かせません。
今日はやや駆け足ですが、ここまでです。レンタカーを25時までに返さなければならないので、これから車で出発です。金浦までは5時間。それではまた月曜日に。
皆さまも良い週末をお過ごしください。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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