【デイリー・コリア・フォーカス】26年6月18日号
皆さま、アンニョンハセヨ。
6月18日、木曜日です。一週間もあっという間ですね。よく子どもに「アッパ(お父さん)が子どもの時には土曜日も学校に行っていたんだぞ」と言っては嫌がれているのですが、それにしても早いです。
今日も首都圏は30度超えでした。昨日と同じように昼食後、犬を庭に放し草むしりを始めたところでハッとなり、慌ててやめました。ヘロヘロになった経験から全く学んでいませんでした。
1. ‘不実’と‘不正’の狭間で…ソウル・選挙批判集会取材メモ
そして午後、ソウル松坡(ソンパ)区にあるオリンピック公園に取材に行ってきました。
6月3日の統一地方選の際、全国数十か所で投票用紙が不足する事態が起きましたが、その象徴となった投票所が付近にあり、同公園内の競技場が開票場になったことから、集会の舞台となった場所です。が自宅からは40キロ、車で1時間です。
到着したのは午後2時過ぎでした。カンカン照りの中、ハンドボール競技場(正式名称はライブアリーナ)では数百人の人々が集まっていました。

ソウル松坡区にあるオリンピック公演で行われていた集会の様子。18日午後、徐台教撮影。
入り口の雰囲気は雑然としていましたが、踏み入れた瞬間、「これまでの太極旗デモとは違う」と分かりました。
改めて説明しますと、太極旗デモというのは保守政党を極端に支持し、進歩政党には「死刑」までを公言する集会の総称です。韓国の国旗を象徴とするためこう呼ばれます。
2016年10月から始まった朴槿惠大統領(当時)の退陣を求めるろうそく集会に対抗するため組織化・大型化しました。24年12月3日の尹錫悦大統領(当時)による非常戒厳以降は、「尹アゲイン」と「不正選挙」に代表される荒唐無稽な主張を繰り返しています。

国会で朴槿惠大統領(当時)の弾劾訴追案が可決された約一か月後の2017年1月にソウルで行われた「太極旗デモ」。のぼりには「弾劾棄却」などの文字が見える。筆者撮影。
今日見た集会の様子はまず、「持久戦」を彷彿とさせる点で印象的でした。集会は選挙から2日後の6月5日から始まっており、今日でちょうど二週間。体制を徐々に整えてきました。
入り口には医療陣のテントがあり、日陰には多くの人々が休んでいました。いくつかのブースでは凍らせたミネラルウォーターやチョコパイに加え、太極旗や星条旗を配っていました。
私が着いた時、競技場の前の広場ではちょうど集会が行われていました。150人あまりの市民が「不正選挙・再選挙・当日投票・手開票」と声を上げていました。
不正選挙というのは、昨日のニュースレターでも言及したように、選挙に不当に介入しているという意味です。再選挙は文字通り選挙をやり直そうというものです。
当日投票というのは、期日前投票を無くそうというもので、手開票は完全に手動で開票しようというものです。なお今は、まず機械による開票を行ったあと、手作業による補完開票を行っています。

集会の様子。星条旗は自由民主主義の象徴として扱われる。不正選挙は共産主義勢力によるものという陰謀論も根強い。18日午後、筆者撮影。
集会を尻目に競技場をぐるりと回ります。あちこちの壁や地面に、市民自らが書いたスローガンが貼られています。その数は数百枚はくだりません。露骨な反共思想を表現するものから、米国との結びつきを強調するもの、参政権の問題を主張するノンポリ風なものまで、様々な種類がありました。

あちこちに貼られたプラカード。不正選挙、再選挙といった言葉が目立ちます。A-WEBという韓国主導で作られた世界的な選挙関連国際機構が不正を行っているという陰謀論もあります。18日午後、筆者撮影。

プラカード。「滅共」といったものから「参政権の侵害」までスペクトラムの広い内容です。同上。
印象とはしては過去の太極旗デモのような、画一的な主張とは真逆でした。色々な主張が混ざっていて、よく言えば自由であり、悪く言えば統制が取れていない集会です。
いくつかある競技場の入り口はすべて封鎖され、それぞれ数人の市民がまるで門番のように守っています。
選挙当時、開票場として使われていた競技場の中には今も、投票箱と開票後の書類がそのまま残されているためです。集会の参加者たちにとってこれらは「不正選挙の証拠」であり、勝手に持ち出されてはならないのです。

競技場の入り口。封鎖されている。「不正選挙、再選挙、当日投票、手開票」のスローガンや星条旗が掲げられている。同上。
少し歩いた後、ふたたびミネラルウォーターなどを配るブースがありました。そこでボランティアとおぼしき若い男性がいたので、声をかけてみました。21歳のキムさん。ソウルの名門・漢陽大の学生です。
聞くと、6月7日から今まで毎日、集会に参加しているとのこと。自身は「尹アゲイン派」や「自由大学」といった極右の学生ではなく、両親は「左派寄り」であると自己紹介してくれました。
投票用紙が足りなくなったという今回の事態を、「自由民主主義の象徴である参政権が剥奪された出来事」と捉え、集会に合流したそうです。
キムさんの目的もやはり、開票場であった競技場の「現場保全」にあるとのこと。
しかし集会参加者が競技場を閉鎖していることで、関連体育業界の被害額は60億ウォン(約6億3000万円)にのぼり、予定されていた公演も別の場所に移る過程でキャンセルが出たりと経済的な悪影響が出ています。
これについてどう考えるか聞いたところ、「経済界の損失は後で補てんできるが、参政権の問題は今ここで解決しなければ忘れられてしまうかもしれない」と述べていました。

プラカードを自由に書くスペースも作られていました。同上。
私と話している間にも、キムさんの担当するブースにはひっきりなしに市民が訪れ、飲み物をはじめとする物資を受け取っていきました。目線を少し上げるとブースの屋根に「不正選挙」と書かれた紙が貼ってありました。
ここで私はキムさんに、昨日のニュースレターで紹介した「不実選挙」と「不正選挙」、今回はどちらに当てはまると思うのかを聞いてみました。
答えは「今起きていることだけを見るならば不実選挙だ」というものでした。さらに「証拠によっては不正選挙になり得る。その証拠を私たちは守っている」と後方の競技場を指さしながら続けました。
つまり、今の状況証拠からは選管の単純なミスで起きた「不実選挙」と考えられるが、開票内容を精査することで「不正選挙」の証拠が現れるかもしれないという主張です。なるほどな、と思いました。少なくともこの集会の意味はしっかりと定義(?)されているようです。

日本語のスローガンも。同上。
一方でキムさんは、「右派が多いが中道の人もいる」と参加者の多様性に言及しました。また、「指導グループがいない」と集会の特徴を説明しました。この点がまさに、集会側と政治家や警察の交渉を難しくしている部分です。
ボランティアを行う理由は「年配の方たちの健康を気遣い、きちんとした情報を教えるため」とのこと。「若者の体力はそのためにある」と笑みをこぼしました。毎日夜の11時までいるそうです。韓国の大学はもう6月末から夏休みに入るため、時間に余裕があるとのことでした。
なお、集会を支える大学生のグループには600人ほどが参加しているそうです。彼らを含めボランティアは全体で約1000人がおり、交代で毎日50人ほどが参加していると教えてくれました。
最後に、一番聞きたかったこの集会の落とし所について聞きました。指導部もいない中、どうすれば解散になるのでしょうか。
これについては「個人的な考え」と前置きした上で、「外国メディアなどを含む、しっかりした監視の下で投票箱をはじめ全ての物を別の場所に移せるなら、集会は解散できると思う。発端は参政権の話だったことを忘れてはならない」と述べました。

星条旗を掲げ行き来する市民も。同上。
今日じっくり話せたのはキムさんだけでしたが、その受け答えする様子からは、一般的な不正選挙デマにどっぷり浸かった人物のようには思えませんでした。
なるべく中立的に、精製された言葉で話そうとする努力が感じられ、これがこの集会の原動力の一つになっているのだなと感じられました。
なお、キムさんと話をしている間に、何人か集会の参加者と話す機会がありましたが、比較的年配の彼らは逆に、紋切り型の話を繰り返すばかりでした。ひと言で「こうだ!」と断言できるない点こそがこの集会の特徴であることがよく分かりました。
他方、集会で食べ物や飲み物を無料で分け与える文化は、進歩派保守派どこにでも見られる風景です。いずれにせよ、韓国の集会の一つであることは間違いはないでしょう。もう少し追ってみようと思います。

集会には法律支援団も参加しています。何が違法行為にあたるのかを明記しています。同上。
今日はここまでです。ここ数日はクラウドファンディングで忙しく、なかなか「今日の時事韓国語」や他の話題にたどりつけません。日ごとに話題を変えながらやっていきます。
なお、16日から始まったクラウドファンディングは今日23時過ぎまで、107人が参加してくださいました。目標金額の12%が集まっています。
オブラートに包まず表現するならば、お金が集まるほど仕事のやり方に多くのバリエーションが出てきます。その分、成果も増えるでしょう。最大限チャレンジしてみようと思うので、引き続き応援よろしくお願いいたします。
最後に、何人かの方に聞かれた「公論の場」についての説明をして終わります。確かに聞きなれない言葉であるため、以下のような説明文をクラウドファンディングのページに追加しておきました。
「公論の場」とはどんなもの?
拙著『分断八〇年』を書く過程で、朝鮮半島問題にかかわる多くの専門家と対話を重ねてきました。
皆さん、専門家の名にたがわぬ素晴らしいアイディアや知見をお持ちでしたが、同時に、それを現実に移す難しさも強く感じているようでした。
ご存知のように朝鮮半島は南北に分断しています。
これにより南北間の対立がある一方で、その歴史的経緯や影響から、韓国内にも保守・進歩の陣営対立があります。
残念ながらこうした対立は、年々深まっています。
朝鮮民主主義人民共和国は韓国との関係を「敵対的な二国家」と位置づけ、憲法もそれに合わせ変更しました。
他方、韓国内の陣営対立はもはや対話が不可能な状況にまで悪化しています。

平和を作り、より良い社会を実現するためには、国家や陣営にかかわらず人々が広く協力する必要があります。
そして、これを可能にする前提として「共通の理解や知識」が求められ、次に「意見をぶつけ合い、妥協点と解決案を見つけるための空間」が大切になります。
もうお分かりでしょう。これを提供するのが「公論の場」です。
新生コリア・フォーカスは「公論の場」を作り、維持することをその仕事としていきます。
それではなぜ、これを日本発のメディアとして行うのでしょうか。
在日コリアンの私は以前から、朝鮮半島をめぐる複雑な問題に対し、当時者でありながらも一歩引いたところから俯瞰(ふかん)できる、在日コリアンが持つ特性に気付いていました。
これこそが「コリア・フォーカス」を日本発のメディアと位置づける理由です。
日本という、朝鮮半島とは切っても切れない間柄の地に「公論の場」を設けることで、より深みと広がりを出せると確信しています。
また、公論の場の効能は、朝鮮半島問題だけに限りません。
後退する民主主義を支え、押し寄せるAI(人工知能)の影響から社会を守る力となります。さらに、日本と朝鮮半島の間に横たわる歴史問題などの問題を解決する糸口となるでしょう。
遅くなってしまいました。それではまた明日お届けします。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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