韓国政治に「保守ライバル対決」勃発、「犬食」全面禁止へ、市民のメディア利用の実態、社会派ドキュメンタリー紹介など全13トピック|第17号
(11月21日)サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第17号をお届けいたします。今号は韓国社会・韓国政治をテーマにお届けします。前回「これからは内容を少し短くする」と書いたのですが、長くなってしまいました。あとがきでもう一度この点について整理してみますね。
今号の目次は以下の通りです。新機軸として、韓国の良いドキュメンタリーを伝える連載と、過去に扱った内容のその後を伝える「その後のニュース」コーナーを作りました。
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韓国社会(1):韓国市民のメディア・コンテンツ・ソーシャルネットワークサービス(SNS)18種類の利用率
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[新連載] 韓国ドキュメンタリー:『熟練工の消滅、製造業がたおれる』(KBS『追跡60分』11月10日放映)
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韓国政治(1):80%が「国会が役割を果たしていない」、平均点は42点
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韓国政治(2):総選挙の話題は保守派が独占、「ライバル」李俊錫と韓東勲が注目の的に
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ショートニュース:(1)役所の電算網が止まる、(2)「犬食」全面禁止の立法へ、(3)尹錫悦大統領の義母が文書偽造で懲役1年確定
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その後のニュース:(1)「政府の介入?」公営放送KBSは労組が新社長を起訴、(2)「導入無期限延期」紙ストローは徐々にプラスチックへ、(3)医大定員増員は大学側の要望でそろう、(4)株の「空売り禁止」に尹大統領がはじめて言及、(5)「短髪だからフェミニスト」コンビニ女性暴行事件の犯人が起訴、(6)「金浦市のソウル市への編入」は段階的に行うことに
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あとがきに代えて:ご意見お聞かせください
◎韓国社会(1):韓国市民のメディア・コンテンツ・ソーシャルネットワークサービス(SNS)18種類の利用率
韓国に住む人は普段どんな文化的な活動(?)を行っているのでしょうか。
韓国の信頼できる世論調査会社『韓国ギャラップ』が今年2月から7月にかけて済州島を除く全国の満13歳以上5202人を対象に行った調査結果が、今月16日に発表されました。私も非常に興味があるので、整理しながら見ていくことにします。
まず、メディア・コンテンツサービスの利用からです。「過去一年間に利用したことがあるか」という問いに「ある」と答えた割合です。カッコ内は前年の数値です。
▲動画サイトの有料利用 57%(44%) ▲音源サイトの有料利用 33%(29%) ▲ラジオの定期聴取 37%(32%) ▲電子書籍の有料購読/購入 5%(4%) ▲オーディオブックの購読/購入 3%(2%) ▲ポッドキャスト聴取 10%(12%) ▲紙の本の購読/購入 8%(8%) ▲紙の新聞の有料購読 5%(4%) ▲紙の雑誌の有料購読 2%(1%)
『韓国ギャラップ』のレポートによると、「動画サイトの有料利用率」が20代30代で80%を超えるとし、10代(58%→73%)、40代(51%→70%)、50代(27%→51%)の年代で昨年から大幅な増加となりました。
また、ラジオの定期聴取は40代50代の男性や経済活動者が多く、20代30代が主軸のポッドキャストよりも底辺が広いとしました。
同社は一方で、テキストコンテンツは「不振を免れない」と評価しました。「過去一年に一冊でも本を買った人」は19年16%、20年13%、21年7%、22年8%となっています。
同社の過去の調査によると1993年には33%、インターネットが普及した2000年には26%、「スマホ時代」の今は5%未満と見ているそうです。また、電子書籍が紙の本の代案には今のところなっていないとしています。
紙の新聞については1993年57%、2000年53%だったものがインターネットの普及と共に急減したとしています。19年12%、20年9%、21年5%、22年4%でした。50代以上の男性が主な読者層だとのことです。
メディア・コンテンツサービスの利用を示す表。左上から右に動画・音源・ラジオ、中段左から電子書籍・オーディオブック・ポッドキャスト、下段左から紙の本・紙の新聞・紙の雑誌。韓国ギャラップより。
次はメッセンジャーを含むSNSの利用率です。同様に「過去一年以内に使ったことがある」人の割合です。カッコ内は昨年の数値です。
▲モバイルメッセンジャー(カカオトーク、LINEなど) 93%(93%) ▲NAVERバンド(オンラインコミュニティ) 47%(43%) ▲カカオストーリー(カカオ社の日記帳) 37%(33%) ▲YouTube 93%(91%) ▲Facebook 31%(32%) ▲インスタグラム 39%(36%) ▲ツイッター(現X) 15%(15%) ▲TikTok 19%(14%) ▲ChatGPT 7%
同社の分析を見ていきます。「国民アプリ」と呼ばれ公共機関も依存する「カカオトーク」をはじめとするモバイルメッセンジャーの利用率は10代から50代まで90%台中盤で、60台以上では82%とのことです。
60台の残る18%が「デジタルコミュニケーション中心の社会から疎外されている階層」であると見立てています。
同社はまた、スマートフォンの利用率について、過去の調査を元に明かしています。
12年には53%だったものが、13年に70%、14年80%、16年11月に90%、そして23年には97%に達しているそうです。60代以下は100%に肉薄し、70代以上は85%(男性91%、女性80%)とのことです。
また、SNSについては年代層による偏重があるとしました。ツイッターは10代から30代、TikTokは10代が主軸だったものから20代30代へと拡張しているそうです。
最新のAIサービスであるChatGPTの利用率は13歳~18歳で12%、19歳~29歳で16%、30代で12%と他の年代層より高い結果となりました。
◎[新連載] 韓国ドキュメンタリー:『熟練工の消滅、製造業がたおれる』(KBS『追跡60分』11月10日放映)
今号から新機軸です。韓国では日本と同じように、まだいくつかの「ドキュメンタリー枠」がギリギリで存在していますが、その中から韓国社会を理解するために役立つ内容を整理してお伝えします。
まず気になるのは著作権の問題です。韓国の弁護士に有料で相談してみたところ、丸々の引用でなければOKとのことでした。節度を守った引用をしながら進めていきます。
同番組のサムネイルの一つ。KBSYouTubeチャンネルをキャプチャ。
第一弾は11月10日にKBS『追跡60分』で放映された『熟練工の消滅、製造業がたおれる』です。
まずは番組の背景を説明します。これは私が調べたものです。
23年上半期の統計によると、韓国の造船受注量は中国に次ぐ世界2位となっています。
今年7月のKBSニュースによると、受注量の総トン数を表す数値CGTで比較する場合、同期間に中国は1043万CGT、韓国は516万CGTで、世界市場の29%を占めました。
一見、中国との差は大きいですが同記事では「統計上の差よりも、その質に注目すべき」としています。韓国は一隻あたりの船のトン数が中国の倍近く(22年には約5万5千トン)になるとし、製造する船の質で中国を上回っているというのです。
また、23年9月現在の受注量を見る場合、世界1位から4位までを韓国の造船会社が独占している点も特筆すべき点です。
韓国造船業の強みは「親環境」つまり温室ガスの排出量が少ない船を生産する技術の高さにあると前掲の記事では説明しています。
下記の統計庁の表にもあるように、造船業は毎年100億ドル以上の黒字をもたらす韓国の主要産業の一つとなっています。
見づらいですが、韓国の船舶輸出入の統計です。上から「貿易収支・輸出・輸入」となっています。単位は億ドルです。統計庁サイトより引用。
番組は韓国南東部の慶尚南道(キョンサンナムド)巨済(コジェ)市から始まります。ここには受注量世界一の造船会社、サムスン重工業巨済造船所と同3位の韓火(ハンファ)オーシャン巨済造船所があります。
交差点では造船所ではたらく労働者たちのオートバイが列をなしています。しかし表情はそう明るくありません。「好況で受注が増えたが納期を合わせられない」というのです。「見習いが入ってこない上に熟練工は50歳を超えている」という声もあります。
番組では造船に関わる各地の工場を訪ねていきます。
船体の部品を作る慶尚南道咸安(ハマン)郡のある工場主は「好況であるが、人手不足が深刻だ」だとし、その理由について新たに造船技術を学ぶ人がいない上に、これまで一緒だった労働者はみな引退してしまったからと説明します。過去に300人いた労働者が20人しかいないそうです。
鉄板を加工する韓国南西部・全羅南道(チョルラナムド)の霊岩(ヨンアム)郡の工場では、最低でも7年のキャリアを持つ熟練工に任せるべき仕事があるものの、過去に比べ半分しか熟練工が残っていないといいます。
キーワードは熟練工です。「造船は手作業が多く、機械化が難しい」という背景があります。全羅南道で足りない熟練工は2000人に及ぶそうです。
番組ではまた、韓国の造船業において1万4000人の人手が足りないとも述べています。こんな人手不足を埋めているのが外国人です。