【デイリー・コリア・フォーカス】26年5月28日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
5月28日、木曜日です。今日は大邱(テグ)市内のカフェから「デイリー・コリア・フォーカス」をお送りいたします。
1. 大邱市長選ルポ「変わらなければ大邱は終わり」
「失われた30年」
主要国における1990年以降の名目GDPの成長推移を比較する場合、他国よりも際立って低調な日本のことではありません。大邱のことです。
大邱はソウル、釜山(プサン)、仁川(インチョン)に次ぐ第四の都市とされますが、その内実は大邱市民が「どうしょうもない」と自嘲するほどに優れません。
統計庁によると、人口は2000年に約254万人でしたが、その後減少を続け、2024年には約240万人となっています。
また、地元紙の嶺南日報(ヨンナムイルボ)によると、大邱市のGRDP(一人あたり地域内総生産)は1993年に全国17の広域市・道の中で最下位となって以降、2024年まで33年連続で最下位となっています。
しかし、同市の政治は30年間変わりませんでした。1995年に統一地方選が始まって以来、8回の市長はすべて保守政党から輩出されました。

青い丸が大邱の位置です。私の自宅からは320キロ。車で5時間かかりました。
「俺は大邱の人だから進歩派には投票できないよ。そうするくらいなら棄権するよ」。
私が今日乗った、70歳のタクシー運転手キムさんはこう語りました。なぜでしょうか。
大邱は一般的に、「保守の心臓」と呼ばれます。
その理由は二つあります。
一つは、朝鮮戦争(1950〜1953、現在は休戦)の際、大邱に隣接する地域が、朝鮮民主主義人民共和国の軍隊を防ぐ最終防衛線(洛東江防衛線と呼ばれます)となったことが関連しているとされます。
もう一つは、政治的な背景です。こちらが本命でしょう。保守派の大統領である、朴正煕(パク・チョンヒ)、盧泰愚(ノ・テウ)、朴槿惠(パク・クネ)がいずれも、この地域の出身であるからです。
他地域よりも優先的に経済的な恩恵を受けたことから、TK(大邱・慶尚北道)は一つにくくられ、保守の牙城となっています。
これに全斗煥(チョン・ドゥファン)、金泳三(キム・ヨンサム)という保守派の大統領を輩出したPK(釜山・慶尚南道)地域までが、韓国の保守を支えています。

大邱市に隣接する慶尚北道(キョンサンプクト)漆谷(チルゴッ)郡にある「多富洞(タブドン)戦績記念館」。朝鮮民主主義人民共和国の攻勢から守り抜いた、朝鮮戦争最大の激戦地での勝利を記念するもの。2020年6月撮影。
「今回ばかりは変えなければならないでしょう!どうか私を使ってください!」
28日午後3時半すぎ、強い日差しがふりそそぐ大邱市内・東区市場前の道路で、与党・共に民主党の金富謙(キム・ブギョム)候補は声を張り上げました。地元出身の同氏は、訛りを前面に出し親近感をアピールします。
「大邱の失われた30年をこれ以上放置することはできない。子どもたちに良い未来を受け継がせるには、これまでとは違う党が、違うやり方をする他にない」。金富謙氏の主張はこう整理できます。
さらに、共に民主党の中で最も懐の深い政治家として、国務総理まで務めたキャリア、その人脈をもって、大邱を本当に変えると続けるのです。「現役長官の内、7人が後輩だ。大統領とも親しい。口だけではない」と強調しました。

29日午後、東区市場前で演説する金富謙氏。トラックには「新たな跳躍か?そのまま停滞か?」と書かれている。筆者撮影。
演説を終えた金富謙氏が市場を握手して回ります。壮年の魚屋の主人が「なぜ前回、しっかりやらなかったのか」と憮然とした表情で金氏の手を握ります。
金氏は2016年から2020年まで、大邱市の選挙区の一つ寿城(スソン)で国会議員を務めました。この時のことを指すのでしょう。金氏が去った後、具体的に聞かせてほしいと声をかけるも「話したくない」と笑いながら断られました。
仕方なく、3件となりで天ぷらなどを売っている、62歳の女性店主・パクさんに金氏について尋ねました。「どうせまた、途中で大統領選にでも出てしまうのでしょう。洪準杓のように」。
洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏は、2017年5月の大統領選で保守政党の候補となり、文在寅氏に次いで2位となった著名政治家です。
2022年の統一地方選の際、鳴り物入りで大邱市長選に挑み当選しましたが、これといった成果を残せないまま、2025年の大統領選に出るため、市長職を辞任しました。
布団を売る女性店主も、「大邱は誰がやっても同じ」と、無表情なまま語りました。名前は教えてくれませんでした。

市場の店を一軒一軒たずね、握手する金富謙氏(たすきの人物)。筆者撮影。
政治的効能感という言葉があります。
自身の投票行動によって社会がより良く変わったと実感することを指すもので、これが蓄積するほどに政治参加が活発になり、これを感じられないと次第に政治に対し興味を失っていきます。
誰が市長になっても経済状況が上向かない中、大邱の市民たちは、政治的効能感を感じる機会を持てなかったのではないかと思いました。
「大邱が最後の砦です。ここを取られる訳にはいかないでしょう!」
同日午後4時半すぎ、市内の新梅(シンメ)市場に隣接する十字路で、最大野党・国民の力の秋慶鎬(チュ・ギョンホ)候補が、朝鮮戦争時代の大邱のイメージを想起させながら、与党への牽制を訴えます。周囲では「クロッタ!(そうだ!)」と支持者が賛同します。
この辺はまさに、分断国家という感があります。相手にアカ(共産主義者)とレッテルを貼る政治が、今なお存在しているのです。李在明大統領の高い支持率を背景に、選挙全体で与党の優勢が伝えられる中、大邱市民の危機感を煽るやり口です。
演説を終えると、やはり市場を回りながら握手をして回ります。そのリラックスした様子には、まさにホームの政治家といった趣がありました。緊張感のある金富謙氏とは対照的です。

28日午後、新梅市場前で演説する秋慶鎬氏。筆者撮影。
地方取材ではとにかくタクシーを使い、運転手に色々なことを尋ねるのが鉄則です。
冒頭で紹介した「進歩派に投票するくらいなら棄権する」と言った70歳のタクシー運転手キムさん。ここに向かう道中で、「共に民主党の横暴が目に余る」と強調しました。
特に、任期中は停止となっている李在明大統領の裁判について、裁判そのものを取り消すことができる法案を、与党が作ろうとする動きに言及しました。
「これが無かったら、今回の選挙は与党が圧勝していただろう」と続けます。
このようなバランス感覚もまた、韓国ならではです。片方の陣営が強くなりすぎることは、政治的に好ましくないと知っているのです。

市場で働く人々は笑顔で秋慶鎬さんと握手をしていました。年配の方々が多かったです。筆者撮影。
大邱でもっとも栄えた地域・寿城(スソン)区。高層アパートが建ち並び、寿城池(スソンモッ)をぐるりと取り囲むように、ホテルや飲食店が並ぶ、人気の観光スポットです。
同日午後6時過ぎから、池のほとりに三々五々市民が集まり始めました。市場とは異なり、30代40代とおぼしき人々、特に女性が目立ちます。
金富謙氏の出番を待つ間、数組の演者がスピーチしました。中でも目についたのが、陸軍大将をリーダーとする退役将官の一団でした。
聞くと、保守陣営の一部ユーチューバーなどが金富謙氏を「アカ」と批判し、「金富謙では安全保障に不安がある」といった投稿をしていることを受け、「金富謙氏はアカではない」ことを証明するために出てきたというのです。大邱ならではの光景でした。
7時頃になってようやく姿を現した金富謙氏は、上気した顔で改めて大邱市のビジョンを語りました。特に10年来棚上げになっている新空港建設を強調しました。
これが実現する場合、これまで仁川空港を通じて輸出していた韓国中部の製造業が、大邱を利用することになるとし、これこそが後代のための事業であると訴えました。
数百人の聴衆は歓声で応えました。

28日夕方、熱弁を振るう金富謙氏。筆者撮影。

寿城池前に集まった市民たち。筆者撮影。
「以前は7対3で保守が多かったが、今回の選挙は4対6だ」
8時頃に会場を後にした私は、車を停めてある図書館に戻るためタクシーに乗りました。ハンドルを握る55歳のイムさんは、こう述べました。
大邱が地元のイムさんの友人たちの話です。金富謙氏にそれほどまで期待するのかと聞くと、そうではありませんでした。
「選挙というのは仕事をしろと政治家を選ぶもので、成果を残せなければ別の人を選べばよい。私の手はそんな『刀』を持っているのだ。しかし私の両親の世代は、子どもや孫の世代のことを何も考えていない。今回、変わらなければ大邱は終わりだ。ゆっくりと死を選ぶしかない」
静かな口調にはすごみがありました。タクシーを降り、私は目の前のカフェに入りこの記事を書いています。

美しい寿城池の様子。
2. 今日の時事韓国語「사전투표」
「サジョントゥピョ」と読みます。漢字では「事前投票」。韓国では明日29日と30日に事前投票が行われます。
身分証だけ持って行けば、全国どの投票所からでも投票できる、なかなか便利なシステムです。
カフェが閉店ということで、今日はここまでです。
美味しいものの写真をと思いましたが、今日は朝からパン一つしか食べていません。
これから釜山へと1時間かけて車で移動し、何か食べることにします。
明日は釜山取材です。それではアンニョンヒケセヨ。(徐台教)

応援にも熱が入ります。人や車が通るたびに羽を広げる女性。

こちらは支持者が列になってぐるぐる回っていました。在日朝鮮人の結婚式を思い出してしまいました(笑)
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