【デイリー・コリア・フォーカス】26年1月12日号
皆さまアンニョンハセヨ。韓国の徐台教(ソテギョ)がお送りする「デイリー・コリア・フォーカス」です。あっという間に月曜日ですね。
韓国の首都圏は週末、強風に見舞われ被害が相次ぎました。南西部の全羅道や済州島では、雪も降り積もりました。
このような時には「北側の天気はどうなんだろう。住民は大変だろうな」と思いを馳せることになります。
今日の内容は以下の通りです。
1. 「ひどい裁判」、尹錫悦氏への求刑は13日に
2. 尹政権下の「反骨人士」たちが将軍に
3. 唐突な「韓国からのドローン」騒動の顛末
4. 今日の時事韓国語「별을 달다」
1. 「ひどい裁判」、尹錫悦氏への求刑は13日に
9日に終わるものとされていた「内乱罪」裁判の結審公判。
被告人側に意見を述べる最後の機会を与え、弁護人の最終弁論を経たのち、検察側による求刑が行われる予定の公判でしたが、決着が付かず延期となりました。
原因は遅延戦術と管理不足のためです。
尹錫悦前大統領や、24年12月の非常戒厳当時の金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防長官など8人に求刑が言い渡されるとされた公判は、前倒しで朝9時20分に始まりました。
しかし、トップバッターの金前国防長官側の弁護人団が約10時間にわたり意見を述べたことで、夜10時頃になって池貴然(チ・グィヨン)裁判長が改めて期日を定める事を決めました。
池裁判長は徹夜でも裁判を進める意志を見せましたが、尹錫悦氏側の弁護人が「フラフラだ」とし、検察も同意したことから、仕切り直しとなったのです。
結局この日、尹錫悦氏に関する部分では何一つ進展がありませんでした。
ケリがつかない公判に対する批判の矛先は、遅延戦術を採った被告人たちの弁護人はもちろんのこと、池貴然裁判長にも向かっています。公判をコントロールできなかったという脈絡です。
昨年1月25日から始まった「内乱罪」裁判を一貫して担当する同氏に対しては、昨年3月に尹錫悦氏の釈放を決めるなど、そうでなくとも尹錫悦氏の非常戒厳を憲法違反と見る市民からの強い批判が存在します。
尹錫悦氏も負けてはいませんでした。この日、休廷時間に金龍顕国防長官の弁護団席に行って「よくやっている」と激励する様子を見せました。
また、非常戒厳当時、戒厳軍の銃口を掴んだ女性、アン・グィリョンさん(現共に民主党副報道官)の映像が流れるや、失笑する場面もあったといいます。
ですが裁判はすべて中継されていたため、結果として現実を直視できない尹錫悦氏の情けない姿をさらけ出すだけとなりました。
こんな姿に保守系日刊紙『東亜日報』も10日付けの社説を通じ、「尹錫悦は戒厳後1年が経つ間、一度も反省も謝罪もしていない」と断じました。
真ん中が池貴然裁判長。それに尹錫悦さんです。10日のMBCニュースをキャプチャ。
13日に決着は付くでしょうか。
この日、尹錫悦氏の弁護団は「長時間(6時間とも7時間とも)の意見陳述を行う」と予告しているとのこと。
池裁判長は人事異動を控えているため、2月の最終週以前には一審が終わらなければなりません。
これを逆手に取り、尹錫悦をはじめ被告人側はより懸命に時間稼ぎをするのではという見方も、韓国メディアで提起されています。
最初から最後まで、頭の痛い裁判です。
2. 尹政権下の「反骨人士」たちが将軍に
韓国国防部は9日、将官級人事を発表しました。この中で、尹錫悦政権下で名を上げた2人の大領(大佐)が准将に進級しました。
一人目は、パク・チョンフン氏。
同氏は23年7月に起きた、海兵隊チェ・スグン一等兵(当時21歳、殉職後上等兵に)の死亡事故を調査する海兵隊の捜査団長を務めた人物です。
豪雨により氾濫した河川で行方不明になった住民を捜索する過程で起きた事故でしたが、パク氏は安全義務を怠ったイム・ソングン海兵隊第一師団長をはじめ8人に「業務上過失致死」の疑いがあるとし、地元警察に移牒しようとしました。
しかしこの時、パク氏の報告を決裁したはずの李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防部長官(当時)から突如ストップがかかります。
パク氏はこれを無視し移牒するのですが、これにより「抗命」の容疑をかけられ、職を解任され軍警察により起訴されました。
パク・チョンフン准将。写真は昨年10月1日の国軍の日当時のもの。MBCテレビのFacebookよりキャプチャ。
ううむ…この事件は非常に長い話なので、これだけで3000字以上になってしまいます。尹政権の凋落を招いた一件であるためもう少しだけ続けます。
この李国防長官による介入の黒幕は尹錫悦大統領ではないかと、当時から言われていました。イム師団長を捜査対象から外すためというものです。
果たして事実なのか、そうだとしたら、その理由は何なのか。事件の解明は、昨年6月に発足した特別検察の捜査の手に委ねられることとなりました。
結果は、尹錫悦氏を含む13人の起訴。介入の頂点に尹錫悦氏がいるとされ、イム・ソングン前海兵隊第一師団長も起訴されました。
大統領→国防部長官・国家安保室→現場へと圧力がかかったということで、李国防部長官や趙太庸(チョ・テヨン)国家安保室長も起訴されています。これから裁判で是非を争うこととなるでしょう。
特別検察はまた、パク大佐の捜査結果が正しいことを改めて認めています。
パク大領には25年1月9日、軍事裁判所が一審で無罪を宣告します。軍検察は控訴しますが、同年7月9日、前出の特別検察が控訴を取り下げ、無罪が確定したのです。
パク大領はその後、国防部調査本部の次長として復職しました。今回の昇進を受け、空席の国防部調査本部、部長代理に任命される見通しです。
さらに、昨年10月1日の「国軍の日」には憲法的な価値を守護した功により「報国勲章・三一章」を受勲しました。
まるで映画のような(トム・クルーズ『ア・フュー・グッドメン』を彷彿とさせます)のエピソードと言われていますが、無理な上部の命令により亡くなったチェ上等兵の命は戻ってきません。
もう一人は、キム・ムンサン大領です。
こちらは日本ではほぼ誰も知らない人物だと思います(拙著『分断八〇年』をお読みになった方はご存知のはず)。
24年12月3日の非常戒厳の際、首都防衛司令部の作戦処長だった同氏は、ソウル南東部の京畿道(キョンギド)利川(イチョン)市を飛び立った陸軍特殊戦司令部のヘリが、ソウル上空に入るのを拒み続けました。
事前に作戦を知らされていなかった上に、ヘリが行き先や目的を明かさないため、キム大領は合同参謀本部に確認を取る手続きを続けたのです。
ヘリには後に戒厳軍として国会に展開することになる、七〇七特殊任務団が乗っていました。金正恩氏など要人暗殺を任務とする韓国軍の最精鋭部隊です。
首都防衛司令部がソウル領空への進入を許可しない場合、ヘリに対し防空システムが作動することになります。
このためヘリは立ち往生し、結果として、国会議員が国会に集結する時間を稼ぐことができたのです。キム大領は当時、尹大統領が非常戒厳を宣布したことを当然知っており、ヘリの行き先が国会であると看破していたとされます。
キム・ムンサン准将。写真は大領当時のもの。写真がない人物として知られています。これは非常戒厳後に国会に出席した際のものです。ネットより引用。
戒厳が潰えた後、韓国メディアではこぞってキム大領こそが、非常戒厳の被害を最小限に抑えた一番の功労者と称えています。
なお、拙著『分断八〇年』ではキム大領が稼いだ時間について韓国メディアの報道を総合し「約40分」としたのですが、昨年12月の地上波MBCテレビの『PD手帖』では共に民主党のある議員の発言を引用し、約13分としていました。
どちらが正しいのか判断が付きませんが、MBCも今回の進級を伝える記事で「42分」としています。なんのこっちゃ、です。
李在明政権は非常戒厳当時、‘不当な命令’に従った軍人と従わなかった軍人に分けて、信賞必罰をもって接しています。
今回の進級人事に含まれませんでしたが、非常戒厳当時、国会への追加の戒厳軍配置指示を履行しなかった首都防衛司令部の別の大領も、下半期に准将に進級すると報じられています。
一連の人事は、軍にとって「憲法に忠実であることが何よりも大切である」ということを今一度確認するものとなるでしょう。
なお現在、韓国軍の規模は48万人と少子化により急激に減っており、准将から大将までの将官の数は370人とされています。
3. 唐突な「韓国からのドローン」騒動の顛末
現段階で3000字を超えてしまっているのですが、もうひと項目だけお伝えします。
10日、土曜日の朝に北朝鮮の国営朝鮮中央通信が「韓国から飛来したドローンを撃墜した」と伝えました。朝鮮人民軍総参謀部報道官による声明というかたちでした。
これによると、今年1月(!)と昨年9月の二度にわたってドローンを撃墜したが、機体を調べると航路がいずれも韓国側から北朝鮮を通ってまた韓国に戻るように設定されており、機体下部に取り付けられたカメラからは、撮影された北朝鮮の施設や住宅の映像を回収したというものでした。
※発表の詳細は10日にYahoo!ニュースに配信した記事をご参考ください。
この唐突な発表をどう受け止めるべきでしょうか。
まずドローンを誰が飛ばしたのかという部分については、韓国の専門家の間では「民間によるものではないか」という見方が大勢を占めています。
理由は二つ。まず、昨年9月と今年1月という時期的に、韓国軍がドローンを北側に飛ばすとは考えられないというものです。
昨年9月は、尹錫悦氏が非常戒厳の要件の一つである「戦時」を作り出すため平壌の金正恩氏の執務室上空にドローンを飛ばした疑惑への捜査が行われているさなかでした。
今年1月に至っては、李在明氏が昨年秋以降、南北関係の「完全な断絶」に言及し、「針の先ほどの穴でもこじ開けなければならない」と発言してきたことと矛盾します。
二つ目の理由は、朝鮮中央通信で公開されたドローンの外観や内部部品を見るに、民需品であることが明らかであることです。
韓国軍は10日、軍の関与を否定し北側を挑発する意図はないことを表明しました。
李在明大統領も民間によるものの可能性に言及しつつ、「事実ならば韓半島の平和と国家安保を脅かす重大犯罪」としと、軍警による合同捜査を指示しています。
今年1月に飛来したものとされるドローン。朝鮮中央通信より引用。
他方、北朝鮮が今なぜ唐突にこの出来事を発表したのかという疑問があります。
これについては、5年に一度の重要行事である「第9次党大会」を控えた北朝鮮が、南北関係の悪化を国内外に印象付けるためとの見方が存在します。
先に紹介したYahoo!ニュースの記事に引用した国策シンクタンクの専門家もそう言っていますし、私もまずそう思いました。
党大会では金正恩氏が23年12月から明確な意志を持って進めている、「南北関係を敵対的な二国家関係」とする路線を党規約に書き込む可能性が取り沙汰されています。
こうすることで、金正恩個人の考えから、国家を指導する朝鮮労働党の取り決めに格上げされ、さらなる求心力を得ることができます。
その際に、南北関係が良いよりも悪い方が、北朝鮮住民への説得力が増すと考えているのではないでしょうか。
そもそも金正恩氏が韓国を「切り離す」背景のひとつに、韓国からの文物の浸透を遮断するねらいがあるとされているので尚更です。
南北には一部で単語や言い回しが異なるとはいえ、同じ言葉を使う人々が住んでいます。北朝鮮の住民が韓国の豊かさ、自由さを知ることは、住民の自由を制限する金正恩氏にとって、その権力基盤を揺るがしかねないのです。
「見よ、韓国で進歩派政権が成立したというが、その敵対的な姿勢は変わらない」という印象付けに、ドローンはもってこいの材料となるのです。
南北分断を自身の権力維持や強化に用いるという、「分断体制」の典型的な一例です。
その後、11日には金正恩氏の妹・金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党副部長が談話を出しました。
「関与せず」という韓国軍の発表を受け入れながらも、民間だろうが軍だろうが、ドローンが飛んできたことに変わりはないという見解を明かしました。
それと共に「民間がやったから主権侵害ではないというならば、今後は北側の民間ドローンが韓国に飛来することになる」と圧力をかけてきました。
ここまでが現在までの展開です。
専門家の見解は「対話のチャンスが訪れた」というものと、「対話を渇望する韓国が見透かされている」という二つに分かれ、保守陣営は李在明政権の対応について「弱腰」と批判し始めています。
22年12月に北朝鮮から発射されたドローンが、ソウル中心部の大統領執務室上空にまで到達する出来事がありました。
この時、韓国が撃墜に失敗しましたが、北朝鮮側からの謝罪がなかったことを取り上げ、韓国も安易に反応してはならないという批判です。
私は金与正氏の談話を読んで、北朝鮮は韓国大統領の謝罪を求めているのではないかとも思いました。
そうでなくとも昨年12月、李大統領は尹政権が北朝鮮を挑発するためにビラを飛ばしたことを取り上げ、「謝罪が必要ではないかと考えている」と述べたことがあります。
謝罪をするなら、本人もしくはしかるべき人物が直接会ってすべきでしょう。韓国はこう切り返すのではないかと見ますが、どうでしょうか。
なお、ある専門家は今後もドローンが南北関係を悪化させる可能性があるとして、南北政府が南北の接境地帯に「ドローン飛行禁止線」を設定すべきではないかと提案しました。
非常に優れた提案だと思います。ドローンはもはや戦争兵器ですので。
4. 今日の時事韓国語「별을 달다」
「ピョルル タルダ」と読みます。ピョルは「星」、タルダは「ぶら下げる、縫い付ける」という意味です。
このため、「星を付ける」と意訳することができますが、これは佐官が将官に進級すること、つまり「将軍になること」を指します。
准将の階級章が星一つであることから出た言葉です。准将を「ワン・スター」、少々を「ツー・スター」などと呼びます。
以上です。
今日はずいぶんと長くなってしまいました。
週末であることに加え、尹錫悦裁判、南北関係と大きなニュースが続いたためです。13日からの李在明訪日については明日触れます。
深刻ではない、興味深い話もいくつかあるので、これも明日以降お伝えします。
それでは良い一日を。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
すでに登録済みの方は こちら
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績