【デイリー・コリア・フォーカス】26年7月13日号

皆さま、アンニョンハセヨ。
今日は7月13日、月曜日です。韓国は週末に慶尚北道の慶山(キョンサン)市で39.9度を記録するなど、過去最高の猛暑となりました。これに伴い、慶山と南東部の浦項(ポハン)市では「暴炎重大警報」が発表されました。
これは今年から導入された制度で、「『一日の最高体感温度が35度以上の状況が二日以上続いた地域』で、『一日の最高体感温度が38度以上』または『一日の最高気温が39度以上』の状況が一日以上続くことが予想される時」に発表されるものです。
年々ひどくなる猛暑に合わせ、これまでの「暴炎注意報」、「暴炎警報」よりも重大な警報として、今年から導入されたものですが、さっそく適用されることとなりました。
これにより、「災難ヘルパー」と呼ばれる社会福祉士や生活支援士たちが、一人暮らしのお年寄りなどを直接訪問し、その無事を確かめる活動が行われることになると韓国メディアは報じています。
韓国では一般的に、主要テレビチャンネルはすべて19時〜21時までの時間帯のどこかでニュースをやるのですが、そこでもいかに熱中症を防ぐかを熱心に伝えています。
今は22時ですが、今日も熱帯夜です。大変な世の中になってしまいましたね。
気候変動への対応が、何よりも声高に語られるべきと思うのですが、なかなかそうはならないようで。皆で悲惨に未来に向かって疾走している気がしてなりません。
という訳で、今日の目次です。
1. 「朝鮮への韓流文化流入」が住民を危険にさらす?
2. 今日の時事韓国語「근본이즘」
1. 「朝鮮への韓流文化流入」が住民を危険にさらす?
7月7日、日本のNHKにあたる、韓国の公営放送KBSの時事番組「時事企画・チャン(窓)」で、興味深い内容が放映されました。
題名は「ビラと手電話(携帯電話)」。朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)における「情報」をテーマとするものです。

タイトル画面。同番組をキャプチャ。
こういうテーマの番組では得てして、「朝鮮で韓流が広がっている」、「いかに外部の情報を朝鮮国内に送り込んでいるのか」といった方向で内情が描かれるのですが、今回の番組と異色ともいえる出来でした。
それは、「朝鮮への外部情報を流入させることの意味」と、「朝鮮へと外部情報を流入させることがもたらす副作用」について触れていたからです。
番組ではまず、その間いかに外部の情報・文化が朝鮮内部で広がっていったのかを振り返ります。00年代から、USBや焼き増ししたCD-Rなどを通じ、韓国の音楽・ドラマ・映画などが秘密裏に普及していきました。
朝鮮当局は00年半ばからは「109常務」という取り締まりグループを使い、これを積極的に取り締まっています。
さらに、2020年代に入ってからは韓国の尹錫悦政権が「三大悪法」と呼んだ、『反動思想文化排撃法』(20年12月)、『青年教養保障法』(21年9月)、『平壌文化語保護法』(23年1月)を立て続けに制定しました。
韓国文化の浸透は「侵入」であり、これに加担する者に対し、最高刑・死刑をもって対応するという人権を無視した取り締まりを行っています。
なお、韓流がいかに朝鮮社会に影響を与えたのかという点では、2024年に韓国で出された論文で以下のように整理されています。これは出てすぐ、私が有料ニュースレター(24年10月18日発行)にまとめた記事から引用します。
・韓流経験がある場合、経済難の責任を最高指導者に求める傾向が有意味に強まる(この場合の有意味とは「統計上認められる」ということを指す)→韓流との接触が最高指導者を批判的に見る上で重要な役割を果たす
・韓流の経験はすべてのモデル(上記変数の組み合わせ)で資本主義の導入に賛成する傾向を増加させる。若者である方がこの傾向が強い。女性よりも男性に強い
・韓流の経験が政治的な理由から脱北する確率を増加させる一方で、他の変数との相互作用を通じてその効果は変わる。年齢が高い方と、非公式所得の水準が高まるほど脱北する確率が高まる
・韓流文化に接触するほど自由体制に対する憧れから脱北する確率が高くなる。この傾向は若者ほど強い。女性は男性に比べ自由体制に対する憧れから脱北する確率が低いが、韓流文化に頻繁に接する場合にむしろ女性の脱北の確率が高くなる。→脱北を決心するにあたり韓流との接触の効果が男性よりも女性に大きい
一方で、番組に登場する、朝鮮に外部の文化を送り込む活動を行うる脱北民出身の人権運動家もまた、その目的について「北韓の住民にだまされていることを知らせ、金氏政権が悪いということを知らせることが、自由民主主義体制による平和統一を行うことの助けとなる」と述べています。
番組には、2017年、2023年にそれぞれ脱北した若者が登場し、朝鮮社会で韓流文化が流行る上で、スマホが果たした役割も強調しました。
KBSによると、昨年末の段階で朝鮮には785万回線の携帯電話が登録されているそうです。
マイクロSDカードを通じデータをスマホ本体に移すのですが、当局はこれに対抗するため「動画認証制」を導入しています。
これは、当局があらかじめ登録し認証したものでないファイルを再生しようとする場合、「申し訳ありませんが、この動画を再生できません」という警告と共に、ファイルが自動的に削除されるシステムです。
番組では2023年度に生産された朝鮮のスマホの実機をもって、実際に検証していました。番組の白眉のひとつでした。

検証の場面。「申し訳ありませんが、この動画を再生できません」と表示されています。スマホには他にも「オッパ(女性が使うお兄さんを指す呼称)」が入力できないなど、韓国式の文化を遮断する機能が搭載されていました。同番組をキャプチャ。
こうした統制について、番組に登場する米国の専門家は、朝鮮当局が「(住民による)スマホの使用が統制からはみ出さないよう、何重もの保安・検閲装置を備えている」と診断します。
その上で、「現在では北韓当局がスマホの生態系を継続して統制できると、相当に自信を持っている」と見立てています。
番組には「109常務」で活動し、その後脱北した人物も登場していました。
この人物は、外国の文化に触れたり広めた人物を取り締まってきたのですが、「かわいそうな人々が生活のためにやったことなのに、(それを取り締まることで)私が罪を犯したと考えている」と、韓国の教会で懺悔していました。取り締まりと捜査の過程で、暴力を振るってきたというのです。
先の米国の専門家は朝鮮の監視社会の特徴を、「デジタルの監視と人的な監視が共存している点」にあるとします。
「既存の人的な監視網はそのまま残っている上に、デジタルとCCTV(監視カメラ)での監視が加わることになる」と、朝鮮社会の未来を「暗鬱で、より抑圧的に変化する可能性がある」と評します。
極め付けは、10か月前まで平壌市民だったという人物の証言です。
2025年9月まで平壌で暮らしていたことになるこの男性は、朝鮮と中国の統制の厳しさを「鴨緑江はネズミ一匹も越えられない。完全に監獄だ」と表現します。
3日間、脱北経路を探すも見つからず、情報機関の保衛部(国家保衛省、現在は国家情報局)に捕まり、教化所(刑務所)に一年間収監されていたそうです。
そしてそこで、韓流文化に触れた罪で収監されている人々にたくさん会ったと言います。
15歳、16歳の子供たちが、学校でUSBを通じファイルを交換し、ファイルを持ち歩いていたことで収監されていたそうです。以前はワイロが通じましたが、今は「全員が死ぬ(捕まる)」と述べていました。
この人物によると、朝鮮では「韓国が北韓に『映画を観るように』とUSBメモリを送るのではなく、『私たち同士で争って死ねと』と送るのだと言っている」と証言しています。これはいかにも当局が流しそうな噂ではありますが。
また、「子供たちは好奇心から見るのだが、USBメモリはダイナマイトより危険だ。見つかれば、出所はどこで、誰に貸したのか調査され、監獄で死ぬこともある」とも語っています。韓流や海外文化が置かれた状況が分かる言葉です。

番組では、朝鮮で宣伝工作を担当していた脱北民が描く「再現画」が何枚か引用されています。「ダイナマイトより危険」とする場面でも挿入されていました。番組をキャプチャ。
番組ではさらに、朝鮮戦争時代から南北間で続く、ビラ散布の応酬の歴史にも触れます。
これは「体制競争で勝った方が統一を成し遂げる」という前提から来ているとし、体制競争で勝ったと自信を持つ韓国は、過去30年間、この認識を元に朝鮮への圧力をかけ続けてきたと整理しています。
そうすることで、「啓蒙された住民が立ち上がり、体制が崩壊する」という望みです。
その上で「しかしその期待は叶わなかったようだ」と総括しています。「朝鮮の監視体制の前に、情報流入の威力は無力化されつつある」というのです。
さらに、23年12月以降、朝鮮が行う「敵対的二国家戦略」についても「統一志向という長きにわたった前提の廃棄は、21世紀にも体制の統制が可能だとする自信感の表れだ」と結論付けます。
番組で見てきたような情報統制システムの構築が、これを支えている訳です。番組に出てくる専門家の金聖敬(キム・ソンギョン)西江大学教授は、従来の情報流入のやり方が「破片的で、倫理的にも考え直す部分がある」と指摘します。朝鮮の住民を危険にさらしているという視点です。
金教授は「それよりも人と人が接点をどう持つかを考えるべきだ」とし、そのきっかけを南北の国家間関係に求めます。互いを認め、人的交流が再開すれば、その先に何かが見えるという主張です。
↑番組のリンクです。YouTubeで全編みられます。
番組はここで終わります。いかがでしょうか。
南北の平和共存を目指す李在明政権下で、「結論ありき」で作られた番組であるのは明白ですが、「情報流入が朝鮮の住民を危険にさらす」という視点が正面から扱われたのは、初めてのことではないでしょうか。
私は今すぐ結論を下すことではないと考えています。しかし、こうした視点があるという点を押さえておく必要があるでしょう。
2. 今日の時事韓国語「근본이즘」
「クンボニジュム」と読みます。日本語にすると「根本イズム」となります。7月12日の地上波MBCニュースを通じ、はじめて聞いた言葉でした。
これによると、「YouTube」や「ショート動画」などでハイライトだけを摂取する世相に反し、じっくりとコンテンツに向き合い、起承転結を味わうことを指すようです。

英語の方が分かりやすいですね。「ファンダメンタリズム」となります。「速く変わるトレンドとデジタル過剰に対する疲労感から、代わりとなるものが無い、原形・伝統・本質を追求する消費・文化現象を指す新造語」とMBCの該当ニュースでは解説しています。
例えば現在、韓国で上演される演劇のうちチケット売り上げ1位が「ヴェニスの商人」であるといった形や、韓国最大の書店・教保(キョボ)文庫で「古典小説・文学選」の売り上げが昨年よりも49.8%伸び、やはりネット書店大手の「yes24」で世界文学全集の売り上げが47.3%増となっている点などの現象を指すようです。
面白いものですね。私も以前、コロナになった際にはじめてショート動画というものを知り、はまったことがあります。「これでは本が書けなくなる」と思いやめましたが、地下鉄などで見ると、今もたくさんの人が見ていますよね。
「クンボニジュム」、流行らせましょう。
今日はここまでです。23時45分になってしまいました。一本目の内容は重要なもので、議論してみる価値がある話です。
こうした話を幾人もの専門家が活動家にしてもらい、議論を深めていくようなことを、新生「コリア・フォーカス」でやりたいのです。
しかしクラウドファンディングが低調であることを今では認めざるを得ません。あと18日間でどれほど支援が増えるかは分かりませんが、応援と拡散をお願いいたします。
それではまた明日。くれぐれも暑さにお気をつけください。
アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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