【デイリー・コリア・フォーカス】26年1月14日号
皆さまアンニョンハセヨ。韓国から徐台教です。
降り積もった雪がカチコチに凍りスリリングですが、昨日は特別にニュースが多い日で、これまた綱渡りのような一日でした。
「デイリー・コリア・フォーカス」1月14日号をお届けします。今日は少なめの項目です。以下のようになります。
1. ‘内乱の頭目’尹錫悦氏に「死刑」求刑
2. 日韓首脳会談で咲いた「後代への贈り物」
3. 今日の時事韓国語「짤」
1. ‘内乱の頭目’尹錫悦氏に「死刑」求刑
昨年1月26日に始まった、尹錫悦前大統領(当時は職務停止中の現職大統領でした)の「内乱の頭目(首魁)」嫌疑を問う裁判。
昨日13日、ついに結審しました。特別検察の求刑は「死刑」。
その根拠は、検察が配布した25ページの論告文に整理されています。
検察はこの資料の冒頭で「尹錫悦と金龍顕(キム・ヨンヒョン)などが、自身らの権力欲のために非常戒厳を手段として、立法権と司法権を簒奪し長期集権する目的」であったと、24年12月の非常戒厳を定義しました。
そしてこれは「憲法の守護および国民の自由の増進に対する責務を打ち捨て、国家の安全と国民の生存および自由を直接的かつ本質的に侵害したもの」とみることができるとしました。
さらに、これこそが国家保安法が律する対象とする「反国家活動の性格を持つと評価するのが相当」と断じました。
非常戒厳を画策し実行した尹錫悦とその一党(傍観することで結果として同調した人物を含む)こそが、反国家勢力であるということです。
どういうことでしょうか。
国家保安法というのは、1948年の8月と9月の南北両政府樹立後の48年12月に制定された法律です。
朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)と宿命的に対峙する韓国において、国家の安全を脅かす反国家活動を取り締まるものです。
大日本帝国の治安維持法に通じ、個人の思想までを処罰の対象とすることから、「天下の悪法」と評価されもします。2026年の今なお存在しており、悪い意味で韓国を韓国たらしめている法律です。
尹錫悦氏は24年12月3日に非常戒厳を宣布する際にこう述べています。
「親愛なる国民の皆さん、私は北韓(編注:朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮)共産勢力の脅威から自由大韓民国を守り、韓国国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に剔抉(訳注:撲滅)し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布します」
ここでの従北反国家勢力とは、共に民主党のことです。
つまり、尹錫悦氏は当時、非常戒厳の名を借り、政敵を除去しようとしたのです。これが「権力欲」という言葉の背景です。
ですが検察は今回、尹錫悦一党こそが反国家勢力であると逆に指摘したことになります。華麗な「ブーメラン」といってよいでしょう。
この裁判の争点は「内乱罪」が成立し、尹錫悦がその頂点にいるのかという部分です。
韓国の刑法87条で内乱は「国の領土の全部または一部で、国家権力を排除または国権を紊乱にする目的で暴動を起こすこと」と定義されています。
国権の紊乱というのは難しい表現ですが、「憲法または法律に定めた手続きによらず、憲法または法律の機能を消滅させること」を意味します。
これを尹錫悦氏とその一党の行動に当てはめる場合、▲動機および事前の謀議、▲違法性への充分な認識、▲違憲・違法な布告令の発令、▲軍警を動員した国会と中央選管の封鎖と統制、▲主要政治家を逮捕しようとした、▲主要メディアの断水・断電および共に民主党党舎の封鎖、といった点で成立するとしています。
さらに、量刑を決める根拠としては、▲共同体の存立を脅かす内乱犯罪の重要性、▲1980年以降(全斗煥の軍事クーデターを指す)、再現された憲政の破壊、▲政治的中立および国民に対する忠誠義務のある軍警の動員、▲国民の葛藤および国論の分裂(を招いた)、▲大韓民国の経済状況の悪化および国家信認度の墜落、▲再発防止の必要性、▲厳正な刑罰の必要性および量刑に対する判断、といった7つの点を挙げています。
その上で、尹錫悦個人に対しては、非常戒厳の事前・最中・事後のいずれでも減刑する余地がないと、その間の態度などを根拠に述べ、最高刑である死刑を宣告すべきとしました。
特に「全斗煥・盧泰愚という勢力断罪の歴史があるにもかかわらず内乱を画策した被告人(尹錫悦)をはじめとする公職エリートの行動を通じ、国民は悲劇的な歴史が繰り返されないよう、全斗煥・盧泰愚勢力に対する断罪よりも厳正な断罪が必要であると実感した」と、尹錫悦をはじめとする戒厳勢力に厳罰をもって当たり、再発可能性を徹底的に潰すことを強調しています。
なお「内乱の頭目(首魁)」への刑罰は無期刑(無期禁固または懲役)もしくは死刑しかありません。そして韓国は1998年以降、一度も死刑執行を行っていない「実質的死刑廃止国」です。
では尹錫悦氏への「死刑」をどう受け止めればよいのでしょうか。論告文の最後にはこうあります。
「大韓民国の刑事司法における‘死刑’は、執行し死刑に処すという意味ではなく、共同体が裁判を通じ、犯罪に対応する意志と、それに対する信頼を具現することとして機能しているのです。
被告人(尹錫悦)は反省しません。量刑を参酌する事由がなく、むしろ重い刑を定めなければなりません。したがって法定刑の中で最低刑をもって刑を定めることはふさわしくありません。法定刑の中で最低刑でない刑は‘死刑’の他にありません。
これにより、被告人に死刑を宣告してくれるよう望みます」
象徴としての死刑、とでもいいましょうか。
この日、金龍顕前国防長官への無期懲役はじめ、他の6人にも懲役10年から30年という重罪が求刑されました。
前出の論告文にはこんな内容もあります。
「非常戒厳に先駆けて召集され、宣布時まで長時間待機していた国務委員(閣僚)や大統領室の幹部の誰か一人でも、携帯電話のメッセージなどで『非常戒厳が宣布される予定だ』と外部に知らせたならば、あの日の非常戒厳は現実的に実行されなかった」
あの日、地位に見合った行動を誰一人取らず、非常戒厳に協力したことが、罪として見なされているということです。
判決は2月19日に言い渡されます。死刑のままでしょう。
2. 日韓首脳会談で咲いた「後代への贈り物」
もはや息切れ気味ですが、日韓首脳会談についてです。
日本メディアや韓国メディアの日本語報道が溢れていると思うので、私からは要点だけを。
最大の成果は、長生炭鉱から発掘された遺骨への共同DNA調査となるでしょう。
昨日お送りした内容にあったように、尹錫悦政権下で元徴用工裁判の第三者弁済を行い、日本企業が被害者に支払うべき賠償金を肩代わりしたことで、日韓関係は劇的に改善しました。
その流れに李在明大統領も便乗したことに加え、安倍晋三氏の「日本の謝罪は終わった」歴史観を引きずる高市首相であることから、歴史問題が語られることは難しいとみられていました。
とはいえ、首脳会談前から長生炭鉱の話は出ていたので、それ自体はサプライズではないのですが、結果として共同会見で日韓両首脳の口から歴史問題への言及があったというのは、ドラムを叩くだけでない日韓関係があることを、今一度知らしめたと言えるでしょう。
日本の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の長年の尽力とそれを支えた日本の市民をはじめ、日韓の市民団体の協力が成し遂げた大きな成果です。
「頑張れば政府を動かすことができる」という大きな成功体験になりました。
さらに戦後81年を迎える中で、今一度あの植民地時代について考えることができるという見地から、後世への大きな、大きな贈り物にもなったと思います。
その間、活動されてきた方々に、心からの敬意を表します。
もう一つ、共同記者会見のポイントは「北東アジア地域の韓中日3国が最大限共通点を見いだし、ともにコミュニケーションを図り協力していく必要があることも強調した」という李在明氏の発言でした。
以前、拙著『分断八〇年』にも似たようなことを書きましたが、日本と韓国における1945年以降の現代史には「南北分断を抱えているのかいないのか、それによる死者がいるのかいないのか」といった大きな違いがあります。
李在明政権は「経済」をその仕事の評価の尺度とするよう大統領みずから公言していますが、もう一つの評価軸は朝鮮半島問題、南北対立の問題をどう解決するかにあります。
そしてその際、日本よりも中国がキーになるのは自明のことで、簡単に「日本か中国か、米国か中国か」とはいかないのです。米国はまた、米韓同盟という韓国の拠り所でもあります。
先の発言からはそんな韓国の立ち位置が読み取れました。やはり南北関係まで見てこそ、韓国を正確に理解できるのです。
これに関し次項に続きます…と思ったのですが、既に3500文字もあるので、次回に回します。
南北関係に関する『ハンギョレ』のスクープ記事を扱う予定でした。焦っても仕方がないので、また明日。
3. 今日の時事韓国語「짤」
チャル、と読みます。その由来を説明すると長いのですが、日本語では「ミーム」と置き換えればよさそうです。
インターネット上で流通する、誰が見ても面白いイメージや、笑える動画などですが、ワンカットもしくは短いものとなります。
今回の李在明訪日でも、伝説の「チャル」が生まれました。これです。
字幕には「尹錫悦、死刑求刑の瞬間に笑い…傍聴席は騒乱」
日韓首脳がドラムセッションをしたという(どうでもいい)ニュースの写真と、尹錫悦氏への死刑求刑の速報が重ねたものです。本当なのかどうなのか調べる気が起きないのですが、急速に拡散しています。
なぜドラムセッションのニュースがどうでもいいかと言うと、韓国では尹錫悦氏への死刑判決が出る場合、これに反発する極右層が15%程度と少なからずいるためです。少しでも極右の勢いを弱める必要がある中、「はしゃいでいる」印象を与えるイメージは出すべきでなかったと思うからです。
この「ネットでシェアされれば(うければ)よい」という「ネット映え」政治は、日本でも韓国でも隆盛を極めておりますが、非常に問題です。
今日は以上です。
じっくりと記事も書きたいですが、できる範囲でやります。
それではまた明日。アンニョンヒケセヨ。(徐台教)
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