[55号] 危険な「ゴミ風船」と「拡声器」の応酬、カマラ・ハリス当選時の朝鮮半島の行方、強まる日米韓の軍事的つながり など

今号は朝鮮半島情勢についてとなります。
徐台教(ソ・テギョ) 2024.07.24
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 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。韓国の徐台教です。

 前回の更新から間が空いてしまいました。ご迷惑をおかけしております。至って元気にやっているのですが、押している仕事が多く、なかなかままならない状況です。

 しかしお読みいただけると分かるように、朝鮮半島情勢は風雲急を告げています。なんとか乗り越えていきたいものです。

◎23年の北朝鮮貿易統計

 まずは軽い話題からいきます。

 21日にKOTRA(コトラ、大韓貿易投資振興公社)が『2023北朝鮮の対外貿易の動向』を発表しました。130ページにわたる報告書で、まだ全てに目を通せていないのですが、重要な内容は以下のように整理できます。

・全体の貿易額は27.7億ドル(約4300億円)。前年比74.6%増
・輸入は24.4億ドル(約3800億円、前年比71.3%増)、輸出は3.3億ドル(約500億円、前年比104.5%増)
・貿易収支は21.2億ドル(約3300億円)の赤字。前年比67.1%増
・輸出における最大の品目は「靴・帽子」で、全体における占有率は51.6%(1.7億ドル、約260億円)。前年度の輸出品目のうち最大の占有率だった鉱物性生産品は17.7%(5575万ドル、約86億円)
・輸入における最大の品目は鉱物性生産品で、全体の18.5%(4.5億ドル、約700億円)を占めた。2位は繊維製品が15.2%(約3.7億ドル、約570億円)だった。
・対中貿易が全体の貿易額の98.3%を占めており、依存が深刻。歴代最高値の96.7%(22年)を上回った。
・貿易額2位はベトナム、3位はインド。以下はモザンビーク、オーストリア、アンゴラ、タンザニア、ナイジェリア、アルゼンチン、オランダの順。

 KOTRA側は「新型コロナ以前の規模を回復した」と総評しています。報告書に目を通した後で、続報をお伝えします。

報告書の表紙。じっくり読むべきものです。

報告書の表紙。じっくり読むべきものです。

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◎続くゴミ風船と拡声器の争い、高まる危機感

 北朝鮮が18日と21日に「ゴミ風船(もはや汚物は入っていないのでこの呼び方に変えます。中身は紙くずです)」を飛ばしました。今年に入って9回目です。

 これに先立つ14日と16日、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長は声明を出し、韓国からのビラが北朝鮮に飛来していることを指摘しました。

 特に16日の談話では「これ以上、見守るだけにはいかない状況がきている。もう一度厳重に警告する。悲惨で驚くべき代価を覚悟すべき」と強い論調で韓国政府を脅しています。

 その上で「私たちの対応方式の変化」を警告しました。

21日に京畿道(キョンギド)坡州(パジュ)市に落ちた北朝鮮のゴミ風船。韓国国防部提供。

21日に京畿道(キョンギド)坡州(パジュ)市に落ちた北朝鮮のゴミ風船。韓国国防部提供。

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 これに対抗し、韓国政府は18日から軍事境界線のほぼ全域にわたって拡声器放送を実施しました。西部・中部・東部と順に行ったようで、国防部はこれを「リレー方式」と名付けています。この方式は19日まで続けられました。

 21日にも風船飛来が続くや、さらに方法をエスカレートさせます。同日午後1時からは、軍事境界線の全域に設置してある24の固定式拡声器すべてを稼働させ、午前6時から午後10時まで北朝鮮向けに放送を行ったとのことです。

 内容は本ニュースレターで後述する在キューバ北朝鮮大使館参事で、昨年11月に韓国入りしたリ・チョルギュさんの消息をはじめとする、北朝鮮の体制批判が多くを占めています。

 6月から本格化している、軍事境界線の北側での地雷埋設に勤しむ北朝鮮兵士に対する「地獄のような奴隷の生活から脱出せよ」という呼びかけも含まれていたとそうです。

 なお、新たに数十万発の地雷が埋められたと言います。南北軍事境界線付近は、世界最大の地雷原ですが、さらに悪い方向にパワーアップしています。

 韓国の全面的な拡声器放送実施により、北朝鮮からのゴミ風船飛来が一度は止んだものの、23日にふたたび実施されています。24日にはソウル龍山(ヨンサン)区の大統領府敷地内に風船が落下した事が明らかになっています。

 5月末にはじめて「汚物風船」が飛来した際には大騒ぎになったものですが、もはや韓国でもあまり驚きをもって受け止められなくなったゴミ風船。

 しかし、その緊張の水位が徐々に高まっていることを忘れてはなりません。拡声器放送も絶え間なく行われ、ゴミ風船の飛来も続いています。これこそが私が何度も指摘してきた「紛争の常態化」です。

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