[54号] 大注目・米韓の新「核指針」、朝中はギクシャク?、統一研究院レポート解析 など

今号は朝鮮半島情勢・南北関係に関する内容をお届けします。
徐台教(ソ・テギョ) 2024.07.13
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 韓国国内そして朝鮮半島情勢は「하루도 조용할 날이 없다(一日たりも静かな日がない)」という韓国語の慣用句がピッタリです。表向き派手な動きはないのですが、南北双方ともに着々と自国の生存のための陣営構築を進めています。

◎尹錫悦大統領がNATO首脳会議に出席

 9日から11日までワシントンで行われたNATO首脳会議。

 韓国も日本、豪州、ニュージーランドと共に、NATOのインド・太平洋4か国パートナー(IP4)の一員として参加しました。尹大統領としては22年6月のスペイン・マドリード、23年7月のリトアニア・ビリニュスに続き3度目となる同会議への出席です。

 過去のニュースレターで触れてきたように、尹大統領とそのブレーンたちは透徹した「陣営観」を持つことで知られています。韓国はまず同盟国である米国と完全に歩調を合わせ、他に日本、そしてNATOの側に立つというもので、外交もこの「価値」に沿った形で行われています。

 こんな陣営観の一端は、出発直前の8日に英通信社『ロイター』と行った書面インタビューにも表れています。

 同通信によると尹大統領は「ロシアが将来的に韓国とどのような関係を築きたいかは『完全に』ロシア次第だ」と述べ、「ロシアと平壌間の新たな軍事協定の成果次第で、ウクライナへの武器支援について韓国は決定するだろう」と明かしたそうです。

ロイターの記事。筆者がキャプチャしたもの。

ロイターの記事。筆者がキャプチャしたもの。

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 この発言は、ロシアに対し韓国か朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)のどちらかを選ぶよう選択を迫るものと受け止められ、韓国の進歩派メディアを中心に批判の声が上がりました。

 一例を挙げると進歩紙『ハンギョレ』では社説を通じ、「韓国の損が大きい」という論理を展開しました。

 今年6月に朝露間で締結された「包括的戦略パートナーシップ条約」を取り上げながら、「ウクライナへの武器供給は韓国が独自に決めることができないグローバルな案件になった」と指摘しました。

 その上で、ウクライナ戦線に韓国が武器を提供したところで戦況を変えることはできないとしつつ「これに比べ、ロシアが北朝鮮に最先端の軍事技術を提供する際に韓国が受ける被害は想像を絶する」としています。

 社説の最後では、11月の米大統領選によりウクライナ情勢もどうなるか分からないとしながら「今は冷静に情勢を見守る時」と結んでいます。

 いつものハンギョレの論調ですが、ウクライナを突き放すドライな印象も受けます。まずは朝鮮半島の平和という、韓国進歩派の認識を反映したものと言えるでしょう。

 なお、先の尹大統領の書面インタビューでの見解に対し8日、ロシア政府は「全く同意しない」としながら「北朝鮮と韓国に双方、域内のすべての国家と良い関係を構築することを支持する」と述べています。

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 NATOの話は後でするとして、もう少し脱線してみましょう。

 尹大統領は出発前の4日に、最強硬派の保守団体『自由総連盟』の設立70周年大会に出席した際の演説で、敵味方をくっきりと分ける強硬な世界観を改めて世間に知らしめています。

 自由総連盟とは1954年に『アジア民族反共連盟』として始まった団体です。

 1987年の民主化を経て現在の名前に変わり、目的も「自由民主主義の守護と発展」とややマイルドになったものの、その由来の通り、韓国の民間団体の中で最も強い保守・反共思想を持っている団体です。

 全国に支部を置き、会員は自称数300万人で(活動しているのはその十分の一程度でしょう)、政府は毎年、国庫から運営日を支援しています。23年には約15億円でした。

 尹大統領は演説で「北朝鮮は世界で最も暗く貧しい、地球上最後の凍土として残っている」という定番のフレーズを述べると同時に、人権問題、核・ミサイル問題、ゴミ風船、ロシアとの条約などに言及し、北朝鮮と対置する価値としての「自由」を強調しました。

 驚くことに、今年から『ジュニア自由総連盟』が発足しています。

 これは10代から30代を対象とするもので、会の高齢化を理由に組織されました。国家予算を投入し若者世代に反共教育を行うもので、義務教育過程で反共教育をしていた40年前に戻ったような錯覚に陥ります。

韓国自由総連盟のHP。

韓国自由総連盟のHP。

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 NATO首脳会談に戻ります。

 尹大統領はワシントンでバイデン大統領や岸田首相など各国首脳と会談しました。11日(現地時間)のバイデン大統領との会談では新たに『米韓の韓半島における核抑止・核作戦指針(以下、指針)』が承認されました。

これは危機および有事の際に米軍の核をどう活用するのかというガイドラインのことで、昨年以来3度にわたって米韓の間で協議を進めてきたNCG(核協議グループ)の一つの「成果」と位置づけられるものです。非常に大切な文書です

 特徴としては「米韓一体型の拡大抑止」を目指すことを改めて明確にするもので、これに関する具体的な手続き、訓練などを引き続き進めていくとしています。

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