[59号] 止まない韓国の『親日』論争、韓国政治の「復元」は可能か、‘人権’or‘世界化’?南北関係の未来 など
サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。8月も最終日となりました。
今号は韓国社会の概観をお伝えする内容にします。週2回の発行や、書評や映画評(読んだり観たりはけっこうしています)が追いつかず、サポートメンバーの皆さんに心苦しい日々が続いています。本という大きな宿題も残ったままで、最近では携帯の待ち受け画面がこの画像になっています。
これはモロッコ生まれの彫刻家ブルーノ・カタラーノ(Bruno Catalano)さんの『旅人(Les Voyageurs)』という作品です。心に穴がぽっかり空いた旅人の心境を表現しているものだと思うのですが、はじめて見たときに故郷喪失者として共感を覚えました。
しかし今はなんというか、心の中の宿題を無いものにして生きている心境を表した作品として迫ってきます。
さて、本題に入ります。今回の目次は以下の通りです。
(1)止まらない韓国の『親日』論争
(2)韓国政治の「復元」は可能か~金富謙元総理が正解復帰
(3)「人権」か「世界化」か、南北関係の今後
(4)YouTube『徐台教の韓国通信』補足
(1)止まらない韓国の『親日』論争
前回のニュースレターで、国家安保室の金泰孝(キム・テヒョ)第一次長の一件をお伝えしました。
『光復節』翌日の16日、金氏が韓国KBSに出演した際、尹大統領が演説で日本について言及しなかった点を聞かれ「重要なのは日本の気持ちです。心がない人をせっついて無理に謝罪を受け取るとき、いったいそれが誠のものなのか」と答えたことです。
この発言は韓国語で「중일마(チュンイルマ)」と茶化されました。
「重要なのは日本のマウム(こころ)」という言葉の頭文字を取ったもので、一種の政治風刺・パロディです。発足以来、日本に対し譲歩を重ねると写る尹政権の性質をひと言で表すものとして、野党支持者を中心に広まっています。
次項でもお伝えするように、与野党は現在、様々な議題で衝突し韓国政治はひどい停滞状況にあります。その一極を「親日論争」が担っていることは確かです。ざっと箇条書きにしてみます。
・独島模型撤去:独立記念館(天安市)や、ソウルの地下鉄駅(安国アングク、蚕室チャムシル、光化門クァンファムン)などに設置されていた独島(日本名・竹島)の模型が撤去されました。いずれも「老朽化のため」とし、新たなものを作るとしていますが、最大野党・共に民主党はこれに対し「独島を消そうとしている」と反発し、全国で類似した事例がないか「真相調査」に乗り出しました。
また、従来は上半期と下半期に一回ずつ行われてきた韓国軍による独島防衛訓練が、今年は8月になってようやく一回目が行われ、その規模が小さい上に、非公開であった点を公営放送MBCが指摘しました。同社は過去にニュースレターでもお伝えしてきた通り、尹政権と正面からのぶつかり合いを続けています。
・『国軍の日』を公休日に:韓国政府は『国軍の日』を臨時公休日にするか検討に入ったと明かし、これは実現する見通しです。国軍の日とは、朝鮮戦争のさ中の1950年10月1日に韓国軍がはじめて38度線を越え朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の地に進撃した日を記念して定められたものです。
共に民主党のある議員はこれに対し「10月1日は朝鮮総督府が設置された日である」と、尹政権の真意を疑っています。大統領室は「なぜ日本が思い浮かぶのか」と反論しました。なお、1976年から90年まで『国軍の日』は実際に公休日でした。
・日帝強占期の国籍はどこか:雇用労働部長官候補、金文洙(キム・ムンス)の人事聴聞会で起きた出来事です。この制度は各部長官など政府高官候補となった人物の適正を国会が公の場でチェックするものです。
1951年生まれの金文洙氏は70年代から労働運動をはじめ、1980年代には韓国屈指の労働運動家として名を馳せましたが、保守政党から政界入りした後は次第に保守色を強めており、今や極右に分類される人物です。様々な立場を調整する同部長官が務まる人材ではありません。
問題となったのは、人事聴聞会の席で野党議員が「植民地時代の韓国人の国籍はどこか」と聞いた際に、金氏が「日本に決まっている」と答えたことです。野党は不適格とし、大統領秘書室長も「不適切な発言だった」と評価しましたが、尹大統領は任命を強行しました。
8月30日、尹大統領(左)は金文洙氏を雇用労働部長官に任命した。大統領室提供。
韓国語で「일파만파(一波万波、イルパマンパ)」という言葉があります。一つの波が万の波を引き起こすという意味ですが、この場合は尹政権に対する「親日、チュンイルマ」疑惑が、政権のあらゆる動きを親日と規定するフィルターの役割を果たしています。
もう少し具体的に見てみましょう。
「独島模型」の件は、23年に韓国軍を対象とする国防部の教材の中で、独島を「紛争地域」とした一件が背景となっています。
指摘があり国防部はこれをすぐに撤回しましたが、23年3月の徴用工裁判における「第三者弁済(被告日本企業が韓国人原告に支払うべき賠償金を韓国政府傘下の財団が肩代わりした)」と並び、尹政権の弱腰の代名詞のような事件として扱われています。
独島模型を同じ時期に片付ける理由がどこにあるのかは分かりません。
私としてはソウル地下鉄5号線光化門(クァンファムン)駅にある「独島展示室」が撤去されたらこの動きは「ホンモノだな」と判断できると思います。地下通路が交わるスペースに設置された、独島の歴史を網羅する本格的な展示です。
管理しているのは政府傘下の『東北亜歴史財団』です。そういえばこの財団の理事長も「ニューライト」人士に変わりました。どうなるでしょうか。