[47号 J-10] 韓国政治特集「総選挙その後とチェ上兵事件」、コラム「4月の総選挙報道を終えて」など
サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。ゴールデンウィークでしたね。韓国も4〜6日まで3連休でしたが、5日の子どもの日は全国的に豪雨でした。ニュースでは「子どもの日は雨の場合が多い」と面白い(?)ことを言っていました。
私も家で子どもと過ごしながら、空いた時間にニュースレターを少しずつ書いていました。
ジャーナル形式、まだ完全に再開とまではいきません。
泣き言のようになってしまいますが、今の時点で最も大事な仕事である本の執筆の最終段階が後回しになってしまっており、完成するまではこれをやらなければなりません。
本のことを考えると本当に色々な焦燥感で倒れそう(肉体的には元気です)ですが、もう一踏ん張りです。不完全なニュースレターではありますが、長い目でもう少しお付き合いください。
今号の目次は以下の通りになります。
・コラム:4月の総選挙報道を終えて
・雑感:YouTube開始から半年
・韓国政治:争点はとにかく「チェ上兵事件」
・あとがきに代えて:ついに尹大統領の記者会見
◎コラム:4月の総選挙報道を終えて
五輪の年には韓国の総選挙がある。日本と異なり4年に一度、決まった時期に行われ、300人すべての議員が入れ替わる国政選挙という名にふさわしい大イベントだ。今年は4月10日投開票で、既報の通り192対108と野党大勝利に終わった。
だが選挙をひと月前に控えた3月中旬頃から、私の心には失望が鎮座していた。野党有利→与党有利→野党有利と情勢が変わる中で、世間やメディアの目は競馬のような勝敗予想に収斂されていったためだ。
こうなると、私が選挙に抱く希望や理想――韓国社会が抱えるたくさんの問題を政治がどう解決していけるのか――は出る幕がなくなる。
ある専門家は「選挙を通じ地方消滅、少子高齢化、気候変動が社会の共通の問題であるという認識ができた」と語っていたが、「どう」は最後まで見えないままだった。
もちろん、この専門家が指摘したように、議席数の約85%という254の小選挙区が選挙の中心となる総選挙の性質上、地域密着型の公約・政策が全面に出てくるほかにない事情は分かる。
一方で、それでは社会問題と政治の関わりを論じる機会が5年に一度の大統領選挙しかないのかという疑問もまた湧き起こってくる。
その上「どちらが勝つか」で一番盛り上がるのが大統領選挙であることを考えると、クラクラしてしまった。いったいいつ、韓国社会の行く末について話し合う機会が訪れるのか。
韓国で頻繁に使われる「各自図生」という四字熟語の通り、結局は自力で生き抜くしかないのではないか。政治はもはや希望たり得ないのではないかとまで思ってしまった。
総選挙当日の投票後に地元投票所の前でパシャリ。なぜファイティングポーズなのかは分かりません。
それでも67%という低くない投票率から、そしてたくさんの取材過程を通じ韓国の有権者の熱をじゅうぶんに感じた。
特に、投票日の取材で出会ったソウル市内でカフェを経営するという35歳男性は印象的だった。
国民の力、共に民主党、正義党と3党の候補が出馬していた地域だった。投票所から出てきた彼は「投票したい人がいなかった」と言うので、若者にありがちな政治不信なのかと勝手に思い込んだら、そうではなく、文字通り「若者のニーズに応えられる政治家がいない」という話だった。
さらにこの男性は「私たちの世代は、セウォル号と弾劾があったから政治に背を向けることはない」と言い切ったのだが、この言葉を聞けたことで選挙取材が報われた気がした。
セウォル号というのは14年4月16日に旅客船が沈没し修学旅行中の高校生250人を含む304人が亡くなった事件で、弾劾というのは17年3月の朴槿惠(パク・クネ)大統領弾劾のことだ。16年末から17年初頭にかけて100万人規模のデモが続いた。
しっかり見ている市民はいる。
とはいえ、今回の野党大勝を受けてもなお社会が良くならないのならば、いよいよ他の先進国で起きているような政治不信や極端なポピュリズム政党の登場といった現象が起きるのではないか。そんな瀬戸際に来ている気がする。
ここまでが選挙の振り返りだ。しかし本音はこれとは別のところにある。ずばり、一連の総選挙報道が終わりひと月近く経った今も「私は前に進んでいるのか」という悩みが尽きないのだ。
20年4月の前回総選挙を振り返ってみる。選挙について書いた記事が少なからず読まれ、当日には全国ラジオで解説したりもしたが、今回もまた同じことを繰り返していた。
確かに、4年前より日本社会への露出は増え、私の声に耳を傾けてくれる方も格段に増えたと実感している。しっかりと変化を見据えながら隣国の動きを解説できる存在が必要であることは自覚している。
一方で、仕事のやり方が変わらないことに焦りを感じているのもまた事実である。特に南北関係の寄与という点では何もできていないこともこの焦りに関連しているだろう。後輩も育てられていない。
一連の選挙取材を行う中で、次の総選挙までには別のやり方を確立すべきという思いが頭を離れなかった。まずは本、そして次にニュースレターをその土台にしていきたいものだ。
◎雑感:YouTube開始から半年
ニュースレター読者の中にはご存知の方も多いと思いますが、昨年11月からYouTubeで『徐台教の韓国通信』というものをやっております。
日本のリベラル系YouTubeチャンネルではおそらく最大の登録者(19.7万人)を持つ『デモクラシータイムス』さんのコーナーの一つとして、二週間に一度、韓国そして朝鮮半島の動きを説明しています。
きっかけは同じ在日コリアンで社会運動家の辛淑玉(シン・スゴ)さんの提案でした。当時、仕事に色々と行き詰まりを感じていたこともあり、ニュースレターと共に新機軸として始めることになりました。
それから約半年。辛淑玉さんの絶妙な司会もあり、番組は今も続いています。4月には韓国総選挙を現場からお伝えする生配信も行い、好評を博しました。