トランプ政権で朝鮮半島の何が変わるか、3つの視点と問われる韓国の‘意志’
(1)米韓同盟における変化
米韓同盟にとって「トランプ・リスク」とは、大きく二つに分けられる。一つ目は在韓米軍を中心とする米韓二国間における懸案であり、もう一つは東北アジア戦略の変更に関し生まれるものだ。
・在韓米軍駐留費という「トゲ」
韓国には現在、米第8軍(陸軍)、第7空軍を中心に約2万8500人の米軍が駐留している。韓国側が駐留費用の一部を負担する仕組みで、その額は現在約10億ドル(約1500億円)となっている。
トランプ氏はこの引上を求めてくるものとされるが、その際に頻繁に韓国メディアに引用されるのが、韓国を「マネー・マシーン(金を稼ぐ機械)」と評した10月の演説だ。同氏はこの時に「私がホワイトハウスにいる場合、韓国は年間100億ドルを出さねばならない」と豪語した。
10倍への引き上げというのは一般的には単なるホラ話だが、同氏は前回大統領を務めた19年に実際、韓国に50億ドルを要求したことがあるため、冗談とは受け取れない部分がある。当時は現場の努力により要求は回避された。
こうしたトランプ氏の動きを防ぐため、米韓は先月4日に防衛費分担金特別協定(SMA)交渉を前倒しし、26年からの5年間の防衛費分担金について、毎年約11億ドルの固定費に物価上昇率を付け足す条件で合意した。
これで安心かといえるのかというと、そうではないという。米国では防衛費協定は行政命令として扱われるため「大統領はこれを一方的に破棄することができる」(中央日報)という。
トランプ氏は防衛費分担金引き上げの他に、戦闘機や爆撃機さらには原子力潜水艦といった米軍の展開や、米韓連合訓練に対して追加の請求書を突きつけてくるだろうという予測がある。韓国が渋る際には「最強のカード」である在韓米軍の撤収をちらつかせる可能性もあるとされる。これらはトランプ氏の発言により裏付けされた見立てだ。
22年12月に成立した米国の「国防権限法」により、在韓米軍は2万8500人以下にならないように定められている。しかし上院・下院(下院はまだ確定せず)ともに共和党が過半数を占める場合、同法が変更される可能性もあると指摘もあった。
・バイデン政権下の「合意」の行方
あらゆる記事やレポートに共通して出てくるのが、トランプ政権の外交はバイデンの「価値外交」から米国の国益を第一とする「国益外交(一方的な外交とも)」へと変化するだろうという見立てだった。
こうした点を考える場合、バイデン政権の米国外交と歩調を完全に合わせてきた尹政権がその継続を望む場合、米韓同盟こそが米国の国益にかなうという点を持続的に訴えていく必要が生まれてくる。
その際に注目されるのが、いわゆる『ワシントン宣言』の行方だ。
23年4月の米韓首脳会談の際の宣言で「米韓がグローバル同盟へと成長し拡張された」とし、「米韓両国がインド-太平洋の平和と安定のために努力する」と明言されている。
さらに米韓間に『NCG(核協議グループ)』を新設し、核能力を際限なく高めている北朝鮮に対し、北朝鮮の核使用時には米軍の核使用を明確にすることをシステムとして定着させる努力が今も続けられている。
しかし同盟を「価値」ではなく、金銭関係のようなドライな感覚で捉えるトランプ氏によってこれが骨抜きにされる場合、外交的に「米国べったり」を続け、中国やロシアとの関係を疎かにしてきた尹錫悦政権が‘四面楚歌’になるという懸念がある。
とはいえ、韓国政府には北朝鮮の核の脅威から自国民を韓国を守る義務がある。これを継続させるために韓国はどうすべきか。
外に目を向ける場合、トランプ新政権が発足後に注力していく外交分野の課題としてロシア・ウクライナ戦争、イスラエルのガザ侵攻を中心とする中東紛争、そして中国への牽制があるとされる。この中で韓国が最も存在感を示せるのが中国に関する部分になるだろう。
韓国は「守られる存在」ではなく、中国との競争に役立つ存在であることを尹大統領は示すべきという結論になるが(アサン政策研究院)、これは言い換えれば中国に対する「先鋒」を担うことにもなりかねない。韓国がみずからをどう位置づけていくのかが今後の課題になるということだ(おそろしい話ではあるが)。
こうした点に関し今後、尹錫悦大統領がトランプ氏と信頼関係を作っていくことが肝要だという指摘が韓国メディアには多い。さらにその例として「安倍晋三を見習え」という言説が散見される。
これは16年11月の大統領選でトランプ氏が当選した直後、安倍首相(当時)がすぐ米国へと飛び金色のゴルフクラブをプレゼントし個人的な関係を深めたように、尹大統領もトランプ氏の懐に飛び込めということだ。「トランプは強い人物にはそれなりの対処をする」という文在寅政権時代の元高官の評価もあり、尹大統領の動きに注目が集まる。