[43号] 野党勝利で確定?勝敗を分ける要素は?韓国総選挙のあれこれ

本来はジャーナル形式での発行ですが、今回は韓国総選挙のお話しにいたします。
徐台教(ソ・テギョ) 2024.04.01
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 サポートメンバーの皆さま、アンニョンハセヨ。いよいよ2024年の第一四半期が終わりました。私は思っていたような仕事上の成果が出せずちょっと憂鬱になっていますが、なんとか四月に辻褄を合わせていきたいと思っています。皆さまの春が良いものになるよう願っております。

 韓国では今、「カチ」をあちこちで見かけます。カササギです。春を待ち焦がれていたかのように楽しそうに飛び回っています。自宅の庭にもやってきたので写真を撮りました。

カササギは朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の国鳥でもあります。

カササギは朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の国鳥でもあります。

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◎選挙公報一式を見る

 そして春といえば、韓国は総選挙です(強引過ぎましたか)。昨日、郵便で選挙資料一式が届きました。こんな感じです。

封筒の表。世帯あたりひとつ送られてきます。以下選挙公報写真はすべて筆者撮影。

封筒の表。世帯あたりひとつ送られてきます。以下選挙公報写真はすべて筆者撮影。

封筒の裏。投票方法についての案内が。

封筒の裏。投票方法についての案内が。

 封筒のひな形は大統領選挙や統一地方選の際と同じものです。表には「第22代国会議員選挙 投票案内文・選挙公報」と書かれ、裏には投票の方法が書かれています。

 投開票は4月10日ですが、事前投票は4月5日と6日にできます。特記すべきはこの期間中、全国3500あまりのどの事前投票所でも投票できるシステムです。

 例えば、ソウルに住む人がプサンで投票することができるのです。身分証を持参するだけで他の一切の手続きは必要ありません。なかなか良くできているシステムだと思います。

 ちなみに、前回20年4月の総選挙の際の事前投票率は26.7%、22年3月の大統領選の事前投票率は36.93%とかなり高い数値でした。今回もおそらく25%を優に超えてくると思います。

 封筒の中身はこうなっています。

地元選挙区の候補者たち。2人だけ。

地元選挙区の候補者たち。2人だけ。

 こちらは私が住む金浦(キムポ)市の小選挙区の候補者のチラシです。最大野党・共に民主党の候補(記号1番)と与党・国民の力の候補(記号2番)の二人しか出ていないため、一騎打ちです。ひどい選挙です。

街中のポスター。

街中のポスター。

 こちらは街中に貼られている選挙ポスター。私はニュースレターでもずっと書いてきたように二大政党(巨大両党)の争いにうんざりしているので、困った選挙となりました。どちらかに投票しなければなりません。

内容物を並べてみました。

内容物を並べてみました。

 他には各党の選挙公報が入っていました。今回の選挙には45の政党が参加していますが、広報を入れているのは8つの政党のみです。

 左上から時計回りに「共に民主連合(比例記号3番)」、「国民の未来(同4番)」、「緑色正義党(同5番)」、「新しい未来(同6番)」、「改革新党(同7番)」、「自由統一党(同8番)」、「祖国革新党(同9番)」、「国家革命党(同15番)」となっています。

 いくつかの主要政党だけ見てみましょう。

 まずは共に民主党の衛星政党(比例用の政党)の「共に民主連合」です。

共に民主連合の広報。4月10日は「審判の日」としています。

共に民主連合の広報。4月10日は「審判の日」としています。

共に民主連合の広報。公約が書いてあります。

共に民主連合の広報。公約が書いてあります。

 「民生破綻!経済爆亡!」「無能な政府!倒れた国政!」という激しいスローガンと共に、リンゴの写真と尹大統領の顔が出てきます。リンゴは物価高の象徴として、ここ1~2か月ほどニュースを騒がせました。ひと玉1000円近い金額で売られていることもありました。世界一の高値でした。

 尹大統領の顔の隣には「梨泰院惨事、チェ上兵殉職事件捜査外圧、楊平(ヤンピョン)高速道路ゲート、ブランドバックの授受、株価操作疑惑」と書かれています。

 150人以上が亡くなった22年10月の梨泰院での転倒事故の前後での対応のまずさ、そしてニュースレターでも取り上げたチェ上兵殉職(パク大佐の「抗命」事件)の真相究明、そして残りの3つは尹大統領の妻・金建希(キム・ゴニ)女史と義母にまつわるスキャンダルです。

 これらを尹大統領の失政と「非理」の象徴とする共に民主党の姿勢がよく分かります。10大公約の先頭にも「金建希特別検察法など改革法案の再推進」とあります。

 この法案は国会で可決されましたが、尹大統領が拒否権を行使し、差し戻しとなったあと廃案となりました。1987年の民主化以降、過去のいかなる大統領も身内への捜査を防がなかったもので、実際に尹大統領がはじめてその慣例を破りました。これは前号の巻頭コラムでも少し触れました。

 他の公約には、「出産と育児の国家責任制」や「グリーンへの転換、カーボンニュートラルを達成し気候危機を克服」などが並びます。

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 次は、与党・国民の力の衛星政党「国民の未来」の広報です。

国民の未来の広報資料。

国民の未来の広報資料。

 こちらは表紙に「切実に、心の底から仕事がしたいです」と記し、比例候補35人がすべて手書きでメッセージを書いています。

 10大公約も書いてあります。こちらは先ほどの金建希氏の一件ような個人を対象にしたものはなく、教育・保育や脱北民への支援強化など「皆がよく暮らせる社会作り」といった当たり障りのない内容です。

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緑色正義党の選挙公報資料。

緑色正義党の選挙公報資料。

 次は左派政党の「緑色正義党」です。緑の党と正義党が選挙連合を組んだものです。

 政策では「気候、労働、人権、地方」と二大政党との差別化ができており、特に「気候経済部」の新設など、今回の選挙戦において話題になった「気候有権者(気候問題への対策を投票行動の指針にする有権者)」のニーズに応える政策なども出しています。

 広報の最後では正義党の「顔」であった故魯会燦(ノ・フェチャン)議員の「より左に、より右にではなく、より下へ行かなければならない」という言葉が強調されています。

 そんな同党ですが、支持率の伸びは全くかんばしくありません。小選挙区では頼みの沈相奵(シム・サンジョン)元代表も落選が濃厚、比例でも議席配分のための最低条件となる得票率3%の壁を越えられず、議席無しで終わる可能性も高くなっております。

 韓国メディアの記事を見ても、正義党は今回の選挙をもって一旦出直しになるという論調です。

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 次は記号6番、李洛淵(イ・ナギョン)元総理の下にまとまっている「新しい未来」です。

上が金大中、下が盧武鉉さん。

上が金大中、下が盧武鉉さん。

 金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)という韓国進歩派の2人の大統領の写真をあしらい、李洛淵氏をはじめとする同党が進歩派の本流であることをアピールしています。李在明氏率いる共に民主党は亜流であるというメッセージです。

 公約(社会ビジョン)は5つ。民主主義、持続可能な未来、福祉国家、均衡の取れた外交・安保としっかりしたものです。私が見る限り、各党広報の公約の中で最も手堅いものでした。

 とはいえ、同党も苦戦が続いています。世論調査では1~3%の間を行き来しており、議席獲得は不透明な状況です。

 ただ、共に民主党、国民の力と三つ巴になるはずだった「世宗(セジョン)甲」選挙区で、共に民主党候補が資産申告に不備があり党から除名されたことで、新しい未来の金鍾民(キム・ジョンミン)候補に議席獲得のチャンスが出てきています。

 金候補は共に民主党で最高委員まで務めた人物で、李在明代表に反旗を翻し党を離れた人物です。民主党の票田であり、韓国民主化運動の聖地・光州(クァンジュ)に李洛淵代表が出馬していますが、こちらは当選が難しそうです。

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 あと二つだけ見ます。

 次は、李俊錫(イ・ジュンソク)元国民の力代表が作った「改革新党」の広報です。

改革新党の広報。

改革新党の広報。

 10大政策を見ると一つ目の「科学技術覇権国家を目指す挑戦」に始まり、「未来世代のための教育改革」、「女性公務員の兵役義務化」、「スタートアップ支援」を通じた地方活性化など、若い改革的なイメージの公約が並びます。

 しかし、実際の支持率は低迷を続けています。どの世論調査でも3~4%台となっています。李俊錫代表をはじめ43人が首都圏を中心とした小選挙区に立候補していますが、どの小選挙区でも議席獲得は難しく、比例で少数議席の獲得にとどまる形になりそうです。

 一方で、同党の候補者が保守票の分散をもたらし、結果として進歩派政党にとってプラスにはたらく結果になると見られ、一部では「国民の力」との候補一本化が必要という声も出ています。しかしそれが現実化する可能性は低いというのが、一般的な論調です。

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 最後は「祖国革新党」です。

 表紙を見ても分かるように、曺国(チョ・グク)代表を全面に押し出した広報となっています。

「3年は長すぎる」という曺国代表。

「3年は長すぎる」という曺国代表。

10大政策と比例候補者たち。10議席は固いでしょう。

10大政策と比例候補者たち。10議席は固いでしょう。

 曺国代表の写真の上には「3年は長すぎる」とあります。これは3年の任期を残す尹大統領を引きずり降ろすという意味で、右の「検察独裁早期終息」という言葉とつながるものです。

 10大政策(公約)の先頭は「検察改革」で文在寅政権んで法務部長官を務めた際に、尹錫悦検察総長(当時)率いる検察と衝突したイメージの延長線上にあるものです。

 次は「社会権先進国、第7共和国」とあり、これも一つの目玉と言えそうです。韓国の改憲は1987年が最後です。その後の人権概念の拡大に合わせた内容に憲法を合わせ、新たな時代を作るというものです。他の公約は他党との差別化は特にありません。

 同党は依然として比例投票先として高い支持率を持っています。各種世論調査で20%を超え、調査によっては30%を超え1位になるものもあります。この勢いは投票日まで続くでしょう。

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 余談ですが、改めて各政党の公約を見ると、韓国は福祉国家を目指すのがベストではないかと思ってしまいます。

 保守も進歩も国家による手厚い子育てや介護支援を一様に約束しているためです。韓国の有権者は日本よりも国家の役割を重要視する傾向が顕著で、福祉国家は過去、盧武鉉政権(03年~08年)の際には国家ビジョンとして研究が進んでいました。

 とはいえ実際には「そのために税金を上げる」というタブーにはどの党も触れないのが現実です。目標は見えているのに、これを政治的に進めていくことができないというジレンマ。これもまた政党間の対話が不在である韓国政治の現状を物語っていると言えそうです。

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◎選挙の行方は?依然として野党が有利

 31日、有権者の数が確定しました。選挙管理委員会によると有権者は4428万11人。4年前の前回総選挙よりも0.6%(28万5764人)増加となりました。

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