[38号 K-3] Kカルチャーまで動員!南北対決に踏み切る韓国政府、国連機関復帰で活発化する北朝鮮外交など 全10トピック

今号は南北関係と朝鮮半島問題を扱うニュースレターになります。
徐台教(ソ・テギョ) 2024.03.14
サポートメンバー限定

 サポートメンバーの皆さん、アンニョンハセヨ。

 韓国は総選挙の話題、それも主に政局報道のような意味のないもので持ちきりですが、その裏で朝鮮半島問題はさらに複雑に、危機は置き去りになっています。

 朝鮮半島は最大の変数と言える米大統領選を11月に控え、一見すると「凪(なぎ)」のように感じられるかもしれませんが、そこで起きている変化は小さくありません。関連国を説得し対話局面に持ち込むべき韓国政府が南北対立の旗を振っていることから、今も緊張関係は続いています。

 なお、発行日についてですが、選挙取材や他の重要な仕事と並行しているので本来の水曜日よりも一日遅れました。

 しかし発行日(曜日)にかかわらず、このニュースレター一本でその週の朝鮮半島情勢の動きが分かるようにするので、今後ともご心配(?)なきようお願いいたします。

 今号の目次は以下の通りです。

◎南北関係

(1)尹錫悦大統領が『3.1節』記念辞で北朝鮮との共存不可を強調

(2)統一部が24年事業計画を発表し「北朝鮮を変える」と言明

(3)外交部も24事業計画を発表、北朝鮮の包囲網強める計画

◎朝鮮半島情勢

(1)米政府の立場に変化(?)も「時間切れ」

(2)金正恩氏が相次いで軍事訓練を指導、「ソウル攻撃演習」か

(3)活発化する北朝鮮外交、国連機関の復帰間近

◎ショートニュース

(1)FAOが北朝鮮を18年連続で食糧支援国家へ指定

(2)開城工業団地支援財団が解散へ

(3)「韓半島平和」を取り下げた韓国外交部

◎資料を読む

(1)衛星資料を活用した北韓経済指標調査分析(23年、KAIST)

◎あとがきに代えて:韓国は戻れるか

それでは始めます。

***

◎南北関係(1):尹錫悦大統領が『3.1節』記念辞で、北朝鮮との共存不可を強調

 『3.1節』とは今から105年前の1919年3月1日、大日本帝国による植民地統治からの独立を願い立ち上がった、植民地期最大の朝鮮人独立運動を記念する日です。この時に民族代表33人により発表されたのが『己未獨立宣言書』、一般的に『3.1独立宣言』と呼ばれるものです。

 「私たちは今日の朝鮮が独立した国であり、朝鮮人がこの国の主人であることを宣言する」という一文で始まる宣言では、朝鮮を併合した日本を感情的に憎むよりも、朝鮮民族が自らを正すことに力点を置き、日本に対しては「朝鮮の独立は朝鮮人が正当な繁栄を成すようにすると同時に、日本が間違った道から抜け出し、東洋に対する責任を果たすようにするものだ」と説きます。

 その上で「私たちは飛び上がって起き上がる。良心が私と共にあり、真理が私と共に進んで行く。老若男女の区別なしに暗く朽ちた古い家から飛び出し、世の全てと共に楽しく新しく蘇るだろう」と朝鮮民族に奮起を促します。

 この時、朝鮮半島の津々浦々で朝鮮人は同時に立ち上がり、路上に出て「朝鮮独立万歳」の声を上げました。この時から3か月間、当時の約1700万人の人口のうち、50万人から200万人が運動に参加したとされ、総督府による鎮圧で約7500人以上の朝鮮人が死にました。

 解放翌年の1946年から一貫して国慶日となっている『3.1節』はこんな由来がある日であるため、本来この日の大統領のメッセージは日本に向けたものが主になってきました。

 しかし今年の記念辞では、日本に対し過去の歴史への反省を問う代わりに日韓両国が「自由、人権、法治の価値を共有し、共通の利益を追求し、世界の平和と繁栄のために協力するパートナーとなった」と簡単に済まし、北朝鮮へのメッセージに力点が置かれました。

『3.1節』で記念辞を述べる尹錫悦大統領。大統領室提供。

『3.1節』で記念辞を述べる尹錫悦大統領。大統領室提供。

***

 少し長くなりますが、該当部分を抜き出してみます。ゆっくりと読んでみてください。私は演説は必ず原文を読んだ上で論じるべきだと思います。

「尊敬する国民の皆さん、3.1運動は皆が自由と豊かさを享受する統一をもってようやく完結するものです。
 私たちは今や、すべての国民が主人である自由な統一韓半島に向かって、進まなければなりません。
 北韓は依然として全体主義体制と抑圧統治を続け、最悪の退歩と困窮から抜け出せずにいます。 北韓政権はひたすら核やミサイルに依存し、2600万の北韓住民を塗炭の苦しみと絶望の沼に閉じ込めています。
 最近では、私たち大韓民国を第1の敵対国であり、不滅の主敵と規定しました。嘆かわざるを得ません。
 統一は韓半島に限った問題ではありません。北韓政権の暴政と人権蹂躙は人類普遍の価値を否定するものです。自由と人権という普遍の価値を拡張するのが統一です。私たちの統一努力が、北韓の住民にとって希望となり、灯火(ともしび)とならなければなりません。
 政府は北韓住民に向けた支援の手を引っ込めることはせず、北韓の人権状況の改善に向けた努力も、止まることはないでしょう。脱北民が私たちと共に自由と繁栄を享受できるよう、暖かく懐に抱いていくでしょう。
 政府は今年から7月14日を<北韓離脱住民の日>に制定しました。これを機に、私たちの国民みなが脱北民により対し、より温かい関心を持って配慮することを願いします。
 統一は私たち一人では成し遂げられない至難の課題です。国際社会が責任ある姿勢で共に力を合わせなければなりません。自由な統一大韓民国は、北東アジアはもちろんインド太平洋地域と全世界の平和と繁栄に寄与するでしょう。
 私は大韓民国の大統領として、このような歴史的、憲法的な責務を果たすために最善を尽くします。
 尊敬する国民の皆さん、今、私たちは時代史的な大変革の岐路に立たされています。己未獨立宣言書の精神を再び起こし、自由を拡大し、平和を拡張し、繁栄の道に進まなければなりません。
 その道の終わりにある統一に向けて、皆の心を集めなければなりません。私たち政府が、情熱と献身をもって先頭に立って走ります。共に手を結び、新しく希望ある未来を開いていきましょう!
尹錫悦大統領『3.1節』記念辞(2024)より
***

 いかがでしょうか。一番大事な部分は二行目の「私たちは今や、すべての国民が主人である自由な統一韓半島に向かって、進まなければなりません」というものです。

 これは1988年の盧泰愚(ノ・テウ)大統領が『7.7宣言(民族自尊と統一繁栄のための特別宣言)』を出し、南北関係が平和共存基調を共有し始しめて以降、大統領が最も明確な形で吸収統一に言及した一文と言えます。

 つまり、昨年末に金正恩氏が南北間の「同族性と同質性」を否定し、南北間が敵対する国家関係としたことを受け、建前としての平和共存すら完全に打ち捨てたものと判断できます。

 さらに「自由と人権という普遍の価値を拡張するのが統一だ」という尹大統領の発言からは、統一と北朝鮮の全体主義が相容れないものであるという認識がはっきりと読み取れ、統一イコール金正恩体制の滅亡であることがよく分かります

 このように、南北は今、完全に本音をぶつけ合う「言葉の戦争」を行っています。

 それでも過去の南北関係には「建前」がありました。

 例えば、戦争も辞さない姿勢で北朝鮮に臨んだ朴槿惠(パク・クネ)元大統領の演説を見てみましょう。特に過激だったとされる2015年8月15日の光復節演説でも、南北が協力する過程の先に統一があるというお題目は維持されていました。

 それが今は、南北共に飾りを捨て、正面からノーガードで殴り合っているものと見てよいでしょう。

 「自由な統一韓半島に向かって、進まなければなりません」というのは、今年になって金暎浩(キム・ヨンホ)統一部長官が使う「自由の北進政策」という言葉と通ずるものです。

 少なくとも尹錫悦政権の残り3年2か月の任期中は、この基調が変わることはないでしょう。どこまでエスカレートするのか不安です。

 そしてこの尹錫悦大統領のメッセージを受け、一週間後に統一部は新たな事業計画を発表しました。次はそれを見ていきましょう。

***

◎南北関係(2):統一部が24年事業計画を発表し「北朝鮮を変える」と言明

 統一部は3月8日、「2024年統一部主要業務推進計画」を発表しました。タイトルは「‘南北韓の住民すべてが自由と豊かさを享受する統一’、2024年を自由民主主義統一基盤を構築する元年に」というものです。

 ニュースレターで何度か触れてきたように、韓国の金暎浩長官の今のお気にいりのフレーズは「自由の北進政策」です。

 これは韓国の初代大統領・李承晩が主張した「北進政策」「北進統一」のいわば亜流で、武力でなくKカルチャーや人権意識といったいわばソフトパワーによって金正恩政権に対抗し、最終的にはこれを倒すというものです。

統一部は実際に「Kカルチャー」を南北関係における武器として使っています。3月11日には「南北の境界を越えるKカルチャーの力」という大学生が参加するシンポジウムも開かれています。統一部提供。

統一部は実際に「Kカルチャー」を南北関係における武器として使っています。3月11日には「南北の境界を越えるKカルチャーの力」という大学生が参加するシンポジウムも開かれています。統一部提供。

 統一部によると、7日、金暎浩長官は尹錫悦大統領に統一政策の方向を報告しました。

 金長官はこの席で「統一は2600万の北韓住民も自由と豊かさを享受できるようにする民族史的な課業であり、自由と人権という普遍の価値を拡散する世界史的な課業」であると述べたそうです。

 また「北韓の金正恩政権が大韓民国を敵対国家と規定し、民族と統一を消していく今こそ、わが政府が揺るぎなく統一国家を志向しながら、私たちの統一ビジョンを積極的に提示する時点である」と明かしたとのことです。

 こんな一連の発言は、「民族史的」「世界史的」という言葉の意味のない大仰さを除けば、その考え自体はとりたておかしなものではないと思います。いつまでも北朝鮮の住民の抑圧された状況を朝鮮半島の「常数(秩序)」としておくことはできないでしょう。

 一方で韓国が一貫して統一を掲げるということもまた、絶対に必要なことです。これを韓国が放棄してはいけません。

 ですが、統一部が今回提示した事業計画を実行に移す際には、大きなハレーションが南北間に起きるでしょう。

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