「北朝鮮人権」掲げ差別化はかる尹政権、南北軍事合意は風前の灯火、中東情勢と朝鮮半島など12トピック|第6号
サポートメンバー(有料会員)の皆さん、アンニョンハセヨ。
ニュースレター第6号をお届けいたします。今号は南北関係・朝鮮半島情勢を中心にお届けします。それにわずか数日で中東世界は一転してしまいましたね。どうしても朝鮮半島を中心に考えざるを得ないのですが、戦争の二文字が近づいてくるのを感じます。
今号の目次は以下の通りです。
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韓国から見た南北関係(1):統一・国防・外交、国政監査の資料から見る韓国政府の現状認識
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韓国から見た南北関係(2):正当性としての北朝鮮人権...金正恩政権下の「韓国人拉致被害者6人」問題が再点火
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韓国から見た南北関係(3):『9.19南北軍事合意』をめぐる陣営間の争いが激化、新任国防長官が本格参戦
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韓国から見た南北関係(4):ハマスとイスラエルの「戦争」が韓国に投げかけるもの
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朝鮮半島情勢(1):「北朝鮮は核を使えるように」米国が9年ぶりに『WMD対応戦略』を更新
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朝鮮半島情勢(2):朝鮮半島の平和を求める署名20万筆、米国務省に伝達
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朝鮮半島情勢(3):「現物」が動き始めたロシアと北朝鮮
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朝鮮半島情勢(4):大勢の脱北者が中国から北朝鮮へと強制送還
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ショートニュース:「韓国を助けない」米国世論調査の衝撃/北朝鮮YouTubeの購読・寄付は「申告対象外」/「日本に過去を問わなかったように、南北問題も画期的に解きほどけ」著名宗教人・法輪和尚の一括/仮想通貨で2000億円、暗躍する北朝鮮のハッカー
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あとがきに代えて:国防部から毎日届くお知らせメール
内容が多いのですが、いずれも重要なニュースです。小分けにしてごゆっくりお読みください。
◎韓国から見た南北関係(1):国政監査資料から見る韓国政府の現状認識
韓国では年に2回、各省庁の動向を概略的に把握できる機会があります。年頭の大統領への業務報告と、秋にある国政監査です。いずれも資料が公表され、各省庁が何をどう行おうとしているのか、行っているのかをデータと共に知ることができます。
10月10日から国政監査が始まりました。24日間にわたって開催されます。さっそく南北関係や朝鮮半島情勢に関わる、統一部・外交部・国防部が作成した資料が公開されましたので、まずは軽いジャブという形で内容をかいつまんで紹介します。
・統一部資料
まずは朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が持つ韓国への認識についてです。
北朝鮮は韓国に対し強硬な基調を維持しているとしながら、(1)先制的・攻勢的な核使用の脅しを露骨に行っている、(2)当局・民間の区分なしに交流・接触の中断続く、(3)対南戦術として「国家性」を取り上げ「大韓民国」という表現を使用、としています。
(1)は文字通り、核兵器が最前面に出てきている状況を指し、(2)は南北の交流が全く無いということです。(3)については韓国を同質性を持つ存在として認めず、距離感を置きながらも馬鹿にするニュアンスが込められています。
次に対外認識です。
(1)情勢悪化の原因を米国に転嫁し、非核化の意志がないことを表明、(2)韓米日の安保協力に対応し、中露との連帯を強め制裁回避を企図、(3)6年ぶりに国連安保理で開かれた北朝鮮人権問題に関する公開会議に抗議、(4)アジア大会など国際大会への参加を再開した、とまとめています。
独自の道を歩んでいるということになりますね。現状では南北朝鮮が全く交わっていないことが分かります。
距離感を見据えるこんな姿勢は、「韓国は今後、南北関係をどうするのか」という部分にもよく表れています。
尹錫悦政権の北朝鮮政策は22年8月に発表された『大胆な構想』というもので、今回の資料でも真っ先に紹介されていました。変わらずこの構想を維持しているということです。
中身は核を放棄するならば経済開発を支援するというもので、李明博(イ・ミョンバク、在任08年2月~13年2月)の『非核・開放3000』と似たものに思えます(同じ人が立案しているとされます)。
ですが内実には立派な(?)差があります。
それは「段階に合わせて」という表現が入っていることです。「まずは核廃棄」という北朝鮮の圧倒的な譲歩が前提になっていない点は現実的です。さらに、経済インセンティブ以外にも、政治・軍事面でのインセンティブが非公開ながらも提示された点も評価できます。
しかし、落とし穴がありました。
初めから「完全な非核化」の内容について南北で合意してこそ、対話が始まるというのです。さらに「対話(Dialogue)」は「抑止(Deterrence)」と「断念(Dissuasion)」という段階のあとにようやく訪れるとされ(3D戦略)、まずは北朝鮮が核開発を諦める決定を下すことが前提になっています。
つまり、金正恩氏が「核を放棄することを心の底から決めました!」と表明し、それを韓国政府に納得してもらうことになります。北朝鮮が核開発を国の発展権とまで結びつける今、ハードルが異常に高いというのがすぐに分かります。対話は無いと見る他にありません。
10月3日、ドイツを訪れ「ドイツ統一の日」記念式に参加した金暎浩統一部長官。左はショルツ首相。統一部提供。
こんな中、統一部は別の方向から北朝鮮に対する「攻略」を進めようとしています。
実は今、統一部が行っている活動の中で、最も重要なものが「統一の未来を描き直すこと」です。
何やらとても良い事のように聞こえますが、実際は1994年8月15日に制定された『民族共同体統一方案』に沿って過去30年間、韓国が蓄積してきた南北関係のノウハウや哲学をリセットしようというものです。
そしてその上に新たに何を打ち立てるのかを今、統一部が研究しています。
キーワードを見ると「自由、人権、疎通、開放などの普遍的価値の具現」とあります。また、憲法4条に沿って「自由民主的基本秩序に立脚した平和的統一」を推進するとしています。
統一部の他に新たな統一方案を作る政府組織として『統一未来企画委員会』が運営されており、見解を合わせたものを『民族共同体統一方案』30周年を迎える来年、発表しようというのです。
その一部が韓国メディアによって、さっそく公開されました。
なんと、「韓民族」と「南北連合」を取り除くいうのです。
現行の『民族共同体統一方案』は和解協力→南北連合→完全統一という三段階統一論で「過程としての統一」を重要視するものでしたが、同じ民族であることを重要視せず、南北の人々や物資が行き来するという過渡期も考えないという風に、ガラリと変わることになります。
これはつまり韓国による「北朝鮮吸収統一案」に他なりません。おそらく来年、この件について韓国で大きな議論が巻き起こるでしょう。「オールド保守・進歩vs新右翼(ニューライト)」という構図になる可能性があります。
一方で尹政権はこんな大転換の正当性を「人権」に求めています。これは次の項で説明します。